タイムリーパー浦島太郎
休日釣りをしに海に向かう、いつものおっさん達に会釈をし、釣り糸を垂らす。
特に狙いは無いけれど、食えるものならラッキー程度に考える、波は寄せては帰りまた寄ってくる、何度も空に惹かれながらも地を這う、自分の気持ちが波と混ざり合う。
「あっ、ヒット」
慎重にリールを巻く体にかかる負荷で推察するに、かなりの大物……の………はずだった───
「いやぁ助かるよ、キミ名前は」
「虎太郎です」
大物の正体は和服を着た男、何処かで撮影でもしていたのだろうか。
「私は浦島だ、礼に先ほど貰ったこの箱をあげよう」
浦島……そして箱……十中八九玉手箱だろう、まさか爺さんになるとは思わないが、デカいイタズラである可能性が高い。
周りに居たおっさん達も俺が人を釣った時点で何処かに行ってしまった、恐らくテレビのドッキリだろう。
「いや、いいです」
「そうか、腹が減ったから、この玉手箱の中身を食べようかと思ったんだが」
「その箱……開けない方がいいよ」
浦島さんが疑いを知らない目で玉手箱を見つめ、思わず口を挟んでしまう。
「なぜだい?」
「多分……死にますよ」
浦島太郎の最後は、竜宮城に居た期間の老いを、一気に過ぎる、浦島さんが竜宮城に居た期間は浦島太郎のそれとは比べ物にならないはずだ。
「別にいいさ、人生に悔いは無い、腹が満杯まで飲んで食って騒いだからな、お主はどうだ」
………悔いは無い、けれど今死ぬ理由は無い
「まだまだ生きたいから、じゃあな浦島太郎」
釣り竿を持ち砂浜に向かう、子供心は玉手箱の中身が気になったが………俺は竜宮城に居なかったから、老化しないのでは──
急いで浦島太郎の所に向かうが、浦島太郎のいた場所には、和服と空の玉手箱しか置いて無かった。
不思議な夏の一時だった、空に惹かれる気持ちは凪いでいった。




