表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

7.ディモスの回想

****



「 …っ…ごほ…っ……がは…っ……」


赤い絨毯に蹲ったまま、オティリオは血の混じった唾液を吐き出した。切れたくちびるから、血の味がした。


「 …っ……アンナリーザ……」


壁に寄りかかるようにして立ち上がり、よろよろと足をもつれさせながらも歩き出す。


『お前、邪魔だよ 』


長い脚で腹を蹴られ、そのまま顔面を殴られた。抵抗する間もないことだった。オティリオが一瞬気を失っていた隙に、アンナリーザもダンテと名乗ったあの男も、姿を消していた。



「 ……?なんだ…?」


大広間までたどり着き、鈍い痛みに顔を顰めながら扉の前で立ちすくんだ。


音がしない。


鳴り響く音楽も、男女の笑い声も、何もかもが聞こえない。


なにか焦りに似た恐怖を感じて、慌てて扉を押し開く。


「…これは 」


思わず息を呑んでいた。


大理石の床には、グラスや食器が割れて散乱していた。楽団がいたのであろう場所には、楽器がそのままにして放置されていた。それだけではなく、ところどころに血痕が飛んでいる。


「坊ちゃま……!! 」


「 マルロ…!!」


影にでも隠れていたのだろうか、老齢の男がばたばたと姿を現した。オティリオの父であるシルヴェリオに仕える執事のマルロである。


マルロは皺だらけの顔に安堵の表情を乗せ、それからオティリオの怪我に気がつくと眉間に皺を寄せた。


「 坊ちゃま、そちらの怪我は…」


「 これは…いや、それよりここの話だ。生誕祭は、どうしたんだ」


マルロは視線を彷徨わせると、オティリオの手を引く。


「 ともかく、お屋敷へ帰りましょう。馬車のなかでお話いたしますから」



がたがたと馬車が揺れる。マルロに手渡された手拭いで頬を拭いながら、オティリオはくちびるを噛む。


「 …そうか、セノフォンテが……」


ファミリーの一つであるセノフォンテ家が、生誕祭の最中に突如として侵入し、銃で周囲を襲撃。辺りは混乱状態に陥ったものの、駆けつけた衛兵たちによって侵入者たちは捕らえられたという。


「 ベルテ子爵令嬢、それからキナッリャ伯爵、ドミニチ男爵夫人が重傷を負い、他にも多くの貴族や使用人が怪我を…」


「…そうか、わかった 」


「陛下が此度の生誕祭は即時中止とし、貴族の皆様方もすぐに帰路につかれました。私めはお坊ちゃまを探しておりましたゆえ、見つけられてほんとうに良うございました 」


セノフォンテといえば、革命派筆頭とも呼べるファミリーである。当主ロメオを中心として、過激な襲撃を繰り返しながらも平民ーー特に貧困層での支持を広げていると聞く。


「 ………マルロ」


「はい、なんでしょうか、お坊ちゃま 」


「 ダンテ、という名前に聞き覚えはあるか?」


マルロは少しだけ考えるように白い髭を撫でると、頷いた。


「 ダンテ…ダンテ=アヴォレード、でございましょうか。アヴォレード家の現当主であると聞いていますが」


やはり、そうか。


襲撃を行ったのはセノフォンテ家で間違いないというから、当主であるダンテが一人でアンナリーザのもとまで赴いたのか?それとももともとセノフォンテと共謀していた?

いや、ファミリーはファミリー同士での結束を第一とし、他を受け入れないはずだから、それはあり得ない。


であれば、ダンテは単独で訪れた、ということだろうか。


「 マルロ。屋敷に帰ったら、至急ロレンツォ侯爵家まで連絡してくれ」


オティリオは静かに顔を上げた。

青灰色の瞳に決意を乗せる。


「 ロレンツォ侯爵令嬢であるアンナリーザが、アヴォレード家の当主たるダンテに脇腹を撃たれ、そのまま誘拐されたと。」


「 ……なんですって?」


「 私の眼の前で、アンナリーザは攫われた。そんなこと、許せるはずがない」


アンナリーザは、オティリオの獲物だった。目の前でみすみす傷つけられて、そのままにしておけるほど、オティリオは甘くない。


「 アンナリーザ……貴女のドゥリオンは私だ」


地平線をなぞるように見つめた。

登ってきた太陽が、目を焼く。


まるで、妹神たるサグラティウィルーナを狩りの神ディモスに犯されて、怒りのあまりにディモスの目を焼いた光の女神エドゥアルシーナのように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ