第33話 ずさんな結末には反対です
その後のことはよく覚えていない。駆けつけた白警団に連行され、クリスやコレット店長と共にみっちり取り調べを受けたが、全部正直に話した。
白警団のオーレリアンは、なぜか取り調べ中、余裕だった。この事件はすでに解決したと言わんばかり。その上、当初、私に濡れ衣を着せた時と違い、取り調べが終わると解放もされた。
これにはコレット店長は憤慨。元々、白警団のアンチだったとはいえ、「適当に調査しているんじゃない?」とぶつぶつ文句を言っていた。
クリスもそうだ。彼も元々白警団に良い印象は持ってない。「この杜撰な対応はなんだんだ?」と違和感が強いらしい。私もそう。
とはいえ、まだシビルがどういう経緯で亡くなったか不明だ。自殺か他殺かもわからない。一旦冷静になり、コレット店長はカフェへ、私は別荘へ帰る事に。
クリスも送ってくれたが、「白警団は当てにならん!」と怒り、なぜかホテルではなく、そのまま別荘に泊まってしまう。部屋がないので、別荘のリビングのソファで寝ていたが、翌朝、事情を知ったパウラは大笑い。
パウラは「アンナが心配なんだね!」と揶揄い、クリスの不機嫌さはマックス状態。じいやも宥めていたが、もうパウラとクリスの相性の悪さは上限がない模様。こんな事件の後、不仲なクリスとパウラを見るのもストレスが溜まり、私は別荘を抜け出し、コレット店長の店へ。
店は開店したところで、他に客がいないらしい。窓辺から野鳥観察する気分でもなく、カウンター席に座り、紅茶とトーストを注文。私は犯人が死んだ事にショックだったが、コレット店長は全くそんな事はない。むしろ鼻歌を歌いながらトーストを焼き、ジャムも盛り付け、私に提供していた。
こんな時だが、トーストは美味しい。苺ジャムの甘味が身に染みる。紅茶の優しい香りも、全力で私を励ましているらしい。少し気が抜けてきた。それに相変わらず元気そうなコレット店長が目の前にいれば大丈夫そう。朝の野鳥の鳴き声は可愛らしく、余計にほっとしてきた。
私は朝食を全部平らげると、コレット店長に昨日の状況を聞く。朝からする話題ではないが、今聞かないと、永遠に逃してしまうだろう。
「ちなみに、シビルはどんな感じで亡くなってた?」
「あら嫌だ。せっかくクリスがあなたに見せないように庇ってたのに。わざわざ聞く?」
コレット店長はおかわりの紅茶を注ぎながら、呆れていたが、噂ノートを開き、当時の詳細を教えてくれた。
望遠鏡に人影が見え、怪しいと思い、追いかけたという。クリスも何か察したらしい。そして近づくと、シビルの遺体があった。しかも首吊り。踏み台も置いてあり、自殺体に見えたという。
「本当に自殺だった?」
思わず突っ込む。本格推理小説では、自殺体がそうであった試しがない。それに人為的な絞殺とロープでの首吊りでは、身体に残る跡も違う。医者がちゃんと検死すれば、こんなトリック、一瞬で論破できるはず。
「おそらく検死医、ロドルフ医者よ」
「え、そうなの?」
コレット店長は噂ノートをめくりつつ、とんでもない事実を暴露。ロドルフ医者は王族の隠し子らしい。しかもかなり上位王族で、たとえ偽の検死をしても、揉み消されるんじゃないかという。
「え、なんで?」
そんな事があったら嫌だが、過去の疫病騒ぎの時も、ロドルフ先生は適当な検死をしたという噂もあった。そもそも医者免許も王族のコネでとったもので、その腕は悪いらしい。
「そんな……」
呆れて声も出ない。
「田舎ではあるあるよ。いわば無法地帯だからね」
噂収集を生き甲斐にしているコレット店長の言葉は説得力がある。それに、ちょうどクリスもカフェにやってきた。クリスも、田舎の生まれだ。こんな話を聞いても微動だにしない。
「ロドルフが偽の検死報告をする可能性があるのか。ロドルフも犯人だろう」
クリスは、堂々と言い放つが、私は混乱。そんな田舎って無法地帯?
これでは本格ミステリのようなフェアプレイも通用しないらしい。だったら、一旦、そんな品行方正さは捨てるべき?
そんな事を考えていたら、今度はオーレリアンが入店してきた。コーヒーとドーナツを注文し、鼻歌混じりで食べていた。嫌味っぽい。私達が見つけた犯人が死に、嘲笑っているみたい。オーレリアンのメガネがきらりと光り、余計に嫌味っぽい。
もっともコレット店長は田舎でキャリア組から転落して可哀想とか言い、向こうもムッとしていたが。オーレリアンには悪いが、少し胸がスッとしたところ、また彼は笑い始めた。
「あはは、残念だな、アンナ嬢。シビルは自殺だ」
「は?」
思わず令嬢らしからぬ声が出るが、オーレリアンは畳み掛けた。
検死結果も自殺。シビルの服のポケットから遺書も発見。遺書にはトリスタン先生の殺害も告白され、自殺だと疑いようがない。
「遺書には、アンナ嬢の小説を読んで逃げられないと懺悔していたぞ。なんだよ、間接的にお前が殺した?」
「うっ……」
オーレルアンの声は、ナイフみたい。私の心にグサグサ刺してくるが、クリスもコレット店長も味方になってくれた。シビルが他に客がいた事。ロドルフの検死結果は不正の可能性がある。事件の関係者か、あるいは脅されて偽の検死をした可能性があるとクリスは訴えるが、オーレルアンは無視だ。むしゃむしゃとドーナツを貪り、これ以上ないぐらいにニコニコ笑っていた。私はなんの反論もできなかった。
「これでトリスタンの事件は解決だ」
「女のシビルがトリスタンの遺体を運べるか?」
クリスの冷静なツッコミもオーレリアンは無視。今回の事件が早期解決した為、もう王都に戻り、キャリア街道にも復帰できるという。
「だ・か・ら! もう俺の邪魔するなよ! 犯人はシビル。はい、論破」
「何の論理も推理もしてないでしょ。自分の思う通りの結末に、勝手に捻じ曲げただけよ。杜撰な結末ね。つまらない。それには反対するわ」
コレット店長の発言を無視し、オーレリアンはずっと黙っていた私に凄んできた。
「ホテルの潜入調査もするなよ。我々は全部お前達の行動を把握してるからな!」
目の前で凄まれ、これ以上、声も出ない。相手は唾も飛ばしてきたが、汚らしくてむせそう。
「アンナ嬢、推理なんてやめろ。女と子供が喜ぶような恋愛小説でも書いとけ。そしてこの極悪経営者の奥方にでもなって、家で子育てでもしてろよな!」
そう吐き捨てたオーレリアン。お金を支払うと、もう一度私を睨みつけ、帰って行ってしまったが。
「うん? だったら俺と子育てすっか?」
カフェの空気は最悪になったが、クリスのボケに私もコレット店長も、苦笑してしまった。
状況は最悪だが、容疑者は絞られてきたかもしれない。どうやらシビルも売春に罪悪感を持っていた。公表しようとしていたかもしれない。だとしたら、犯人はもっと絞られる。公表されて一番困る人物が犯人だ。トリスタン先生とシビルを殺した犯人は同じだろう。
ジスラン支配人。ロドルフ先生。セドリック料理長。
全員、シビルと関係があった人物だが、売春を公表されて一番困るのは誰?




