第34話 村は大騒ぎです
シビルが亡くなった事。そしてトリスタン先生を殺したとされる事は、あっという間に村に広まったらしい。オーレリアンが王都に戻るという噂も流れ、一応は村に平和が戻ったかのように見えたが、私はちっとも笑えない。
シビルが自殺したとはどうしても考えられない。ロドルフ先生が死因を改竄しても不思議ではない。犯人の可能性、または犯人に脅されてやった可能性もあり、この事件は解決した気などしない。
その上、村に滞在中のエドモンド編集長にせっつかれ、貧乏令嬢と極悪経営者の恋愛小説のプロットも作成中だが、うまく書けない。ストレスで髪が抜けてきた。
潜入調査でホテルの仕事をしていた時は、いいストレス解消になっていたが、今はそれもできない。オーレリアンに釘を刺されていたし、実際、ホテルに問い合わせると白警団経由で私の正体がバレている模様。潜入調査もできなくなった。
こうして部屋で一人、推理と恋愛小説のプロットに格闘していたわけだが、どちらもぜんぜん進まない。
「お嬢様。気分転換しましょ。コレット店長のカフェにでも行ったらどうです?」
「そうね……」
紅茶を持ってきたじいやからアドバイスを受けた。もうすっかりじいやは元気そうだった。
「そうね、まあ、カフェでやりますか。じいやも一緒にくる?」
「ええ。お供しましょ」
という事で事件の調査ノートと恋愛小説のプロット帳も持参し、別荘からコレット店長のカフェへ行くことに。パウラも管理人の仕事が手隙になったらしく、結局、三人でカフェへ。
いつもは空いているカフェだったが、今日は満席らしい。コレット店長によると、シビルの噂で持ちきりらしく、村人が大勢、おし寄せているらしい。カフェの外からも村人達の噂が響く。
カフェの前で待っている私達にも、噂の内容が耳に入ってきてしまう。中にはシビルに批判的な噂も多い。溜飲を下げている部外者も多いらしい。腐っても令嬢の私は、この土地の田舎らしさにため息が出てきた。
「そんなもんだよ、アンナ。田舎は下品だし、無法地帯」
パウラはそんな田舎も普通に受け入れていたが、「やっぱり噂たつと面倒だから、身体売るのはやめよ」とまで言っている。
「調子いいわ、パウラ」
「ええ。ま、田舎ではこのぐらいタフじゃないと生きていけないかも」
舌を出し、悪戯っ子のような表情を見せるパウラ。
「お嬢様、確かにそうですよ。推理も品行方正でなく、もうフェアプレイはやめましょう。ルールの隙をついて推理したら、犯人が捕まるかもしれません」
じいやがそう言い終えた瞬間だったが、カフェの客が何人か帰り、私達も入店する事ができた。
カフェにはコレット店長はもちろん、エメ、エドモンド編集長もいる。他、観光客もいたが、エメがコレット店長と噂で盛り上がり、若干引き気味に帰って行ってしまった。
「まあ、いらっしゃいよ」
もっともコレット店長に迎えられ、私もホッとしたのも事実。窓辺の席に座り、じいや、パウラだけでなく、野鳥観察しながらパフェやコーヒー、サンドイッチも楽しみ、最高の私のストレスも軽減されていく感覚がした。
カウンター席のエドモンド編集長は新聞を読みながら、コレット店長とも親しくなっているようだ。事件の詳細を聞き、「犯人が自殺? ありえんだろ。推理小説だったら、まず自殺はねぇ」と評していた。それは私も同意。コレット店長も「この人、面白いわー!」とエドモンド編集長とも打ち解けていたが。
そして、クリスもやって来た。ちょうどホテルの買収の件が片付き、現在の経営陣も一掃されたという。
「はあ、ようやく終わったぜ」
クリスも私達と同じテーブルにつき、シャツの上の方のボタンを雑に外していた。いかにも一仕事終えたという雰囲気だったが、気になる事がある。
「もしかして、ジスラン支配人やセドリック料理長、首にした?」
「もちろんだ。もうあそこは俺のホテルだしな。決定権は俺にある」
いつものように偉そうなクリスだが、ジスラン支配人もセドリック料理長も容疑者だ。この一件で何かアクションを起こしてくる可能性はある?
しかもクリスは、さらに予想外のことを宣ってきた。これにはエメ、コレット店長だけでなく、エドモンド編集長やパウラも困惑。じいやはニコニコ笑いながら、のんびりと野鳥観察にふけっていたが。
「アンナ嬢。お前、あのホテルの支配人をやれ」
「どうしてそうなの!?」
突飛な提案にまた髪が抜けそうだが、ジスラン支配人やセドリック料理も何かボロを出してくるんじゃないかという。いわばオトリ調査みたいなもの?
「クリスさん、そんなボロなんて出しますー? 突飛すぎますって。でも、まあ、ジスラン支配人も男尊女卑ですし、女のくせに新しい支配人なんててキレてボロ出す?」
「あら、パウラ。その可能性あるじゃない。いいじゃん、クリスさんグッドアイデア!」
エメの騒々しい声が響く。
意外にもクリスのアイデアにパウラもエメもノリノリだった。これにはクリスも鼻高で、さらに偉そうな顔を見せてきたが、私が支配人になったとして、本当にそんな理由でボロなど出すか?
「そんな事はいいから、アンナ嬢」
ずっとカウンター席にいたエドモンド編集長だが、ワチャワチャと事件を語る私達に呆れてきたらしく、こちらにやって来た。
エドモンド編集長の呆れ顔を見ていたら、ここに来た目的をすっかり忘れていた事に気づく。私は慌てて恋愛小説のプロット帳を取り出し、エドモンド編集長に見せた。
「はい、没」
一瞬で判断された。
「これ恋愛小説か? 何で冒頭でヒロインが殺人事件に巻き込まれてるんかね?」
エドモンド編集長のツッコミはもっともだ。これだと普通に推理小説だ。
「やっぱりクリスさんにモデルになってもらえ」
「そうでね、編集長。俺が手取り足取りアンナ嬢に恋愛を仕込みます」
「おー、クリスさん。頼もしいねぇ」
勝手に盛り上がっているエドモンド編集長とクリスに引く。私の口元はさぞ引きつっていた事だろう。
「さあ、みんな。クッキー焼けたわよ! もう発注ミスした小麦粉が余って仕方ないわ!」
コレット店長は無料でみんなにクッキーを振る舞っていた。カフェに焼きたてのクッキーの匂いが広がり、確かに別格の甘さと歯応えで美味しかったが。
こんな調子でカフェでワチャワチャと時間だけが過ぎ、推理も恋愛小説も全く捗らない。
「は? みんな、自由に騒ぎすぎでは?」
後で入店してきたマーガレット嬢は、カフェの様子を見ながら、心底引いていた。
どうやら田舎は無法地帯。このカフェも例外では無いらしい。




