第十二話
「ここならゆっくり話せるでしょう。貴方がアスラン……様を慕っていることは良くわかりました。が、譲るつもりは毛頭ありません」
そう言いながら相手を見据える。
ここは学園の隅にあるカフェテラス。
この時間は来る人が少ない。だからといって、いないわけではない。
あたりを見渡せば何人かの姿が見える。
「……」
さっきからこの人はずっと無言だ。
私と話しているところを見られたくないと思って、この人が少ないカフェテラスに移動したのに。
意味がなかったと少し残念な気持ちになったので、気分を変えるために少し紅茶を飲む。
……!美味しい。この紅茶はリピート確定だな。
「私の名前はライナと言います。貴方の名前を伺っても?」
「……カルアです」
「カルア様とお呼びしても?」
「様はいりません。元々、貴方のほうが地位が高いでしょう」
「?!」
カルアの家は、たしか侯爵だったはずだ。
カルアより高い爵位となると公爵か王族。
私の実家は公爵だけど……バレる要因になりかねないから、私の実家は伯爵ってことにしてもらっているはず。
なぜこの子は私が公爵だと気付いた?
「……何をおっしゃっておるのか存じ上げません。私の家の位は伯爵なので貴方より下ですが?」
「……では、その眼鏡を外してみてください」
その程度で私が身バレすると思うなよ。
私は迷よう素振りを見せず、ゆっくりとメガネを外す。
「……これでどうです?」
「……なんで」
私の目の色は黒。
基本、王族と公爵に生まれてくる子供の瞳の色は決まっている。
王族なら青。4大公爵は赤、緑、白、紫。
ちなみに本当の私の瞳の色は赤だ。
もしもの時用に瞳の色を変える魔法を毎日自分にかけておいて正解だった。
「なぜ、私の瞳の色の確認を?」
「……最近、貴方がアスラン様の婚約者なのではないかと噂になっているからです」
時が止まったように感じた。
私がアスランの婚約者だと噂されている……だと?
おかしいこれまでの行動は完璧だったはず。
目立つ行動もしてなかったし、名前も瞳の色も変えた。
……目立ったといえば魔法競技大会ぐらい。
もしかしたら休憩室に誰かいた?それなら納得が……。
「正直、そんなものは根も葉もない噂だと思っていました。だって、ライナさんはその……影が薄いというか……」
陰キャでごめんね。
そんな遠回りに言ってこなくていいんだよ。心にダメージを負うから。
「それに目立つ行動もお嫌いだと思っていたので、今回の交流会は譲ってくれると思ったのですが……駄目でしたね」
悲しそうに笑うカルアの目から、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「しかし、もし私が譲ってもらったとしても、貴方のようなすごい魔法を使えるはずもないので、これでよかったんだと思います」
無理を言ってすいませんでした、と頭を下げるカルアはとても誠実そうに見える。
いつもクラスのど真ん中で目立っている時とは別人のようだ。
「それでは、失礼します」
「あっ……ちょっと待ってください」
「……はい?」
「その……私がアスラン……様の婚約者なんて馬鹿げた噂、広めているのは誰ですか?」
これは聞いとかなくちゃいけない。
「広めている人は知らないですが……私が聞いた人は……」
「ベルさんです」
次の瞬間、石で頭を殴られたような衝撃が体中を駆け巡った。




