煙に巻き去る
「何千ですか……、いえ、違いますね」
ジョーは否定する。
「違うか?」
「違いますね、そうだな……何万でしょう」
抑揚の無い言葉でジョーは答えた。
その瞬間、身構え、覚悟していたチャーガマはゾッとする。
言葉の意味を、そして虚勢もない事実を述べているのだと理解した。
「ーーいや、恨まれているのであれば何十万でしょうね」
「なるほど、途方もない数、……国家単位で恨まれる事をしたというわけか」
「えぇ、そのとおりです、ですが、もっとかもしれません」
チャーガマは不思議とジョーの言葉を受け止めた。
「そうか、いやぁ、納得がいった!」
パンッと両手を叩いて音を出す。
チャ-ガマはフムフムと頷いた。
「恐ろしくはないのですか? 一応、大量殺人者と同等ですけど?」
ジョーはチャーガマの態度が気になり確認するように尋ねる。
「いやいや、それでも孫を助けてもらった事には変わりはない。それに自身が気になった事を聞いたまで、それによって態度を変えるなどという不誠実な真似はしないよ」
「そうですか……」
「それにな――ワタシには解かる。 ジョーさん、アンタは心まで染まってはいないよ。 過去に見た堕ちた者は身体の芯から黒いもやに巻き付かれたけど、アンタの中には光が見える!」
チャーガマは迷ってそうなジョーに力強く言葉をかけた。
「そうは思えませんが?」
「いや、わかるよ。 あなたが解らなくても、この眼が知っている。その光はあなたのモノか他がくれたものか判らないけどね」
チラリと髪をかきあげてジョーを見つめるチャーガマは、その手を戻すと水タバコを吸って空にゆっくりと吐き出した。
しばし後に、チャーガマは水タバコの器具を片付け始め。 敷物を付き人に渡し、その場を立った。
「それでは失礼するよ。良い場所で、いい話が出来た」
「えぇ、いい時間潰しでした」
ジョーが答えるとチャーガマは軽く笑う。
「――また、話をしよう」
そう言って去っていく。
彼の護衛の レイロウは今まで無言で話を聞いていたが、ジョーを睨むように見つめる、ジョーは気にも止めない素振りで引き続きタバコを楽しんでいるのを見ていると、何も言わずにチャーガマの後を追う。
長話ですっかり燃え尽きた煙草を変える為に小さな陶器に火皿(=キセルの先端部分)にある燃えカスを[カン、カーン]と甲高い音を鳴らして中身を捨てていく。
次をふかそうと、きざみ煙草入れの容器に手を取ると不意に彼は思った。
「あぁ……、勝手に手中にハマったみたいだな」
そのような独り言を呟くと――ジョーは煙草を吸う気になれなかった。
【いいように言われたな、まるでタヌキ親父に騙されたようだったぞ】
これまで静かにしていたスネークが急に喋り出した。
柄にある目玉のようなものがギョロリとジョーを見つめる。
「なんだ、寝てたんじゃなかったのか?」
【バカを言うな。出来る奴は必要な時に口を挟まず静かにしているものだ】
「なに、いい大人のような事をいっているんだよ」
【まぁ、お前よりも年上だから助言をしてやったまでだ】
スネークにそう言われると「ククッ」と苦笑して煙管の火口の部分を木の棒のようなモノで掃除をし始めた。
筒のような容器に煙管をしまうと立ち上がり、首回りと肩回りををゆっくりっと回すように動くと遠くを見つめた。
近くから子供の笑い声が響いていく。
***
その日の宴会のような夕飯も終わり、ジョー達は夜も深けて来る頃に、イア達が住む居住区の中でゆっくりとお茶を飲みながら食後の団欒を楽しんでいた。
「《ニャー、明日はポンちゃんと一緒に神殿に行くねぇー》」とイアが側にいるアントンとマルマに向けて報告する。
彼女の両親たちは心配しながらも気を付けるように言うと許可を出した。
「ニャッ! あした、いっしょに『神殿(=タイタロス)』にいくニャッ!」
イアはカティアとフィフィに機嫌よく話しかけると二人はイアの妹弟達を撫でながら答える。
「そういえばポンちゃんも言ってたね」、「タイタロスって何だろう? みんなで行くの?」
「にゃー? しらニェーのか? うれしい事があったり、くるしい事があったりしたにゃ、いくニャ!」
「そう言う場所なの?」
「ニャー! タイオワのまえでカンシャにゃ!」
イアが祈るようなポーズをとる。
「なるほど……行きましょう!」
カティアは 話しを聞いて答えた。
「こら、勝手に決めない。 どこにあるのかとか、どれくらいかかるとか聞いておきなさい」
ジョーはアントンに入れてもらったお茶を飲みながら注意をする。
「にゃ? ココからニャら……すぐニャ! 朝でれば昼にはつくにゃ! でも帰りはかかんにゃ!」
イアが簡単に説明をする。
「でも危険じゃないの?」
サイリアも膝に乗せたシュキマを撫でながらイアに尋ねた。
「ダイジョブにゃー! ポンちゃんも行くし、みんなでいけばいいにゃ!ねッ、とーちゃん」
「そうヨー、いマなら道はあぶナくないヨォ、ポンちゃんチの付きヒトも言ってタよ」
アントンは笑いながら承諾している。
ジョーも地元の人にそう言われては言い返す言葉が無い。
危険度を推し量る事も出来なかったからだ。
「よし、じゃあ、みんなで行こうね!」
カティアは声をあげるが――。
「ミック達は馬車の修理で行けないぞ、ニコも手伝うそうだ。 アンジー達はラビスとミレイが近くで採取したいって言ってたな」
「師匠たちは?」
カティアは心配そうに尋ねる。
「………俺たちも身体が痛くってな」
ジョーは顔を下に逸らして答えた。
「ウソッ! ウソを言いましたね!」
カティアは強く喚くが、それに反応して撫でられているリィムが「ニャー! ニャー」と反応した。
「あッ、ごめんねー、大丈夫、大丈夫」
カティアは再び優しく首回りとお腹を撫でていく。
「もう、いいじゃないの、カティアとフィフィも行きたそうだし、私達も暇でしょ?」
サイリアがそう言うと――ほぼ決まったようなものだ。
ジョーはうなだれながらも承諾した。




