煙と談話
「ワハハハハハッ ここまで来るのに大変な苦労をなさったようで……」
「いえいえ、旅とは危険と障害がつきものですので……」
チャーガマとジョーは煙草をふかしながら世間話程度に言葉を重ねていった。
――その合間に煙を吐いていく。
焚火の煙と思うほどの量を吐くチャーガマを見て、ジョーは「それにしても、水タバコと言うのはすごい煙ですね」と会話の楔のような言葉を交えた。
「えぁー、そうだなぁ。元々は虫よけ代わりのモノよ。森に入るときにみなで吸って身体に吐きかけておくのが礼儀よのぉ」
「ほぉ、そうですか。そこはどこの国も変わりなく同じですね」
「そうなのかぁ? ワタシは戦士ではないから分りかねるが……。時にジョーさん、君は戦士かね?」
鋭そうな視線をジョーは感じるが、それとは別に不思議な感覚に包まれる。
チャーガマの目は毛で塞がれているがマナの流れが微かに見えた。
「傭兵あがりですが、今は冒険者です。戦士かどうかは分りません…」
ジョーがそう言うとチャーガマは「そうかい……」と言って数秒間、考え込む。
「――すこし、尋ねたい事があるんだが。 我々は他国と交易して色々と問題を抱えている。今回の誘拐の件もそうだが、細々とした近隣の国々との交易から大々的に遠くの国にまで交易をするようになって時間をかけて協定(※『獣人友好協定』)を結び、色々としてきたが。それが良かったのか悪かったのか思い悩んでのぉ? 沢山の経験を積んだジョーさんならどう思う?」
「そうですね、たくさんの経験を積んだと言えるか疑問ですが……――」
そこまで言ってジョーは煙管を吸ってしばし考える。
――フーッと煙を吐いた。
「――多くの物事に置ける問題とは対話、思想の不足やズレがほとんどだと思います。よく話し合い、聞き合えば実は問題で無かった事が多い。しかし、少しの噛み合いのズレで大きく問題になってしまう、それは国とか立場とか種族とか色々な事が挟まるのがきっかけ。誘拐の件に関してもそうですが、まずは当事者に話を聞いてみれば良いかと思われます。以外にイアの話からでも、どうやって誘拐されたか……船か陸路かで経路が割れますから、その周辺国に圧力をかけるのも効果的かと思いますけどね、全てを捕まえるのは厳しいですけど、今後の抑止力程度にはなるかと……」
ジョーはゆっくりと話し終えるとチャーガマは「なるほど……」と同じように相槌をうった。
「しかし上手くいくかのぉ~」
「いくと思いますね。多くの人々は子供をさらって売り飛ばす等と言う非道な行いに嫌悪し義憤にかられるはずですから」
「そうかぁ~、そうならいいなぁ~」
チャーガマは2度頷く。
「なにか、あるのですか?」
歯切れ悪い願望を口にするチャーガマにジョーは不思議と聞き返した。
「なに、我々は……獣と口を悪く言われている。この見た目だから…」
少し自虐的に自らの容姿を告げる。
「―――…なるほど、過去に文化の違いで争いがあったという記録は残ってますし、非俗語のような事を言われていたと聞いています」
「そうだのぉ、よく言えば”亜人”つまりヒトではないという事を言われた」
「えぇ、よく聞く話です、知り合いがソレで大変苦労をしたと……」
「ほぉ、お友達か?」
眉が上がっているような動き、毛で分かりにくいがそのように見えた。
「友達ですか……、近い言葉で戦友、いや、同僚ですね」
「仲がよかったようで」
「いえ、まぁ、そうだといいんですけど……、ソイツが言うには差別は見た目ではなく、心の安定を取り戻す動物的本能だという事らしいです」
「――というと?」
ひとつ間を置いてからチャーガマが尋ねる。
「見た目が違うのは理解が追い付かず、そのような容姿を本能的に避ける、排斥する行動に出るという事。そして同じ見た目の集団でまとまると安心する事だと言ってました。この行動は肌の色や体格、思想の違いでも起こりうる事だと思います」
「ほうほう、なるほど……」
「そして、排斥行為をするというのは原始的、本能的な行動なのです。生き物の本能で群れを作るのに必要な秩序であり、実に動物的で“獣らしい”行動という事です。動物は群れる、そこから外れている者を排斥する、つまり見た目はヒトだが『心は獣』という相反する真理にたどり着く……と」
そのように言ってジョーはニヤリと笑った。
「なるほど! 差別する側が動物、つまり獣いう訳か! ワハハハハッ――――」
チャーガマは大声で笑って煙をふかしてむせていた。
「そう考えれば見た目など些細な事で“ヒト”として行動しようと思うなら、大事なのは心まで獣になるなという事かもしれません。もし、余計な事をいう国であからさまな不興をかうようなら、付き合いを切ってはいかがでしょうか?」
「簡単にいうのぉ~。しかし一考の余地はあると見た。いやいや、心が軽くなったよ」
チャーガマはジョーの冗談のような言い方に笑って返した。
「お役にたてたようでなによりです」
ジョーはそのまま煙管を吸い始めた。
「フフフッ、思いっきりのある意見じゃった―――」
「――いやいや、そうか……フフフッ――」機嫌よく水タバコを吸って吐くとチャーガマはジョーを再び見つめる。
「実は、謝る事がある。ジョーさんを試してた」
そう言って彼は手で自分の瞳を覆っていた毛をあげた。




