泉と煙
「しゃあぁぁぁぁぁッ」
空気を切り裂くような声が聴こえると浮いているフィフィのお腹にシュキマが空から飛び乗り、そのまま反動でカティアを巻き込む。
カティアとフィフィは不意を突かれ、身体が弛緩から緊張に変わった事により、水没するとシュキマも沈んでいった。
「……ぱぁッ!」
浮き上がる2名はこうなった犯人がゆっくりっと水面に出てくるのを捕まえる。
「シャー!」と可愛く泣いてもカティアに両手で抱えられては逃げ出すことも出来ない様子。
「もう、この、この、この、このッ、やっちゃダメでしょ、ウリャッウリャッウリャッ」
「いえ、いえ、かわいいぞ、この、尻尾、お腹、お目々」
濡れたシュキマをカティアとフィフィは撫でまわす、それも執拗に。
「にゃあッ! フニャァ―――♡ ニャッ、ニャー!」
シュキマも撫でられて悪い気はしないネコナデ声を連発していた。
バシャバシャと手足と尻尾を動かし水面を揺らして喜びを示す。
***
遠くから水遊びを観察していたジョーはゆっくりと空にキセルから吸った煙をポポポッと吐き出す煙遊びに興じている。
彼は子供の遊びを見て喜ぶタイプの人間ではない。
カティア、フィフィ、イア、パポンなどの半成熟の女性に興奮するタイプでも、サイリアのように普通の成熟をしたタイプでも、まして未成熟の女性になどに――いった具合で、邪な思いでいる訳でもない。
普通に溜まっている状態の理性的男性であるジョーは、暴走しない普遍的価値観を持った護衛を兼ねているわけで、この平和な場所では暇を持て余していた。
子供達の遊ぶ姿を確認しながら、危機の予兆も無いが、――彼と剣には近寄ってくる気配を察知していた。
【誰かきたようだ。複数で近寄ってくる】
「分ってるよ。気配を隠していないなら大丈夫だろ」
【油断大敵】
風が木々を薙いでいる時間待っていると――。
「わざわざ、すまんね。孫の面倒を見てもらって」
そう、声をかけてきたのは最近であったお偉い重役 選政官の『ゾラ・ポポロン・オビ・チャーガマ』とその護衛達であった。
「いえいえ、見ているだけですよ。面倒を見るなんて、まるで偉い人のような言い方だ。ただ、自然を慈しみ、依頼の終わった解放感に浸って休暇を楽しんでいるだけなんです。……ちなみに少女の水浴びを見て嬉しがるような心は持ってませんが」
チャーガマの問いかけにウィットに富んだ言葉で返した、水場のように爽やかに。
振り向いたジョーはチャーガマの顔を確認すると滑ったような苦笑いを浮かべていた、水辺の泥で転んだ人を見たように笑ってはいけないと言う風に護衛が無表情だった。
「こっちも、休憩させてもらおうかね」
チャーガマは近くの木の根っこに腰を降ろすと補助具替わりの杖をそこらに置いて、付き人に何かの道具を要求する。
彼と同じ種族なのか、容姿の似ている者が背中に背負っている鋲の打ってある大きめ革鞄を取り出すとチャーガマの元に届けた。
「《もう行ってええよ》」
鞄を開けながらチャーガマは指示を出した。
「《しかしですね、我々はチャーガマ様の付き添いとして……》」
付き人の1名が答えようとするがチャーガマは気にした様子も無く、小さい敷き布を地面に置いて細長い器具を組み立て始めた。
「《エェよ、少し話をするだけだ。 ここでは危険な事も無いから休んでなさい》」
チャーガマの言葉に何かを言いかけようとする付き人は顔を見合わせて言葉に詰まり、口を噤んで「《近くで休んでいます》」と、ひと言って去っていく。
だが、武人もようなライオン型の獣人は動かずに腕を組んでその場に留まった。
チャーガマはその間も器具を組み立て、下が膨らんだ金属製の容器に水を入れ、分解してある他の容器につけて、今度は上部の容器に鞄から取り出した植物の乾燥片を入れていく。
「《『レイロウ』……お主も下がって休んでなさい、ここは問題ないから》」
「《いえ、チャーガマ様、われは“ブゥーウィズ”の守護者であり、チャーガマ様を守る事が役目、外界人とふたりなどにさせられませね》」
チャーガマと護衛役は獣人語で話をしていたが、その間もジョーは煙管を吸って待っていた。
(何やら揉めてるな、まぁ、国外の者でも身分的に低いから色々な問題があるんだろうな……)
聞きなれない単語と癖のある言葉で聞き取りにくいがジョーは会話の内容を大まかに把握していく。
「《はぁ――……、ええよ、余計な事を言わんでくれ》」
チャーガマは諦めつつ、上部の容器に魔術道具の火石を入れて、煙があがってくるので蓋をした。
容器についている突起物に動物の皮で造ったと思われるホースと吸い口をつけて、思いっきり吸うとボコボコと容器から音が鳴り、少しずつ煙が上がっていく。
チャーガマの口から多量の煙と甘い匂いが広がっていく。
「これは、何か分かるかね?」
彼はジョーに質問を投げかける。
「そうですね、『水タバコ』ですか?」
「ほう、知っておるのか?」
驚いたような顔をするチャーガマ、他国では珍しいタイプで、一般的な巻き煙草のような形を取っていないので、初めて見る人では質問を一発で当てられない事が多かった。
「実物を見るのは初めてですが、文献と挿絵で大体の事を知っています」
「ワハハッ、ずいぶんと博識であられる」
「いえいえ、浅く学んでいるだけです。ですが、不思議ですね、『水タバコ』は本来室内で複数人で使用する嗜好品という話ですが、外でも吸うのとは知りませんでした」
「いや、合っとるよ。本来は室内用だが、特別に小さいのを造って貰ったんだよ。景色を見ながら吸いたくってね」
「なるほど……。気持ちは分かります。景色の良い場所で一服は最高の贅沢だ」
「わかっておるのぉ~」
タバコ談議で盛り上がるジョーとチャーガマは座りながら話し込んでいった。
分かっている人もいますが水タバコ、つまりシーシャです。
作者もよくは知らないですが、シーシャバーが近くにあって知っていました。
そもそもタバコは嗜んでないので理解不能です。




