迷宮訓練4
「ふしゃぁぁぁああああああッ」
徐々に気合をあげていくイアは尻尾を逆立てて戦闘態勢をとった。
ジョーの合図ですぐに駆け足で曲がり角に向かった。
遠くでイアの訓練の事の成り行きを見守るジョーとサイリア。
「大丈夫かな?」
「タダの訓練だろ? 危なければ止めるだけ――」
その会話をよそに、隣でいくつもの影が過ぎていく。
イアは最初の曲がり角で進行方向の確認を行った。
目はランランと光り輝き、キョロキョロと辺りを見渡した。
先ほどカティア達がやっていた行動を真似ている、あくまでも自分流に。
「ニャッ、いけんにゃ」
次の曲がり角に進んでいく。
獲物を狩る目で曲がり角に顔を突き出した。
そして――そのまま動きが停まった。
曲がり角に先に居るはずの土人形が毛で覆われて――よく見るとイアの弟達と妹にゾゾロが必死で動きを抑え込んでいた。
「『ニャー! ねーちゃん、はやくやるニャ!』」
「『いまにゃ!』」
リィムとドゥリが必死に飛びついて叫び呼ぶ。
ゾゾロは足をとって唸り、シュキマは顔に張り付いている。
「『お前たち……』」
イアは立ち尽くすが、すぐに攻撃態勢を取ると「ニャアァァァッ!」と叫んで渾身の一撃を土人形にくらわした。
壊れた土人形を見て喜ぶイア達。
何かを成し遂げたのだ。
ジョーは一連の行動を眺めながら「まぁ……失格だよな」と呟いて騒ぐ彼女達を待っていた。
***
イアの弟妹達の乱入により訓練というやり方は荒れたが、一応の体を通して、『囲われた場所の突入方法』、『袋小路の生き残り方』などカティアとフィフィの為の迷宮訓練は続いていった。
「よし、今日の訓練はここまで。かたづけをしっかりとやるように」
ジョーの号令で返事をするカティアとフィフィ。
「おわったらあそぶニャ~!」
元気よくイアが声を掛けるとゾゾロやシュキマが騒ぎ出した。
「それで、どこ行くの?」
「いずみにゃ! いくにゃ!」
「あそこねッ!」
騒ぎながら遊びに行く約束をしているようで、駆け足で片づけを始めた。
「いいか、暗くなる前に戻れよ。メシがあるから遅れるな」
ジョーは先生のように忠告した。
「「「は~い」」」
素っ気ない返事が来て、どこかにいってしまう弟子達。
不満気なジョーは何か言いたそうに見つめていた。
「いいじゃない、せっかくの遊び時間でしょ」
特訓の終わりに盛り上げた土壁や盛り土を元に戻しながらサイリアはジョーの気持ちに寄り添った回答をする。
「休みだけど、たるんでいるように思えて……。俺たちは一時的に居候をしている身だぞ?」
「いいじゃない、遊べるときは遊びたいんでしょ? それとも部屋に押し込んでおくの?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「言い過ぎると過保護になっちゃうよ……ありがとう『ノンちゃん』!」
サイリアは片付けを終えると、土精霊は地面で踊って、そのまま静かに消えていった。
「……わるいけど、ニコ。アイツらを見ていてくれないか? 後はやっておくから」
近くで片付けをしているニコに声を掛けるジョー。
「……いいぞ。それじゃあ、後は頼んだ」
「夕飯までに連れ帰ってくれ」
「あぁ……」
ニコはジョーの気持ちを察してすぐに引き受けくれた。
彼は素早く荷物をまとめるとカティア達の後を追いかけていく。
「……やっぱり過保護じゃない」
サイリアはその様子をみて小声で独り言を喋り微笑んでいた。
***
次の日には、馬車を直すための職人の先遣者がやってきた。
軽めの挨拶の後、すぐに作業に入った彼らに感心したが、それ以上にすぐに集合してくれる獣人国の本気を感じつつ、グレーとニコは共に作業の手伝いに向かっていった。
馬車を直す者と、その技能が無い者に分れるわけだが、やる事の無い彼らは邪魔にならないように寝て起きて飯を食べ、運動(修行)をするだけになっている。
変化として一日休んでいたラリーとアンジーが復活した事、そしてなにより悪意の“抜けた”『良い隣人ラリー』に変わった事だ。
悪意が消えたラリーは悟ったように精悍な顔つきであった。
穏やかな彼の指導を受けたゾゾロは終始、落ち着きのない顔をして教えてもらっていた。
それほどにラリーの欲は無くなっていた。
そして、今日は――。 パポンことポンちゃんがイアとフィフィ、カティアに会いに訪れていた。
騒動のひと段落の後、久しぶりに顔を見せたパポンは彼女達と出会うなり、「キャー! 久しぶり」と、女子会話の定型文から入り「キャッキャ、ウフフッ」という定型文の行動を繰り返し、パポンの親族とみえる護衛を置いてけぼりにして暫らく喋り続け、そうして本題の『神殿にお参りに行こう』という重要な約束をしていた。
***
ジョーは煙管を咥え、森の中のような場所で一服している。
普段から森の中での火の取り扱いにはうるさい彼にしては、ちゃんと穴を掘り、燃えカスを撒き散らない配慮をした上で水辺で遊んでいる弟子達とその友達の様子を見守っていた。
彼女達はイアの先導で水遊びを住処の近くでしている。
人工池のように造られた円形の水溜まりといくつかある壊れた石柱、歴史ある建造物があったであろう跡地で戯れている。
池のような水溜まりでカティアとフィフィがプカプカと浮いていた。
身だしなみは裸でないが下着のような肌着一枚。
漂う彼女達は一切の力が抜け、水面に浮かぶ漂流物そのもの。
「……ねぇ、フィフィちゃん。獣人国来てよかったね」
「……そ―――だね。……そのとおりだよ」
ゆったりと漂う彼女達は喋り方も穏やかになっている。
木々の間の木漏れ日から水面光が反射し、その燦々とした煌びやかな光はカティアやフィフィを輝かせていた。
「……ねぇ、みてぇ、胸が大きくなったかも」
カティアは自分の肌着の布に溜めた浮き輪代わりの空気袋を見せた。
「それって……お腹が膨らんでいるみたいだよぉ。フフフフッ……」
フィフィは笑みを零すとカティアも笑って返した。
そんな彼女達に茂みから飛び出した物体Sが飛び掛かった。




