実地訓練
ジョーはカティア達に宣言した通りにグレーを相手に実戦形式の訓練を教える事にした。
ちなみに武器代わりの木剣も持っていない。
「師匠、武器は?」
「今回は必要ない、あくまでも前衛としての動きをよく見ておくように」
弟子に言葉を掛けつつジョーは準備をして待っていてくれたグレーに軽く挨拶をして戦闘準備に入った。
「まず初めに、二人一組としての前衛の動きの参考例を教えておく、前衛に居る者はそのまま、後衛は少し距離を空けてズレておく、射線に気をつけながら移動をしていく」
ジョーは歩きながら説明してグレーとの距離を詰める。
構えは先ほどと変わらずオーソドックスに右手に剣、左手に盾の構えのグレーに対し盾方向に動きをずらした。
「盾は防御力が高いが、視界も塞ぐ、だからこのように覆いかぶさるように身体を預ける、こうだ……」
盾に取り着き、身体を預ける。
そこで横やりが入った。
「師匠、それは危険では? 攻撃されそうです、盾強撃もあります」
と、先ほどまで戦ったカティアが口を挟む。
「“いい意見だ”。だが、くっつくようにすると様々な利点が生まれる」
動きを緩やかにしてジョーは説明を始める。
「まず、距離を詰めて覆いかぶさると盾強撃の威力が減る。特にこうだ、潰して……右手に移動させるように押し込む、すると、隙間が埋まる、実は攻撃の力を生むにはある程度の距離が必要になる」
その間での一連の動きをカティア達に確認させていく。
しかし、カティアはまたも難しい顔をする。
「どうしたんだ、カティア?」
「いえ、そのままだと、攻撃が当て放題だなって思って」
「そうだな、やられると思うぞ」
カティアの疑問はジョーによって真っ向から“肯定”された。
「ダメじゃないですか?」
「ダメじゃない! むしろよく見ろ。覆いかぶさって相手の右に巻き込む、こうする事によって向こうも攻撃がやりにくい。盾があるから届きにくいし、右向きに押す事によって身体の軸がブレる、回転できない、腕が下がる、仕方なく手打ちのような攻撃でコッチは致命傷になりにくい、こんな利点がある」
グレーは軽く右腕で攻撃の動きをするが動きが鈍そうだ。
「多少傷をついても、くっついた方が徳なんですね」
「前衛だったら多少の攻撃も喰らう覚悟が無いといけない時もある。それがこういう時だ」
「なるほどぉ~」
カティアは納得の表情をした。
「次の説明にいっていいか?、こっからは攻防の変化について教えておく」
「どうぞ、どうぞ」
「まず、引っ付いた場合、やる事はこうだ!」
ジョーは地面を叩き潰した。
[ドンッ]という重い音と一緒に地面が抉れる。
「このように相手の左足の甲を潰して動けなくするか傷を負わせろ――」
ジョーはそう言うが実際にグレーの足を潰しているわけではない、その近くを踏んでいる。
「――無理なら、相手の顔面にめがけて地面の砂を蹴り上げろ、目に入れば儲けものと思って行動に移せ」
「――次に、距離を取りたい相手の場合、そのまま押し込んでくるか、一歩下がるようになる、その場合取るべき行動はこうだ」
ジョーは盾を持ったままグレーの左側に転がり盾を開かせた。
姿勢を戻して説明する。
「――ヒトの構造上、引っ張る力は強いが外に開く力には弱い、盾強撃をしようとする場合には盾が開いてしまう。この時に身体の射線が丸見えになるから後衛は魔術、又は投擲武器で攻撃する機会が生まれる」
グレーの現状とジョーの位置取りについて細かく動きを述べていく。
「――そうなったら、今度は、そのまま後方に回るか、防御したら空いた側面を攻撃すればいい」
そこまで説明し終わると、ジョーはグレーを呼んで小声で打ち合わせる。
「――それじゃあ、次の対策として盾を開かずに攻撃に移ってきた場合を想定して動きを確認する」
先ほどの同じ体勢をとり、盾を手に持つジョーはグレーと揉み合う動きを見せた。
「――先ほど、このように動くと手打ちになって致命傷は避けられると言ったがいくつか動きがある、それは盾で押さえつけて、回転切りする動きだ」
ジョーがそこまで説明するとグレーが身体を押し当て自分の右側の地面に押し込むように動き、空いたスペースでクルっと身体を回転させて剣を加速させジョーの首元で木剣を止めた。
「――こうのように、飛ばすだけではなく盾で押さえつけて斬りつける事も出来る」
ジョーはそこまで実演すると体勢を戻して立ち上がる。
そうして再び先ほどと同じようにグレーの盾に寄り掛かった。
「――それでは不味いから、このときはこう動く」
ジョーが再びグレーと揉み合いの動きをすると、今度はグレーの右側にジョーは大きく飛び出し、回転受け身をとりながら再びグレーに向かい合った。
「――わかるか? オレがこう動く事によってグレーはコッチを向かないといけなくなる。 そうなると後衛にいる者と自然と交差するように配置され、さらに右に回り込む事も出来る、こっちに盾を使えば後衛から援護が届くし、後衛に警戒すれば盾が使いにくい場面になる」
身振り手振りで戦略について説明し動きの意図をカティアとフィフィに使えていった。
「――ここまでで、何か質問はあるか?」
ジョーがそこまで言うとカティアが美しい姿勢で手をあげた。
遅れるようにフィフィも続く。
「カティア、なんだ?」
「はい! 聞きたいのは離れて地面に手をつきますよね。その時に土を握って相手の顔めがけて投げるのはアリですか?」
臆面もなくカティアは汚い手を提案する。
これまでにジョーが教えた生き汚い戦闘術講義のおかげた。
「構わない、握れる分なら思いっきり投げなさい」
ジョーに言われ彼女は強く頷く。
「それじゃあ、次はフィフィ、何の質問か?」
「あの……さきほど、相手の左足を踏むって言ってたんですけど……。右じゃダメなんですか?」
「あ――、それか。基本的に相手が右利きじゃなく左利きだったら、それもアリだけど……ちょっとグレーに構えてもらおうか」
ジョーは近くにいたグレーに防御態勢をとってもらう。
「いいか? 基本的に右手に武器を持っていたら左手に盾を構える。その時に左手は突き出すように腰から胸にかけて硬め防御姿勢をとる。その時左脚を前、右脚は後ろでつっかえるように立つ、この時に盾から右足にかけて斜めにつっかえ棒のような姿勢をするのが一般的だな。こうするのは相手の攻撃を受けやすく下がりにくくする為だ。それに次の動作、受けて攻撃に繋ぐためでもある」
ジョーの説明にグレーは合わせて動いてくれている。
「これが基本になるから、自然と左脚が前に来る右脚は遠くにある。もし、この形が逆であったなら――」
右足を前に盾を構えるグレー。姿勢は非常に不安定だ。
「――盾を押すだけで崩れる。防御も攻撃も単に使うだけではない、その時々の姿勢や位置取りが最も大事だという事だ」
ジョーが盾を押すとグレーの身体が動く。
「わかったな? 普段使わない道具と言うのはどういう動作なのか考えるのは難しい、これからは少し違う道具の訓練を取り入れよう」
ジョーがフィフィに顔を向けると彼女は頷いた。
ジョーも頷き返し「他に質問は?」と訊くとカティアが再び手をあげて、イアも手をあげていた。




