思考訓練
「うおぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ」
カティアはグレーの周りを高速で周回しする。
背後をついて攻撃を当てる為だ。
しかし、グレーは余裕でカティアを正面に捉えて攻撃する隙を与えない。
次第にカティアの旋回力と速度が落ちていき、グレーが間合いを詰めて塞いで、飛び込んできた所を吹き飛ばした。
ジョーがいったん止めて――。
「よ、予想外に、ハァ、ハァ……速い……」
息切れを起こしながら汗ばんだ表情で言う。
「グレーが速いんじゃない。カティアが遠回りをしていて。グレーは起点に沿って最短で移動しているだけだ」
ジョーは地面に枝で図のように移動線を描きながら説明する。
カティアはそれをマジマジと見ていた。
息を吸って吐いて気力を落ち着かせる。
「つまり、もっと速く動けば良いのね」
「いや、違うだろッ」
彼女の答えにすぐさま否定で返す。
「えぇッ! だってもっと素早く回り込めば……」
「見ろ、グレーは息切れも起こしてないぞ。つまり余裕があるという事だ。現状で2倍の加速をしても回り込めないだろうな」
「じゃあ、どうすれば……」
カティアは再び考える。
そして考えた後、不敵に笑った。
「思いつきました、次を始めましょう」
ジョーの掛け声と共に3本目の訓練が始る。
「ハァアああああああああああああ―――――ッ!」
気合と掛け声を合わせてカティアはグレーに飛び込んだ。
真正面からやり合うようだ。
何度も隙間から剣を突くがグレーの防御に阻まれる。
踏み込み過ぎた所で計ったようにカティアは後方に弾かれた。
グレーは前に出ようとするが、リィムとドゥリにシュキマが前に出てきて警戒の「シャー、シャー!」音を鳴らしながら仲間を守るように立ちはだかった。
「大丈夫!」
カティアはそう言って間に入った子供たちに声を掛ける。
それでも毛を逆立てて警戒を解かない3名は「虐めてるわけじゃなぞ」とグレーの言葉と、イアの「《やめるにゃ!》」という言葉で引き下がるとジョーは再び訓練を止めた。
「正面から行って何の策も無しか?」
ジョーはカティアに詰め寄る。
このような時はカティアの判断が間違っていたからだ。
「いえ、えっと……“盾を壊そう”と」
作戦を失敗したカティアは淀んだ言い方で恥ずかしそうにしていた。
ジョーはため息を吐く、そして――。
「初めの動きが一番良かった」と告げた。
「えッ、本当ですか?」
「そうだ、カティアは考えるほど悪くなるな」
「そんな事ないもん……」
不貞腐れる彼女をジョーはジッと見た。
「いいか、後ろに回る、盾を壊す。その選択は間違いではないけど、実行できるか不可能なのかの判断が悪い。そこで思考が停止してしまっては命取りになるぞ」
「でも、それしか勝てないと思ったから」
「初めから技量差があって勝てないだろうな。グレーとは経験も技術も全部向こうが上だから」
「じゃあ、どうすればよかったんですか?」
「フィフィとふたりで相手にすればよかった」
「なんで、それを言ってくれないんですか!」
「お前が話も何も聞かない奴で、一度、痛い目にあってから聞くヤツだからだ」
「そんなわけないッ!」
「いいや、聞かないね」
険悪になる師匠と弟子は一瞬の対峙をしていた。
と――、その間を「ちょっと、ちょっと」
ラビスが間に入って止める。
「わたしはカティアちゃんの動きも途中までは悪くなかったと思うのよね」
「ラビス、俺は師匠としていう事があるんだが」
「まぁまぁ、こういう時は手本を見せてあげるのが一番なのよ」
「分かったように言うなぁ~、弟子が居たっけ?」
ジョーの文句をラビスは無視してカティアに向き合う。
「いい、カティアちゃん、狙いは悪くなかったし動きも良かったと思う」
「やっぱり、ラビスさんもそう思う?」
目を輝かせるカティアにラビスは頷く。
「でもね、もっと柔軟な考え方があると思うの。『壊す』のじゃなく『使えなくする』という選択肢も持った方がいいわ」
「どうやって?」
「私がみせてあげる♡」
ラビスはそう言うとグレーに「次は私と戦って!」と地面に寝転がっているゾゾロを撫でている途中の彼にお願いする。
***
今度はカティアの代わりにラビスがグレーと対峙する。
持った武器はカティアと同じ木剣、グレーの武器も防具も先ほどと変わらない。
「じゃあ、やるよ!」
すこし、遠くで見ているカティアとフィフィにラビスは武器を振って合図を送る。
グレーは武器と防具を構える。
先ほどと同じ姿勢で待ち構えるとラビスは腰鞄から素早く何かを取り出すと小粒の種をグレーの方に投げた。
地面に落ちたらラビスは呪文を唱える。
地面から草木が突然伸びてグレーの方に絡みついていく。
特に盾の周辺に絡みついて動きを阻害していた。
「つまり、こういう事。盾を壊すではなく使えなくする。盾って面積広いから絡みやすいし何かしらの視界を塞ぐって考えれば動けなくするだけで非常に不利に働くのよ」
そういってそのまま旋回するように左に動くラビス。
グレーもその動きを見て盾を離し身体に巻き付く植物を切った。
それを見てラビスは動きを止める。
「はい、おしまい。グレーは盾を離したから、わたしの勝ち!」
おどけたようにして答えた。
「このまま斬り合ってもよかったけどな、勝手に勝負を決めるなよ」
覇気のない様子でグレーも動きを止めた。
「それじゃあ、止め!」
ジョーがふたりの模擬試合を止める合図を送った。
伸びた植物元に戻そうとしているラビスと奪われた盾を探すグレーを待っている間にジョーはカティアとフィフィに問いかける。
「これで、分かっただろ? カティアは柔らかく考える思考力が弱い、それは経験不足からくる事だからどうしようもない、だから上のいう事をよく聞くように」
「待ってください……、植物を生やす魔術は出来ないので参考にならないと思います」
トンチのような言い草にジョーは頭を抱えそうになる。
「そうじゃない、オレが言いたいのは自分より上位の相手との戦闘には複数で対応する事の必要性と、どういった相手にも、いかようにも対応する戦闘考察力の重要性を言いたいわけだ」
「でも……ひとりでも戦えるようにならないと」
カティアはこれまでの失態から言いにくそうにジョーに反論する。
ジョーも単体の戦闘力をあげる事に不満はない、むしろ必要と考えている話なので否定も出来なかった。
しかし、現状ですぐに能力があがるかと言えば違う。センスで済む場合もあれば、経験や体格、筋力量、魔力量、性別など、時間をかけるものと、本来の才能の両方のバランスの難しい問題だった。
「わかった、参考になるかわからないが、少し対処法を教えてやるよ」
ジョーはふたりにそう告げる。




