明けの訓練
ジョー達はやる事がない。
仕事を終えて帰路につければよかったが仲間の馬車の修理の為に足止め中で予定も無いので、やるべき仕事も無かったと言えばいいだろう。
故に、空いた時間を有効利用する為に多くの冒険者がする事が訓練である。実践で勘を錆びさせないようにするためだ。
あとは、隙間時間に小遣い稼ぎなど、生活の為に動くのが一般的だろうが、異国の地では伝手も無いため大人しく訓練だけをしていればいい。
幸いなことに人間の3大生活必要条件である衣食住のうち2つは無料の状況だから。
そのような理由で訓練を始めたいとアントンにお願いした所、集合住居の近くに、過去、畑を作ろうとして破棄した広場があると教えられ、その場所を借りて出来る人だけで訓練をする事になった。
「はい、遅い!」
訓練が始って3回目もカティアは転んだ。
そして身体を地面に回転させすぐに起き上がる。
「まだ、いけます」
木剣を構え、すぐに反撃出来る体勢をとった。
「いや、3回目だから交代だ。次はフィフィ」
ジョーは次の対戦相手を呼んだ。
カティアは悔しそうな顔をしてその場は下がる。
呼ばれたフィフィは返事をして構える。
ジョーは早足で近づくと乱雑に木剣を振るった。
「しっかり守る! 後衛だからって危険はすぐに近くにあるぞ! 守って貰えない事だって多い」
フィフィは返事をするどころではない。
必死にジョーの剣を抑えようとしていた。
「軸は切らない、いいぞ、転ばないように時間を稼ぐ! 後退と守りだけじゃなく、そっちで牽制もいれないとッ!」
誉めつつ、指導をしていく彼は、少し前にカティアとやり合っていた厳しめの指導と違う動きをしていた。
前衛を任せるカティアには回避、防御、攻撃を厳しくしつけ、後衛のフィフィには防御と牽制だけの動きに特化するように指導している。
さらに、カティアには行動と言葉を強めに、フィフィには褒めて伸ばすようにしていた。
――ジョーの師匠としての成長が見られた瞬間でもあった。
「じゃあ、剣術の訓練はここまで、サイリアの所で魔術の訓練をしてきなさい」
時間を置いてジョーはそう言うと、カティアとフィフィは「ありがとうございました」と指導した師匠にお礼を言った。
ジョーも指導が終わって頷く。と― カティアとフィフィの指導を見ていたイアは戦うような動作を止めた。
ついでに兄弟姉妹のリィムとドゥリにシュキマも彼女の横で真似をする動きを続けていた、しかし、それは踊りに近い。
「つぎは、あたちにゃ!」と順番を待つかのようにイアは言葉を発する。
その目は闘争に燃えていた。
「いや、止めておけよ。カティアとフィフィは向こうにいったぞ」
ジョーはそう教えるとイアはそのまま振り返り見ると置いてかれた事に気が付いた。
「にゃー? にゃにゃ?」
イアは色々悩んだ結果「あっちいくにゃ!」と告げてジョーの元を去っていた。
それにつられリィムとドゥリも追いかける。
ジョーも一息ついて木剣を振り始めると視線を感じる。
シュキマだけはついていかずジョーの姿をジッと見ていた。
剣の動きに合わせて顔を左右に振っていく。
「………」
ジョーは思う所があって素振りを止めた。
ジョーがシュキマの姿を見るとシュキマは急に立ち上がり両手をあげて可愛らしく向かってきた。
何を思ったかジョーの靴に抱き着く。
「にゃー! ニャー! にゃにゃーん!」鳴きながら今度はジョーの脚に登ろうとしてた。
「……おいおい」
ジョーは驚きつつ、その場で木剣を地面に落とし、シュキマを脚から離す為に両手を使うしかなかった。
とりあえずジョーは登ってるシュキマをひっぺがし、その場に持ち上げた。
「……《ダメだぞ、こんな事しちゃ》」――と、ジョーは注意するが「ミヤッ、ニャー」と鳴くシュキマは眩しくも希望に満ちた瞳を向けたまま、何も分かっていなそうだった。
口元の短い髭をフンフンと鳴らし『あそぼう、あそぼう』と訴えるような好奇心強い目でジョーを見ている。ただ、おかしいのは身体の重心を完全に相手に委ねて伸びあがっている所だ。
「《いいか、おじ……、おにーさん忙しいから向こう行って、あそびなさい》」
ジョーはシュキマを地面に降ろして身体ごと前と後ろを反転させる。
「……よしよし、いい子だから、向こうであそびなさい」
喉元を撫でてやるとゴロゴロと鳴くような音が聴こえた。
シュキマは歩き出し振り返り、「ニャー」と鳴いた。
それを3回繰り返したが、ジョーはカティアとフィフィとイアのいる方を指さしていた。
シュキマが過ぎた後に木剣を拾って再び独りで素振りを始めた。
***
サイリアの元で魔術訓練を続け魔力循環の為に瞑想状態にいるカティアとフィフィ、それに一緒に訓練をしていたミレイにラビスも集まって同じようにしている。
しかし、その場所にアンジーの姿は無く、ついでにラリーの姿も無い。
ふたりは昨晩の夜の運動で不参加だった。
カティアはゾゾロとニコの棒術訓練の音を感じているがそれ以上に気になる事があった。
「にゃー! ニャー にゃ! ニャー……」
とにかくリィムとドゥリが騒ぎながら背中などを叩いて来る(やさしく)等々、気になる行動を続けていた。
カティアは目を空けて「師匠! サイリア師匠! ものすごい気になる!」と訴えた。
「わ、わたしもッ!」と同じようにネコかわ攻撃されているフィフィも訴える。
「……うッ。……うん、そうね。あッ…―――」
サイリアも瞑想しながら、シュキマに胸をフミフミされていて、ある意味困っていた。
その間、イアは瞑想中に眠ったままだった。
――仕方なく、一時訓練を中断し休憩に入る――。
「ほらほら、このエロがキィめッ!」
ラビスはシュキマを抱きかかえながら地面に座り、顔を撫でていた。
シュキマは貰った干し肉を嚙みながら「ニャ――――!」と機嫌が良く鳴いた。
「師匠、つぎは何しましょうか?」
カティアは乾燥果実と水を飲みながら尋ねた。
「そーねぇ、カティアとフィフィは何がしたい?」
同じように休憩をとるサイリアは困ったように訊き返した。
そう問われ、カティアはニヤリと笑うと「そろそろ、迷宮に入る訓練をしたいです」と告げた。




