洞窟風呂5
ゆっくりと湯に浸かり続けるジョーは隣に置いた蛇腹刀のスネークが歌っている事も気にせずに旅の疲れを癒していた。
遠くには幾人かの獣人達がポツンポツンと湯に入ってくつろいでいたが特にジョー達を気に掛ける事もなく異様なるフロの入り方でも文句を言われる事も無い。
ゾゾロが湯で泳いでいる真似をしても咎める事も無く、静かに時間だけが流れ、ラリーとミック、グレーの言い争いも気になる事も無く、お湯の流れた音と一緒に雑念が洞窟の奥に消えていくように感じた。
(やっとゆっくりできるな……)
首元まで深く浸かり「あ゛ぁ~~~~~~~~~ッ……」と身体から自然に出る喜びと疲れが交ざった声を吐き出した。
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ジョーは長風呂を終え女性陣を外で待っていた。
出てきた女性陣も全員満足気だ、やはり身体を清潔にする事は全てを解決した。
そのままイアは子供たちを連れて近くの屋台に出向いて全員で食い入るようにお目当てのモノが出来るのを待っている。
買い物は入る前に話していた“クォクォナイツの実”の飲み物。
店に設置された台の上で店員の獣人の女性が慣れた手つきで籠から剥いた果実を鉈のような刃物で割って果実の汁があふれ出る、予め彫っている台の窪みに果汁が流れ、台の下でセットされていた容器に果汁が集まると、ソレを再び台の上に戻し割れた果実の中の白い何かを、別の器具でくり抜いて容器の中に入れた。
それらがまとめて1人前らしく。次々に店員は同じものを作っていく。
「《にゃ! ならぶニャッ!》」
イアの足元で待っている弟達、妹、そしてゾゾロが一斉に手をあげた。
「《こぼしちゃダメにゃ!》」
イアは幼子に注意をしながら店員から貰った果汁を配っていく。
次にカティアとフィフィに出来たヤツを手渡した。
「飲むニャ!」
「これは……中の白いのはどうするの?」
少し汗ばんだままのカティアが質問した。
「にゃ? のんだら食べんニャ!」
「そうなんだ……すこし飲んでみるね」
カティアは初めて飲む クォクォナイツの果汁を口に入れる。
「………――ふぅ…、さっぱり? でもしっかり甘くていい匂い」
貴族らしい振る舞いで味見を済ませる。
反対にガブガブと飲んでみるフィフィは「はぁ~、おいしい……」と感想を述べた。
「にゃはははッ、みんなにくばんニャ」
自分の国の食べ物が認められて嬉しそうな笑顔でイアは周りを駆けて行った。
イアに飲み物を貰ったサイリアは近くの岩場に腰を降ろし休憩をとっていた。
「ゆっくりできたか……」
ジョーが同じ容器に入った飲み物を持ちながら話しかけてきた。
振り返るサイリアは「うん!」といって頷く。
「ジョー達もゆっくりできた?」
サイリアの問いに【最高だった】と、背負われた蛇腹刀が即座に答えた。
「歌ってたもんな」
【いい湯だった。町にあるやつとは違うな、やっぱり】
「そんなに良かったの、スネーク」
【そうだな、故郷の湯だった。いい温度の風呂は嬉しいものだ】
「お前、そんなの分かんねーだろ」
【わかるわい!】
談笑をしながら風呂後の休憩をとっていく。
昼からゆっくりして長風呂入り時間が経過して陽が傾きかけた頃、獣人達が集まり始め混みあってきた所でジョーは帰ろうと思った。
まず、目についたカティア達に声を掛ける。
「もう戻るぞ」
カティアは余ったクォクォナイツの実をシュキマやゾゾロに与えている途中だった。
「帰るんですか?」
「そうだ、暗くなる前に戻らないとな……」
「わかりました、容器返してきますね」
カティア達は返事をして帰り支度を始める。
***――閑話休題。
夕食後、暗くなった後で今日も早めに寝る用意をする。
「さっさと入るんだ、……ラリー」
囚人の護送のようにミックは“いつもの”寝床に案内していく。
扉が閉められ、施錠され檻の中に取り残されたラリーは静かにふて寝を始めた。
「俺たちは少し出てくる。それまでもう、寝ていてくれよ」
グレーはそう言って去っていった。
それに合わせてミックも無言で去る。
ラリーは反応すらしなかった。
しかし、薄暗い独房のような閉鎖空間で足音が遠ざかっているのを確認したラリーは服をゴソゴソと触り始めた。
服の内側から取り出したのは折れた枝に小さな尖った石。
ラリーは物音もたてずに暫らく、周囲を伺う、そして安全を確認するとゆっくりと動き出した。
ギラギラした目で木製の格子の隙間をよく見る。
薄暗いながらも壁との接合点は手探りで確認できた。
ニヤリと笑い、接合部分を枝に纏わせた魔力と身体強化魔術で小さいながら削っていく。
―――彼はこの場所から脱出しようとしていたのだ。
誰にも気が付かれないように隠密に動いていた。
手に持っている枝も石も森の中に入った時に隙を見て服の中に隠したものだ。
彼はいかなる犠牲をもってしてもヤリ遂げると硬い決意で望んでいる。
もちろん、木製の格子はラリーの腕力でも破壊可能だ。
しかし、確実にミックとグレーに捕まる事を考えると強硬策には出られなかった。
だから、誰にも悟られるように格子を外して逃げる算段を整えていた。
そんな作業の最中に遠くか足音と振動が伝わってきた。
ラリーはすぐに作業を止めて、道具を隠し、寝床に横になる。
無害な囚人のふりを続けていた。
足音からミックともグレーとも違う人物だとラリーは確信した。
それほど、彼の神経と情熱は異様に尖っている。
階段を降りる音が近づく。
(だれだ……?)
ラリーは背中を向けている為、直視は出来ずに不審に思いながら、動こうとはしなかった。
その間にも静かに服の中に脱走道具を戻していく。
「ラリー、寝てる?」
アンジーはラリーが入っている独房に向かって声をかけた。




