酒宴→牢屋
「うえぇぇえいぃぃ……」
ラリーは顔を真っ赤にしてグレーに肩を持たれ、フラフラのまま移動していた。
酒を昼から飲みだして、――飲み続け、――日が暮れてしまっていた。
そんな状態にも関わらず、グレーの太い腕は引きずるようにラリーを介抱し、まったくもって酔っていない様子で鋭く彼の様子を見ていた。
ジョー、ニコ、アンジー、ミックにグレーにラリーはそんな状態で移動しているのにも訳がある。
“寝床”の問題だ。もちろん部屋割りのためである。
最低でも各リーダーはどこに泊まるという事を把握して動くのが普通だが今回は“特別”にミックが先導していた。
***――閑話休題――移動休題。
その場所はイア達のいる住居から下階、1階と地下の間、いわゆる半地下のような場所。
薄暗い場所に音が鳴る。
[ズズズズズッ、ガシャッ、ドコッ]
三つの音がキレイに連なって鳴るとラリーは牢屋のような場所に放り込まれた。
本来、この場所は獣人の懲罰房的な部屋になる。ヤンチャな事をした獣人を入れておく場所に使用される。
しかし、現在はラリー独りで牢屋の中に入っている。
「おい!、どういうことだッ! こらぁッ!!」
現状に気がついて木製の格子状の檻に掴まり叫び声をあげた。
しかし、ミックは感情の無い目でラリーを見続けると何も言わずジョー達の方に振り向いた。
「すまないが、俺たちはココで休む。悪いがこれは俺達の独断だ」
後ろで叫ぶ声が聴こえたが無視して話を進めるミックの表情に、これまでにない硬い決意があった。
「始めは驚いたが、どういうことか説明してもらえるか?」
ミックの提案に軽く説明を受けたが詳しくは知らないジョーは彼に尋ねた。
なぜ、ラリーを牢屋のような場所に入れるのか、アントンになんと言ったのかの説明は省かれていた。
「実はな……、コレを見て欲しい」
ミックは腕を捲って素肌を晒す。ソコには矢傷のような古傷が残っていた。
「――これはある依頼で遠くの村に行った時の話だ。古い慣習のある村で非常に排他的な扱いだったが何とか宿を借りられてな。俺はラリーに言ったんだ。『余計な揉め事を起こすなよ』と強く何度も確認した。そしたら、その夜、人妻に手を出して村人に追われ、矢をはなたれ、逃げる事しかできなかった。それはその時の傷だ」
ミックがその事を説明し終わると先ほどまで騒いでいたラリーが途端に静かになった。
取りえず侮蔑の表情でラリーを見るジョーとその他。
「その後で俺はラリーに問いただした。なぜ、揉め事を起こしたとな。――そしたらコイツはこう言った。『むこうの方から誘ってきた。手を出すつもりは無かったが、出されたら出し返すのが礼儀だ』とまったく反省していない」
悔しそうな表情を見せるミック。
「――これだけじゃない」
グレーは野太い膝をみせて切り傷を指さした。
「――依頼の為にある村に逗留していた。その村では季節に合わせて合同で結婚式をするらしく、その前々日だったらしい。そしたらコイツは事もあろうに結婚式までの間に花嫁3人に手を出し、さらにその内のひとりは村長の娘、それがバレて村人から追われることになった。傷を負い馬車もボロボロ、俺の特製の盾も無くなった。それでもコイツは反省しない、『結婚に悩んでいたら相談を受けて、慰めたんだ』と言ってきよった』
呆れるようにため息を吐くグレーは恨めしそうにラリーを睨んだ。
「ちがうッ! 2人だ! 1人はその母親だから関係ない!」
ラリーは刑の減刑を訴えるかのように告白するが――。
「どうでもいい! 手を出す事態が問題なのに、むしろ余計悪いじゃないか!節操無しッ! 少しは黙ってろ!」
ミックは閉鎖された空間に響くように怒鳴った。
それについていじけるようにラリー黙る。
情けないようにグレーは首を振り、重苦しい雰囲気に口を開いた。
「――それに、前にギルドの規約で弟子をとった時に、幼馴染の3人組だったんだが――」
グレーの語り口に「――わかった。もう不幸な話はしなくていい。わかったから」とジョーは止めた。
ジョーは場を戻すために“落ち着け”と両手を広げて仕切り直した。
「――そういう訳だ。コイツは時間が経つほど危険になっていく、もしコイツを野放しにでもしてイアの……関係者の誰かに手を出してしまったら気まずい所じゃない。それに馬車も直って無いし、『これから起こる問題』も放置できない。アントンさんには仲間が呪いのようなモノで隔離が必要だからと押し切ってこの場所を借りた。俺たちも責任をもって見張り、休むことにするから心配するな」
ミックは説明を終える。
とても不幸な未来を回避する為に彼は動いた。
もしかしたら、手を出しても笑って許してくれるかもしれない。
もしかしたら、性に積極的かもしれない。
もしかしたら、我慢してもらえるかもしれない。
もしかしたら、ラリーはおとなしくしているかもしれない。
と、もしかしたらを都合の良い想像で済ますのか、最悪な未来を想像するのかはリーダーの技量が問われる。
甘い考えを捨て、リスク回避に全力をむけるのが冒険者の本質だろう。
「いや、でもよ、疲れているだろ? 交代で見張ればいいんじゃないか?」
ラリーの処置はこのままでジョーは新たな提案をしてみる。
ラリーは手を出す前提の処置だ。
「ありがたいが、これは俺たちの問題だ。それに、ここは雨風をしのげて食事も出てくるからまったく問題ない。むしろ快適だよ」
キッパリと言い切るミックにジョーはそれ以上の提案はしなかった。
「わかった、何かあったら知らせてくれ」
「ひとつ、好奇心として知っておきたいのだが、なぜ、ラリーと組んでいる?」
ニコはミックとグレーに質問をした。
「あぁー、そうだな……槍術の才能がすごいからだ。ちなみに、それ以外は人として最低だ」
「おれもそう思う。むしろソレだけが取り柄だ。それが無かったら魔物の餌にしておいた方が世の為だ。俺はあと1回問題を起こしたらそうしようと思ってる」
間髪入れずに答えたミックとグレーに「そうか、得心がいった」とニコも納得した。
「わかったから、ここはミック達にまかせて行こうか」
ジョーの提案にニコとアンジーは頷く。
別れの挨拶を済ませ、去ろうと部屋を出ていこうとすると「少しでも脱走しようとしたら槍で刺すからな」、「おとなしくしてろよ」、「尿とかどうすんだよ!」、「そこの甕にしておけ!」、「てめーら恨むからな!」と牢屋から聴こえてきていたがジョーは無視しておく。
「やはり、仲がいいな」とニコはボソッと呟き。
そして――アンジーが怪しい瞳でやり取りを見て、そして、去っていった。
ラリーの行動を危惧しているミックの様子はこの前から書かれているよ。
しかし、性欲はどれくらい我慢できるのだろうか?
人間の3大欲求問題です。




