ココロヨユウ
歓迎のお茶会(?) が始ってから何名かの獣人がイアの家を尋ねてきて、その度に料理やお茶うけ用の軽食が運ばれて段々と賑やかになっていく。
そこからお茶会から昼食会に移行してしまっていた。
「これも大変に美味で」
煮込んだ肉を齧って味わい賛辞を述べていくジョー。
「それはケっコうヨ、ドンドンドン、たべテ」
アントンはさらに食事を進めていく。
床に置かれた食材と料理、まわりを囲むように座るジョー達、この場所にはテーブルも数多くの食器類も無かった。
文化の違いが鮮明に出た家庭料理だが、どれも美味しそうな匂いがある。
「それデ、とまルばショはネ、わかれるヨ」
食事をしながらアントンに今日の寝床の相談をしていた。
イアの家に全員が泊まれるとは思って無かったからだ。
だからアントンは近所の住民の家に分かれて泊まる事を説明していた。
「それはどうも、大変感謝します」
ジョーの言葉には一切の嫌味も無い。本当に素直な気持ちだ。
初めから近くで野宿も覚悟していた身としては雨風も凌げて、食事つきの部屋などありがたいもので、さらに宿泊費も無しだから。
「イイよ、イイよ、ボクから話スよ」
アントンは猫ひげをゆらして笑顔になって、その後で小さな果実を食べていた。
「荷物は共同倉庫みたいな所を貸してもらえるんですよね?」
「そうネ、そうネ、話しておくヨ」
「それじゃあ、俺らは明日、馬車の荷下ろしでもして準備をするかな、それでいいか、みんな」
なんとなしに仲間の同意を得るジョー、食事をしながら「あぁ」、「おーけー」、「わかった」などと返事がする。
「それじゃあ、やる事がいっぱいだな」
ジョーが呟くと、空の器に茶を注いでいたオルオンは食べながら考えているジョーをジッと見ていた。
「なにか?」
気になって声をかける。
「イや、とおクからきたナカマよ。アナタはかんがえスぎヨ、きめこミすぎ、うごいテ、きめル、とってもいいこト。でもネ、めのまエの食ジ、たのしめなイのはヨくナいよ。ココロ、すきまなイとたのシくない」
オルオンに言われ、言葉を飲み込むジョー。
せっかく歓迎してもらっているのにあれこれ考えて出された食事をおざなりにしている事に気が付いた。
――これでは逆に失礼だ。
ジョーにかけられた言葉の意味に気がつき頷くと茶器をおいたオリオンは「にゃー……」と低く弾きつけるように鳴いた。
まるで禅のような鐘をついたような声だ。
(……そうだったな)
時間に追われ、心の余裕がない事に気が付いた。
これまでに費やした“時間”は多い、これまでにまわり道が多く余計にかかっていたかもしれないが、依頼の目標であるイア達は送り届け返事ももらった。後は馬車を直して帰るだけだ。
たしかに油断や慢心は危険だが、心に余裕がないのも危険になる。
(もう、儲からない仕事だが、割り切る事にするか……)
出されたバター茶をゴクリと飲んでオリオンに向かって“余裕の笑み”を見せた。
オリオンも上機嫌で笑ったように見える。だが表情がわかりづらい。
***――閑話休題。
そして食事中の広間まで聴こえるほどの足音でカティアで早足でくる。
「見て、見て、見て。ちょーカワイイ、師匠たちも見てよ! この、かわいい子を見てあげてッ!」
甲高い声と満面の笑みでカティアの両腕に抱えられた小さい小さい獣人の赤ちゃんはみんなの前に姿を見せた。
「ほらほら、見てって! 見て見てよ!」
布だけ包まれた獣人の赤ちゃんをそのままジョーとサイリアの後ろに見せにきた。
「こら、赤子を抱えたまま走るなっ―――」
「大丈夫! 気を付けてるもん」
ジョーの言葉を被せるように遮ってカティアは目をキラキラさせたまま膝を曲げて胡坐のように座った。
その後ろからイアとフィフィが追いかけ「次、抱くのわたしだよ」とフィフィが要求する・
興奮冷めやらぬ顔でキラキラした瞳を見せたカティアはニンマリと笑って「この子はね“ミューちゃん”といいます」と言い出した。
「違うよ。イアちゃんは『フォクト』ちゃんて名前だって言ってたじゃない」
フィフィが本当の名前を告げる。
「名前より愛称だって、この子にね、こーやってやると……」
カティアは左腕全体で赤子を抱えながら右手にある指を口元に近づけると――チュパチュパとなめ始めた。
「ほら、カワイイ、すっごくカワイイ」
ピクピクトと動く耳、開かない目、懸命に吸う口元。
それらを総合してカワイイとしか連呼していないが――まとめると『とってもかわいい』と決めるしかなかった。
その後、暫くすると指を離し、「ミュー……、ミュー……」とか細く鳴いた。
「ほら、かわいい声、すっごくカワイイ」
言語脳と思考脳が完全に狂うほどイアの弟をかわいがるカティア。
毛むくじゃらの赤ん坊は抵抗も不満も言える事なく唯々溺愛されるしかなかった。
「カティアちゃん、次、わたし、わたしの番!」
フィフィの要求にカティアは悔しそうに引き渡す。
「ふあぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁ……かわいい」
フィフィに丁寧に抱かれた赤ん坊は再び鳴いた。
「ちょっと見せてよ」、「ちっちゃいでちゅねー」、「ほらミレイ、アンタよりもデカいよ」、[ポカポカポカッ]ラビスを殴るミレイ、「痛いよミレイ」
その頃には女性陣に取り囲まれてた赤ん坊フォクトはそれぞれが指でツンツンされ震えるしかなかった。
「すっごい、プルプルと震えてる―――」
笑顔のままのフィフィが異変に気が付いた。
持っている布が湿り出したのだ。
「あぁ! この子、おもらししちゃった!」
事態に気が付いたアントンとイアは直ぐに行動を起こしフォクトを抱えて奥の部屋に、そのまま初めてのお披露目は慌ただしくも過ぎていった。




