茶飲み
イアの家の大広間では慌ただしく行き交い、マルマが台所でお湯を茶瓶にいれて茶の準備をし、アントンは茶菓子を探しに棚を開けていた。
「《かーちゃん、部屋にいってるにゃ~》」
イアは弟と妹を連れて広間の奥に行くと伝えた。
もちろん、イアもフィフィも一緒だ。
それに付いていくキィボ、リィム、ドゥリにシュキマ。
「ゾゾロちゃんもこっち」
カティアがゾゾロを抱き上げる。
ゾゾロは尻尾を振りながら暴れる事なく持ち上げられた。
イアやカティアが部屋を去るのにはもちろん理由がある、1つは広間といってもジョー、サイリア、ニコ、アンジー、ラビス、ミレイ、ミック、グレー、ラリーにイアの家族とゾゾロ、それとクアンとカティアにフィフィという広間の容量を越えたであろう20人超が過ごすのには不便な事。そして、なによりイアの一番下の弟に会いに行くためだった。
「弟いるの?」
「にゃ~、うまれたばっかにゃ!」
茶瓶と容器をもって嬉しそうにイアがフィフィの質問に答えた。
「《オレもいくぞ》」
いままで手伝っていたクアンもイアに付いていくために手荷物を置いて追いかける。
そうして子供たちが去り大人だけのお茶会が始ろうとしていた。
***
格式張っている気取ったお茶会等ではなく、一般家庭の粗茶、客人を出迎えるようにおじいさんが熱いお湯の入った茶瓶と茶漉しでお茶を作り、カップに白いバターを入れて混ぜてバター茶をふるまっていく。
ジョー達はもらった茶を手渡しで隣に送り全員分に渡った所で静かにティータイムを楽しむ。
塩分のしょっぱさと乳臭いコクのある茶だが、不思議とスッキリ飲め、身体の中に温かみと心地よさをジョーは感じた。
「これ、おいしい……」
ジョーの隣にいたサイリアがボソッと嬉しそうに感想を言う。
「これ、たべル、ウマいよ」
アントンが用意したお茶うけの光沢のある何かを皿ごと出してきた。
果実を乾燥させて、それをハチミツに漬け保存用のお菓子。
「『ヨイホー』か」
「これは甘いぞ」
ジョーとニコが同時に菓子名を答えると、サイリアは「食べた事あるの?」と訊いてみた。
「昔な、獣人の知り合いが居たと話しただろ」
「ふ~ん、そうだったね」
「食べてみろよ、女の子受けのいい食べ物だから」
ジョーにそう言われ、サイリアはヨイホーを摘まんだ。
ねっとりとした触感と乾いた果実の硬さの中間のブヨブヨ感、黒茶褐色のソレから甘い香りが漂う。
興味深く口に運ぶと軽く噛んでいく。
「うん……すっごく甘い」
身体が心配になるほどの甘さを感じた。
「お茶と一緒に食べてみな」
ジョーに言われた通りにお茶を飲むと塩辛さと甘さ、それにコクが広がりちょうどよく身体に染み渡る。
「これ、美味しいかも」
ほっこりした表情でサイリアは安心感に包まれた。
そのままお茶会も進み、アントンはイア達のいる部屋に『ヨイホー』を届けに行った。
お茶も2杯目に入ってゆったりとした所でイアの爺さんが話しかけてきた。
「しょうかいがまだでス、ワァたシ『オルオン』といいまス、コッチは嫁の『サフ』といいまス、このとき、イアをすくッテもらイ、ありがとウ」
ジョーの目の前にいる老年に見えなくもない獣人、歳はニコ以上だと思える。シワなどの老齢を示す判断基準が毛によって見えないので白髪のように変型している体毛と声、動作などから判断するしかないが、目が凛々と鋭い印象を持つ。オルオンに紹介された妻(イアの御婆さん)は軽く会釈をして朗らかな表情をジョー達に見せていた。
自己紹介から妻の紹介まで“おもてなし”がひと段落ついた所でオルオンは挨拶をしたわけだが、ゆっくり茶器をとって静かに話し始めた。
「あのコが、ブジにかえってきタ、よい事ダヨ。あえなくテ、しんぱいシた、いなくなっテ、いのっタ、マイニチね。イアはやさしイ、あのコはトモダチおおい、みんなしんぱいシたヨ、ブじかえっタ、新しいナカマつれてきタ。かんげいスるヨ」
バター茶を渡してオルオンはジョー達を歓迎する言葉と座った姿勢のまま尻尾がフラフラと動いていた。
「《しばらく、世話になります》」
獣人語で短く返すとオルオンは驚いたように少し目を開きながら笑った。
「どうゾ、どうゾ、お好きなダけいてヨ」
オルオンは愉快そうに応え、イアの元にお菓子を届けたアントンも加わって歓迎のお茶会は進んでいった。




