イアの住処
「ねぇえ~、いいじゃない♡ せっかく暇になったんだしッ」
アンジーはドンッと力強く押し倒し、それと同時に馬乗りになった。
「あぁ!」
生娘のようになすすべがないまま押し倒されるジョー。
上下の関係と前後の行動はまったくあべこべのようだが成立してしまっている以上、男女の関係に発展する。
ジョーはここで思った。
(あれ? 別にこのまま進んでも全く問題ないのではないだろうか? 仕事も終わりゆっくりと過ごす事に罪悪感は無い。唯一問題があるとすればそこにいるスネークだろう。ただ、アイツは刀であり生物と言えないモノだから部屋に置いても外は無い、むしろ狸寝入りを決め込んでるなら無視してやればいいんだ。アンジーも本気だし、俺もスッキリで何も問題ないな)
――と浅はかな考えでアンジーの危険度を計り損ねている。
なによりも先ほど男の決断したばかりだというのに男の本能にしたがって翻したのだ。
これは自然とジョーの上で腰を動かし薄着になっていくアンジーの策略に嵌ったのだが、密林にあるラフレシアに寄ってくる虫の如く、本能には何よりも勝るという良くも悪くもそんな事例だろう。
――ブルッンと胸がはだける。
双子山がお越しになると、そこだけをジョー凝視した。
臨戦態勢になるかと身体が反応しようとする時――。
「ジョー、子供たちみんな寝たよ~~!」
と、疲れた声でサイリアが部屋に入ってきた。
静寂――沈黙――凝視の3点作業を入れて胸のはだけたアンジーがひと言「サイリアも交ざる?」と問いかける。
「交ざりませんッ! 何やってるのよアンジーッ!!!!」
大声で怒鳴りながらジョー達に近寄ってふたりを引きはがす。
「ちょっと痛いって」
「イイから服をきてよ!」
「わかった、わかったから」
「もう行くよ、はやく!」
「サイリア、引っ張んないで!」
嵐のように過ぎ去っていくアンジーとサイリア。
取り残されたジョーはその慌ただしい現場を過ぎ去っていく事しか出来ないまま見送った。
静かになった室内でジョーは寝具にその身を諦めたように沈める。
【ヘタレ……】
乾いた声が刀から聞こえる。
「だれがヘタレだ!」
ジョーは反論するが蛇腹刀は【ズズズッ……】、ワザとらしい寝言のような音を出して無視した。
「ちくしょう、寝るか!」
ジョーは寝る為に靴や衣服を脱いでいく。
※※※
翌朝、早くからイアの住む場所に移動する。
朝早くにパポンに別れを告げて、そのまま交易都市を出発した。
なぜ、ここまで移動が簡単簡易かと言うと昨夜の内に色々と決まってしまった。
イアが「たのむにゃー!」とパポンに依頼し「わかった」と軽く返事で翌朝には説明を受けて行動を開始する事に―――。
馬車の一団はガラガラと音をたてて切り開かれた森の中の開拓道を道なりに進んでいた。先頭はわざわざイアの父親が先導を務めてくれている、ジョーはその内の中ほどで操縦席に座って静かに操っている。
「いやー……いい天気だな」
言葉に詰まったように独り言を繰り返すジョー。
チラリとそのまま横を見る。
サイリアが不機嫌そうにどこか遠くを眺めている。
「…………」
「明日は雨が降るかな?」
天気の話が続くのは会話がない証拠だ。
先ほどから何度か話をしているが返信は無い、たまに舌打ちや無言の睨みが返されるだけだ。
「……いやらしい」
やっとサイリアからの返事がこれだけだ。
ジョーの心は折れそうだった。
(天気の話でいやらしいだと……これはダメだな)
ジョーはそのまま石像のように無言を貫いて時が解決してくれるのをまった。
ジョーとサイリアの関係とは対照的に馬車の中ではカティア、フィフィ、イアは座ってずっと喋ってきた。
「住んでいる場所って村みたいな感じ?」
「にゃー? そんにゃんじゃにゃいにゃー、山ニャ!」
「山? 山の中に家があるの?」
「ここは平地ぽいよ、山岳地帯は遠くにあるけど山なんてあるの」
「にゃ~! いけばわかんにゃ!」
「そうだ! 弟とか妹がいるんだっけ?」
「にゃ! みんなかわいいやつらにゃ! 後でしょうかいにゃ!」
「そういえばどんな名前なの?」
「にゃまえ? えっと…」
「待って! イアちゃん! 言っちゃダメ!」
急に片手を突き出し話を止めるカティア。
「急にどうしたのカティアちゃん?」
「いいことフィフィちゃん。名前って初めは自分の口から言ってもらうのが一番大事なの。初めて小さい子がわたしに言ってくれる感動を味わいたいの」
「そう言う事なら……」
「にゃ~いわにゃくていいかにゃ?」
納得のいっていない様子のイアとフィフィを置いてけぼりにカティアはキラキラと何かを空想しているようだ。
そんな時だった。イアの耳がピクッと動き「にゃ~? 見えたみたいニャ!」と立ち上がった。
「本当に?」
「とーちゃんの声がしたにゃ」
イアがそう言うとカティアもフィフィも立ち上がった。
「前に行って見てこよう」
カティアの掛け声と共にワイワイと馬車の前に移動する。
何も無いと思われた平坦な森林に突如として現れた半球体型の山。
それも1つではなく、遠くにも連続して森の中に盛り上がった山が見えた。
どちらかと言えば岩山と言う方が正しいが、所々に木々と草が自生しており、削り取ったような穴が開いている箇所がいくつもあった。
「あれがお家?」
「そうにゃー!」
「あの奥の山は?」
「トモダチが住んでんニャー!」
「どこに?」
「あのにゃかニャ!」
盛り上がって自分の住処の説明をしているイアとそれを聴いているカティアとフィフィをよそに前で操縦しているジョーは目の前に見える山と後ろに見える山が重なり視線上で双子山になるのを見て昨夜の事を思い出しニヤリと笑みをこぼした。
それを見てサイリアは「……いやらしい」と小声で呟いた。




