観光4
ジョー達は交流都市での食べ歩きツアーを終えた後で再び町の象徴であるグルミサパタの岩山に戻った。それから書状とその他いろいろの手続きを済ませて、獣人国の役人の案内で町にある宿屋を紹介されそこに宿泊する事になった。
宿と言っても建物があってその中の小部屋で――というこの世界での一般的な宿屋と違い一軒家のように小さな半円状のドームそれぞれが宿泊場所になっている。
夜も更けてある半円ドーム状の宿の一画でジョー、ニコ、アンジー、ミックの各チームの代表がジョーの宿泊する部屋に集まっていた。
「―――……つーことで、依頼は無事終了しました。書状の返事ももらったし修理の手配も済みましたのであとはゆっくりと決めたいと思います」
ジョーはこれまでの経緯と依頼の終了報告を含めた簡単な説明を終えた。
「それじゃあ、かんぱい!」
その後で、酒杯をもって飲み会に移行、ある意味仕事の区切りの打ち上げみたいなものだった。
お酒は持ち寄ったもの、ツマミはこの町で買ってきた『ボボボ』や乾燥塩つけ肉、木の実類にご当地ツマミの果物など。
「依頼終わりの酒はうまいなぁ~」
ジョーは途中で買った料理用の酒を飲みながらツマミを食べた。
ここに来るまでに何度か酒を相伴する機会はあったが移動中は控え安全な場所でしか飲めなかった抑圧と依頼の区切りのついた解放感があったのでより進んで飲んでいた。
「これ美味しいよ」
昼間に買ってきた『ボボボ』をアンジーはハツラツとした表情で食べていた。
「これも食べるか」
ニコはテーブルに置いた板と葉っぱの上でハムのようなの塊を切り分ける。
「それってなんだ?」
「『パラテ』というこの国のハムとソーセージみたいな料理だ。旨いぞ」
「ニコ爺、喰ったことあるのか?」
「昔に作ってもらった事がある、懐かしくて買ってみた」
「それじゃあ、食べようかな」
アンジーが切り分けたモノを豪快に食べ。酒を飲み、話を続けた。
ジョーと同じようにニコもアンジーも依頼に区切りがついたのが気を良くして酒が進み、自然と笑顔で話をしている。
その中で、ひとり浮かない顔をしていたのがミックだ。
ジョーがそれに気がついて、それとなく「どうしたんだ、ミック」と話しかける。
「いや、旨い料理だ」
どこか上の空に聴こえる返答。
「なんだ、悩み事か?」
ジョーはそれとなく聞いてみる。
「悩み事っていえば悩み事だな」
「どうした、難しい話なら聞くぞ。おっと、依頼料をあげてくれっていう話以外でお願いする」
「ハハハハッ、それは言えないな。もう焦げついている依頼だろ」
ミックもそう言って誤魔化しながら冗談で返答した。
たしかに、送り届ける依頼はカティアとフィフィが強制的に入った事により赤字に変わりはない。ミック達にあげる依頼料は――無い袖は振れぬと言ったところだ。
「まぁな、それよりどうした? この国でなにかあったのか?」
「いや、そうじゃない。問題は起こってないし何もない“いまのところは”」
「何か含みがあるな、これから起ころうとしているのか?」
「わからない、もしそうなったら色々と恥になるかもな」
「おいおい、それって心配し過ぎじゃないか?」
「心配事が起きなきゃいいが……、それよりもアブブロン領出てからどれくらい経ったか?」
ミックにそう言われ思い返すと「7日くらいか?」とジョーは答える。
「そうか……」
真剣な表情をしてミックは少し考えこんだ。
「それがどうかしたのか?」
「いや……、考えすぎかもしれないけど、やっぱりラ……いや、起こってもいない事に心配するのは、どうも後が悪いな……気にしないでくれ」
と、ミックは何かを言いかけて止めた。
そして、そのまま酒を飲む。
ジョーもそれ以上聴かない事にした。
「何かあったら言ってくれよ」と、気概の言葉だけを残した。
***
酒を飲み終え、話も進み、夜も更けて酒宴はお開きとなった。
「おう、じゃあな」
ニコとミックが寝床に戻るので挨拶をすると、ジョーは容器に残った酒をちびっと飲んでそのまま机の上に置くと、イスを立ってその場で両手を上で組んで背伸びををした。
「寝るか……」
飲んでやることも無くなったので寝床に入って休むことを決める。
「じゃあ、一緒に寝ようか」
と――ジョーの声じゃない返信。
振り向くとアンジーが寝床の上で横になって休んでいた。
「なんでいるッ!」と素直な驚きが口に出ていた。
「お酒に酔って横になってた」
ワザとらしいアンジーのセリフ。ちなみに酔った姿は見たことあるが泥酔した姿は見た事が無かった。
アンジーはココでワザとらしく胸元の服を緩める。
いや、十分に薄着だがそれ以上に夜の武器を見せつけてくるのだ。
「ねぇ、一緒に休まない、仲良く♡」
甘い言葉で甘言という典型的な台詞をアンジーが言うとフラッとジョーの脚が動いた。
いや、動かされたと言うべきか――自然と寝床に行こうとする。
ちなみに、そうなった場合朝まで“休む”事は無いだろう。
(まずい、流されるな!)
理性と欲情の狭間でジョーは足を停める。
本能と欲望がダックを組んで襲い掛かるのを危機嗅覚が辛うじて踏みとどまっている状態からある事を思い出していた。アンジーは『男喰らい』の異名を持つ魔性の種族アマゾネスの成年女性。
関係を持てば暫くは動けなくなるだろうと、ジョーは思い直した。
特に依頼は終わったが、完全に終わった訳ではない帰るまでが依頼なのだ――と自制をかける。しかし、脚は寝床に近寄り、自然と脇に座ってしまった。
「なぁ、アンジー、今日は大人しくしておかないか?」
ジョーは理性ある台詞でおし留まる。
彼はこれ以上流されないと心に決めた。
つまり、男の決断だった。
そう言われアンジーはジョーの傍により無言で肩を寄せる。
フワリといい匂いがジョーの鼻腔をくすぐる、彼女特有のフェロモンだと感じた。
「ねぇ、長旅で身体がつかれてるの?」
そのように言いながらアンジーはジョーも内ももにそれとなく手を置いた。
「あぁ、まぁ、そうだな。疲れてるよね?」
「それじゃあ、大丈夫だよ。一晩かけてほぐしてやるか・ら・さ」
スリスリと手を動かし徐々に脚のつけ根に手を伸ばしていくアンジーの動きは男心をくすぐる夜戦練磨を思い起こさせる。
「いや、それに、ほら、ソコで見ている奴もいるし」
それとなく部屋の隅に置かれている愛刀『蛇腹刀』に目線を送る。
俺一人ではないという合図だ。
しかしその愛刀は【ズズズ、ZZZ、ZZZ、ずッずずずい】とワザとらしい音を響かせながら寝たふりをして柄にある目はギョロリとジョー達の成り行きを凝視しているようだ。
(お前!絶対起きてるだろう!)と恨み節を炸裂させながらジョーは徐々に追い込まれていった。




