協議
席に座ったら計ったように歓迎用の飲み物と軽い軽食を運ぶために獣人数名が部屋に入り、そしてリンに道具を渡して出ていった。
リンは受け取った荷物を開いて紙と筆を準備する。
「では、始めましょうか」
コツがまず話の始めをつけようと切り出してきた。
「えぇ、ではこれを・・…」
ジョーは予め用意していた丸まった巻紙、いわゆる親書を見せる。
中身はもちろんブリューシュ王国からの親書。
「お開けしても宜しいでしょうか?」
「もちろんです」
ジョーは蜜蝋で封された巻紙をそのまま渡した。
中身は当たり障りのない文章と挨拶だろう。
もし、“重要な機密文章”ならジョーが持っている筈は無いし、最低でも封も頑丈に2重で、魔術による施しもなされたはずだ。
そうならないなら『見られてもいい』安全な文章なのだろう。
事実、コツは開けて巻紙を引き延ばすと目を通し隣にいたクゥにボソボソと相談し手紙を渡した。
「次に、ギルドと領主からの手紙です。それと確認の為、コレを」
ジョーは自分のギルドカードを見せて近くに置いた。
ちなみに、ギルドカードは専用の道具で確認しないと本物かどうかの判断は出来ないが身分の確認なら名前とランク等がある程度載っているので信用の補助程度の要素で一応の保険だ。
獣人国では冒険者ギルドという制度は無い為意味はない。
この証明板を獣人国で出しても価値はないだろう。
コツも複数枚ある書状を開いて確認していく、だが、ギルドカードには目を通した程度だ。
複数の書状には保護の経緯、保護してから行った治療や診断、獣人友好協定の確認書等々の事が書かれているだろう。
ジョー自身も詳しくはわからない、内容は確認してないからだ。
管轄の違う事には手を出さないのが重要だから中身を読むような事は無かった。
コツが協議の進行をしながら目を通し、クゥが相談し、リンが書面に書き足していく。
その役割をぼんやりと感じながらジョーは静かに時が過ぎるのを待った。
――閑話休題――。
「――それでは、これ…くらいですか……」
書状類を全て確認し終えたコツがそう言った。
「そうですね」
答弁を終えたジョーが頷く。
「少し宜しいですか」
申し訳なさそうにリンが間に入ってきた。
「なんでしょうか?」
「はい、我々は手紙からブリューシュ王国の立場を理解しています。それに貴殿の立場ももちろん理解しておりますが……。今回の件はブリューシュ王国内での出来事。使者がそのですね、“冒険者(=管轄外者)”というのはいささか疑問が生じます……」
リンにそう言われジョーは苦い顔をした。
もちろん、その質問が来ることは予想の範疇にあったが、できれば穏便に終わりたかったのがジョーとしての立場だ。
この場に最も不適当な人物はジョー以外ありえない。
なぜなら一介の冒険者であるジョーとその仲間が国家間の約束である保護要人を連れてくるなど外交上あり得ないからだ。
リンの質問にコツもクゥも彼を諌めるような素振りを見せていた。
外交上そのままにしておいた方がいい時もある。
(その疑問は当然だな……だが、正確な事は知らされてないし、あのクソギルマスとサイモンも詳しくは教えてくれなかった)
出発前に思い出される強引な依頼の経緯をジョーは思い出す。
そして、どうしたものかと考えながらジョーは口を開いた――。
「疑問は承知の上です。本来であれば受けるべき依頼では無いし、我々としてもあり得ない依頼と申し上げていい。詳細などは知らされず国からギルドを通しての依頼ですが、私の主観でもに“多少”の強引な点があったと思います。私の立場では詳しくは聞かされていませんが特別な事情があったようだと……」
「特別な事情ですか?」
リンは聞き返す。
「えぇ、“噂”程度の話なのですが、王国内で一部の貴族の反乱があったようだのです。どうやら王女の誘拐だとか色々とゴタついていたらしく、事実、一部の領主の処刑にまで発展しています。そのせいで王国内での情勢は不安定、おそらく国内の兵士を迂闊に動かせないようなので今回の件は冒険者を使った……というのが我々としての受け止め方です」
「「「なるほど……」」」
ジョーの話を聞いて3名は深く考え込んだ。
ジョーは前置きとして噂話だと言った。
つまり、噂は噂、真偽の程は定かではない。むしろ間違っている事が多い話だ。
だから嘘では構わない、それらしい理由と事実を繋いで、あるかもしれない話を伝える。
なぜならジョーにとっては何にでも変化できる。
ブリューシュ王国側の立場、それらしい理由、そしてジョーが来てもおかしくない程度の説得力が少しでもあれば十分だから。
彼らもブリューシュ王国の使者が来ない理由とジョー達が来た理由、そして、詳しい説明がない理由を勝手に補完してくれる。
「わかりました。では、そちらで何か希望することはありますか? 我々で出来る事ならご希望に添えます」
コツが代表してジョーに要望は無いかときいて来る。
「そうですね……、仲間の馬車が途中で故障してしまいまして、どこかに修理する場所と資材をお貸しください。それと修理までの滞在許可もおねがいします」
「そう言う事でしたら、可能だと思います。修理工員もお貸ししましょう」
「それはありがたい、ぜひ、お願いします」
ジョーとコツ、クゥ、リンの協議が終了し、お茶を飲んで一息つこうかという所で、ある獣人が部屋に入り近くにいたリンに耳打ちしていた。
「どうやら選政官が到着されたとの事です。会合の準備をしますので、しばしお待ちください」
「わかりました。 時間が開くようでしたら仲間の所に行かせてもらいます」
「構いません、それでは我々は失礼します」
リンが紙と筆をまとめ、コツとクゥが挨拶をした後に部屋を急いで出ていった。
部屋にひとり残ったジョーはぬるくなったお茶を飲み、棚に置いてある蛇腹刀に「おい、起きてるか」と聞いた。
【ずずずずず】
「起きてるんだったら変な事を言うな。なんだよ、ズズズズズって」
【寝てるっていう言葉らしいぞ】
「しらーなーいよ」
ジョーはお茶の入った容器を飲み干し、棚にある蛇腹刀を装備すると机にあった軽食用の果実を2、3個摘まんで部屋を出ていった。




