交易街グルミサパタ
「ミナサン、見えた」
キツネ型の獣人ンゴが馬車に近づきながら声をかけていた。
訛りと片言感があるが伝えようとしている内容は理解できる範囲だ。
ジョーは馬車に乗りながら合図をするとンゴは騎乗している羊馬と言うべきかモコモコの4足奇獣“シーム※フ※レッタ”(※発音出来る範囲で)という名前らしい乗り物の速度を落とし後ろに伝える為ゆっくりとジョーの元を離れた。
森林、それも密林に近い木々の生い茂る土地の中で巨大な平べったい岩山がドンッと巨大な擬音を発しそうな巨躯の存在感を示している。
かなり遠くに見えるのに――。
それが何故よく見えるのかと言えばジョー達の馬車が走っている場所がちょうど開墾地区だったらしく巨大に切り開かれた場所だったからだ。
農地に出来た土地らしく、そのまま巨大な岩山に向って道が伸びていた。
「ついたかにゃ?」
イアはひょっこり馬車から顔を出した。
「アレに見覚えはあるか?」
ジョーはゆっくりとした口調で尋ねた。
目印になりそうな大きく平べったい岩山。乾燥地帯であれば珍しくも無いが、唐突に密林にせり出せば目立つ塊だ。
イアは身体を停止させた後「パーラ! パーラッ! “パポンチャッ”! デライッ!」大きな声で叫んだ後、馬車の中にいるパポンを呼んだ。
興奮しているのか共通語では無く獣人語がそのまま出ていた。
「どうしたの、イアちゃん?」
「ニャッ! みるにゃ――!」
「あぁ、“大地神ノ食卓 ”だね」
「そうにゃーッ!」
嬉しそうにしているイアとパポンに「なんだ、グルミサパタって?」とジョーは尋ねる。
「えっと、こっちで言う目印と言いますか、交易都市(町)?の地域象徴といえばいいのかな? 遠くからよく見るから」
パポンはなんと無しに答えた。
「あぁ、そんなモノか」
ジョーはなんと無しに理解する。
特徴的な岩や木々、めずらしい建物を目印にするのは昔からのなれ合いだからだ。
それに名前が着くのは珍しい事でも無い。
そこまで会話をしていると聞きつけたカティアやフィフィが入ってきた。
「アソコにゃー! いっぱいいるにゃー!」
「グルミサパタって、どんな所? なにか珍しいモノでもあるの?」
「いっぱいにゃ! なんでもにゃ!」
「混みあってますよ、国外品が入ってくる場所ですから」
「ポンちゃん、交易都市みたいなもの?」
「大別すればそういう言い方かな? 昔からある場所で周りから集まって色々と交換している場所だったよ」
「ニャー、よくあそんだニャ! みんなでいったにゃッ!」
「そーなんだ、ということはイアちゃんの家は近くにあるの?」
「家のちかくニャ! あそこの先のあのばしょニャ!」
「こっから見える?」
「ニャー!」
「わたしの住んでいる集落も近くにあるよ」
「ほえー、あれかな……」
「ねぇ、気になってたんだけど、この畑に生えている野菜なの? 木なの?」
「これは“クォーンの実”といって穀物だよ。パンの原料と同じかなこのタイオワでは」
「これって、そうだったの?」
「どうやって食べるの?」
「あの房をもいで、皮をはぐと黄色い粒々の実が出てくるの、それをとって乾燥させていくのよ」
「とてもそう見えない、さすが国外、いろいろ珍しい」
「クォーンはうまいニャ! 塩ふればいいだけニャ!」
「食べ方は色々あるよ。乾燥させて粉みたいにして保存するのが一般的だけど」
「後でたべるにゃー!」
「「ぜったい食べたいッ!」」
姦しく話をしていく女子軍団に置いていかれながらジョーは静かに孤独感に耐え、馬車の操作に戻っていた。
(もうすぐだな……)とこの依頼の終わりを見据えて。
***
石垣のような壁と門を通るとスグに開けた大通りに入った。
泥を固めて造ったような独特な家が立ち並ぶ場所は賑わっていた。
パポンの言ったように様々な獣人が声を掛け合い、肩に大型の荷物を持って移動し、露店のように食べ物を売っているようだ。
活気のある街並みをンゴが先頭で笛を吹きながら案内をしていく。
音を鳴らして鉄槍で目の前を移動する獣人をどかしていく粗雑なやり方だが、国家の風習なのか慣れたように馬車が通る道が出来上がっていく。
「ふぉぉぉおおおおおおおおお……」
カティアが感嘆の声をあげながら馬車の前方から街並みを見ていく。
その瞳はどことなく輝いていた。
「見て、カティアちゃん、何か焼いてる!」
フィフィも目ざとく屋台の串焼肉を発見し報告していく。
「あれ見て! 小さくて可愛い獣人の子! どこの子だろう?」
「なんだろう、あれ? 荷物を頭の上に乗ってけ運んでるの?」
「にゃー? アレはセングル屋にゃー!」
「えっと、服とか洗う職業の者達です」
「なるほど……あれは?」
「あれは国外からの塩とかの卸売りかな?」
町中の様子を確認していくカティア、フィフィ、パポンにイアは騒ぎまくった。
そして前に後ろに移動して町中の様子を説明してもらっているようだ。
その横を通ってサイリアはジョーの操作する馬車の席の隣に座った。
「どうした?」
ジョーが声をかける。
「カティア達が騒ぐからゾゾロちゃんもプミプミちゃんも起きて騒ぎ出しちゃった」
「仕方がないだろ……まぁ、子供は珍しいモノを見たらさわぐもんさ」
「その言い方だとジョーは大人だって言いたいみたい」
「実際、大人だろ?」
「どーだか」
サイリアはぶっきら棒に答えた。
「…ねぇ、この後どうなるの?」
彼女はジョーに質問をする。
「わからないけど、ンゴが言うにはお偉いさん呼んで、顔合わせ位はすると思う。まぁ、その前に“依頼のすり合わせ”で行政官みたいな人に会うんじゃないか?」
「イア達の家族とか来ているのかな?」
「わからん、国境からここまで2日間の予定だったけど俺たちが遅かったから3日間かかった。その分呼びに行く時間と伝達が間に合えば会えるんじゃないか?」
「そっか……、まぁ……会えるよね」
サイリアは会場となる岩山を見上げた。




