幕間 母を訪ねて何千里? 4
「いーな、いーな、ゾゾロちゃん、プミプミちゃんいいなぁ~」
カティアは展望室で椅子に座って不満を言い放っていた。
「落ち着け、そしたら道具の整備をしなさい」
ジョーは手持ちの短剣の汚れを取るように拭きながら指令を出す。
空いた時間は道具の細かい整備に精を出すのは冒険者として普通の事、刃こぼれ一つで死に直結するかもしれなのだから。
「え~、毎日開いた時間で道具の整備をしてますよ。少しサボっても大丈夫です」
「何度も言うけど毎日やるの。冒険者をやるなら義務というより習慣で道具の整備をしなさい」
「は~い」
「ハイは1回まで」
「ハイハイ」
「返事はちゃんとしろよ、カティア」
「でも、わたしも操縦室入りたかったし」
「それは無理だ」
「なんでですか?」
カティアはゆっくりと持っている細身の剣をじっとりした目で見つめながら汚れが無いか探していた。
「操縦席は重要な場所だ。害をなす人間は乗せられん」
「わたしは害などしませんよ、純粋に見て見たいんです」
「それでも無理なんだよ。ある一定の年齢、武器をもった人、船員を害する恐れがある人物は入れない」
「それなら騒ぎませんし、武器も置いていけば入れいるかもしれません」
「無理無理、どうやったって暗器は身体に隠せるし、魔術を使えば危ないし、冒険者をしてるなら武術の心得はあると判断されて入れません。そもそも『安全な人間の証明』とは『悪魔の証明』と一緒なんだよ」
「そんなぁ~~、絶対にむりなんですか?」
「無理だな」
「ゾゾロちゃんとプミプミちゃんは入れたのに?」
「それはこの船の船長の気まぐれだな、普通は無理だ」
「可愛くお願いしても?」
「むりむり」
「それじゃあ、どうしたら操縦室にはいれるんですか?」
「簡単な方法が1つある」
「あるんですか?」
「あぁ、飛行船を買い取ればいい」
ジョーにそう言われ、カティアは考えるが「……高すぎません」と一応は冷静な判断をした。
例えば高級な服を買う程度の決断では判断する材料は大きすぎる。
この船を買い取るなら金貨何十万枚必要になるか、王都に豪邸を建てる程の巨万の富が必要になる。
「そうだろうな、気軽にポンと買える金持ちなんで世界に何人もいないだろう」
ジョーにそう言われカティアは力が抜けるように椅子の背もたれにもたれかかった。
「はぁ……無理だ」
やっと自分の提案の無謀さを理解した彼女は細身の剣を鞘に戻し、テーブルの上におくとゆっくりと立ち上がり、近くの長椅子のソファーで幸せそうに昼寝をしているイアのお腹めがけて素早く顔を降ろした。
「にゃッ!」突然の事に動揺するイア。
訳が分からず驚いたまま固まってしまった。
「・・・・・・どうちたにゃ?」
モノを理解するのも纏まらずイアは彼女に尋ねた。
「世の中の不条理になげいているの」
「……わかんにゃいけど、すきにするニャ。ねるにゃ、あきたらポンちゃんにおねがいニャー……」
イアはそのまま2度寝の昼寝タイムに突入。
カティアは埋めていた顔を起こし、ミラーキャットの面々と一緒に会話しながら作業をしているパポンとフィフィの方を一瞬向いてまた顔を戻し、しばらくしたらイアの元から離れていった。
また、椅子に座り直すと道具の整備を再会する。
「ししょー、飛行船って便利ですよねー」
世間話程度にジョーに話しかけた。
「んぅん?……そうだな、便利だな」
空返事で応えるジョーは短剣の手入れに満足したのか元の鞘に戻していく。
「でも、なんでブリューシュ王国には飛行船場がなんでしょうか?」
「知らないのか? ドレイクが居るからだぞ?」
「ドレイクってあの火竜?」
驚くようにカティアは尋ねる。
作業も止めてしまった。
「そうだ、俺たちが前に王都行った。山林に住むドレイクの事だよ。他にあるのか?」
「ない……。でもドレイクがどうして関係するの、師匠?」
「そもそも、ドレイクは飛行能力持つ魔物だから縄張りは空にある。地上は食料を得るだけに降りて地上への意識が低い、だが逆に自分たちが生活する空を飛ぶものには獰猛だ。特に飛行船で近くを飛ぼうものなら集団で襲われて、即墜落だな」
「そんなにですか?」
「そうだ、他にも翼竜とか怪鳥類の巣とかは避けられている」
「迎撃とかはできないんですか? 武器とか大砲とか付いてましたよね」
「カティア、飛行船を万能だと勘違いしているが、そもそも飛行船全般に戦闘能力は無いぞ、大砲は煙幕弾を張る用だろうし、武器の命中も皆無だろうし」
「そんなに戦えませんか?」
「元々この船は輸送船、戦闘能力も無いよ。戦闘艇もあるにはあるが致命的な欠陥がある」
「けっかん?」
「簡単に言えば“軽いし”“脆い”という事だ」
「そうですか? 飛行船って重そうですけど、荷物積んでるし、金属で出来てるし、すごーい塊って感じがします」
「見てくれだけだよ、図体の割には金属は表面だけ、木材を多用して出来るだけ軽く仕上げている。ほとんどスッカスッカの状態にしないとこの巨大は浮く事が出来ない。それに速度も出てないし旋回能力も疑問だらけだ」
「そうですか? 馬車よりは速いですけど」
「そりゃあ比べる相手が悪い。もし、飛竜1匹でも体当たりされたら船体に穴が開くし、速度も俺たち基準で見たら速いけど、空飛ぶ魔物からしたら鈍足も良い所だ。そこら辺の鳥よりも動きは緩慢だよ」
「そんなにですか?」
「あぁ、飛行船の墜落原因は故障や地上迎撃魔術以外に一番多いのが怪鳥類や翼竜との接触だよ。だから飛行船っていうのは空路図、つまり安全な空の路を通る事を徹底してる。余計な事故が起こらないように」
「そうなんですか……どこにでも行けると思ったんですけど」
「無理だろうな、それに飛行船は最高高度があって高い山とか越えられないし、色々制限があったような」
「だから、ブリューシュ王国では飛行船は飛ばないんですね」
「そうそう、飛行場の設置費用も高いし……無理だろうな」
「絶対にむりですか?」
「……いや、帝国…大国が持っている超高度戦闘飛空艇なら翼竜の迎撃は可能だし殆どの場所にも行けるとかそんな話を聴いたな」
「ほんとうですか!」
目を輝かせるカティア。
「いや、普通の国家には買えないぞ。そもそも飛行船の建造より、維持管理するほうが莫大なカネがかかるらしい。金持ちの大国がやっと持てるのをブリューシュ王国のいち貴族が持てると思うなよ――」
ジョーが正論で説教を始めようとする。
「そーゆーのは理解してます。夢です夢、魔物を狩りまくって有名冒険者になって大陸中に轟くほどカネを稼いで、いつか、すごく強くて速い船を買ってやりますよ! そうすれば空の景色は見放題だし」
カティアはわかってますよと言うように怒りながら壮大な夢を宣言した。
「わかったよ……夢が叶ったら乗せてくれ」
ジョーが冗談ぽく言葉を返すと「いいえ、師匠は絶対乗せません」とカティアは答える。
それを聴いてジョーはクスっと笑った。
飛行船の性能について書きたかった補足部分です。
実際に飛行船は見る位置によっては速い移動手段です。
ですが空を飛ぶ能力に関して言えば遅い方かもしれません、比べるのは条件が違いますが各駅停車の電車と新幹線位の差と思って頂ければ・・・。
飛行船の戦闘能力は殆どないと思っています。昔からガス使っていますし燃えやすく風に流されやすい世界大戦の時などにスグに役立たなかった性能は折り紙付きです。




