幕間 母を訪ねて何千里? 2
呼び寄せられた子供たちを囲むような形でイカツイ船長は子供たちに向き合った。
初めて出会う人がする事第1位は――挨拶と自己紹介である。
もちろん、ニコの仲介は必要だが、だいぶ外の世界の挨拶にも慣れたゾゾロとプミプミだから――。
「ゾゾロッ!」
ニコが説明をするとゾゾロは元気に自分の名前を告げた。
「そうか、ゾゾロか、いい名前だ」
船長は2回頷く。
「プミプミッ!」
横にいたプミプミも自己紹介をした。
「うんうん、可愛らしい名前だな」
船長は怖い顔で笑顔、略して“こわえがお”の顔を見せた。
「船長の笑顔はこえーな」「あの人、実は子供好きだぞ」、「顔が怖いのが惜しいな」などと小言を言う船長の御付きをよそにゾゾロは「オッチャンは?」と訊き返した。
「オレか? オレの名は……、ウッツ・ライムっていうんだ」
溜をつくり、精一杯の笑顔を見せた。
「うっちゅらいみゅ?」
「うりゃいむ?」
ゾゾロもプミプミも言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「そうそう、そうだ……おれが船長、ウッツ・ライムだ」
ウッツは両手でゾゾロとプミプミも身体の一部(※法的に問題ない部分)を撫でる。
まるで愛玩動物を保護する並みの可愛がりだ。
「「ちゃぷてんッ!」」
ゾゾロとプミプミが反応した。
語感がよかったのかもしれない。
「よしよし、お前ら、ちょっと給仕からマップル切って貰ってこい」
機嫌よくウッツは部下に命令を出した。
―――閑話休題。
小さく切りそろえられたマップルをシャクシャクと齧りながらゾゾロとプミプミの身の上話をニコが船長ウッツとしていた。
ちなみにジュースじゃないのは、そのような機械が無い為だ。
「そうか……母ちゃんに会いてえのか……」
片手で目元を隠しながら絞るように声をだしたウッツ。
他の取り巻きも悲しそうな鼻声で口元を押えていた。
ゾゾロとプミプミが盗賊に捕まって故郷から引き離され、ひどい扱いを受けて幸運にもジョー達に見つかった辺りの事をニコが話したら自然と目元を押えていった。
「母ちゃんに会いてぇだろうな……」
「おれ、今度の休暇は故郷に戻るよ……。すげー会いたくなった」
「おふくろは昔に亡くなったけど、久しぶりに帰って墓参りでもするか……」
後ろの部下たちも感涙しているようだ。
「それで……母ちゃんにあって何がしたいんだ?」
ウッツは尋ねる。ニコを介してだが、ゾゾロは「いっぱい話すんだ」と尻尾を振りながら嬉しそうに話す。
「そうか、そうだよな……、会えねぇと思っていたのに会えるんだもんな、そりゃ話してぇよ……」
怖い顔からキレイな涙を流し、ウッツは子供たちを見た。
身体を震わせ、目の前で母と別れた小さな男の子と女の子の帰郷するありふれた話だが、
その長い道のり、時間、なによりも純粋な願いにウッツとその部下たちの心は揺れに揺れた。
「任せろッ! 俺がお前たちをしっかり送り届けてやるからな!」
船長ウッツの宣言により――。
「キャプテン、あんた最高だよ。顔は怖いけど」
「こえー顔だけど、さすが人情あふれてる。顔は怖いけど」
「尊いお人だ、さすが我らの船長、そこに痺れるあこがれるぅ~! 顔は怖いけど」
取り巻きも感動しながら船長についていった。
気をよくしたウッツは「よし、操舵室をみせてやるよ。ついてきな」と幼いゾゾロとプミプミを誘った。
ニコから説明をきいて嬉しそうにするゾゾロとプミプミは船員と騒いでいた。
***
「悪いが、あんたは入れられないぜ」
ニコにそう告げる船員。
操舵室は船の中枢である重要な機関だ。
ここを占拠されるのは船そのものを乗っ取られるという事と同意義、だから多くの場合関係者以外は乗る事も無いし、警備も厳重になるのは必須事項というか自然と守られる決まり事だ。
ニコは大人だし冒険者、武術の心得もあり武器もある、しかも身元の保証は船員からしたら確認出来ないので入るのは不可能だろう。たとえ、出自が貴族でも無理な事だ。
「わかっている、見学が終わったら展望室にでもつれてきてくれ。まってるから」とニコも事情は理解しているからお願いだけに留める。
――そういって厳重な鉄の扉と鍵が閉められた。
操舵室の内側、スグに部屋全体は見えず7、8段の上り階段を昇る。
そして、次に見えるのは一気に広がった広い空間に6名の人影が見えた。
ゾゾロとプミプミは一緒になって前に駆けだす。
広い空間に驚いたわけでは無い、空の果てまで見える広い視界に驚いたからだ。
なぜなら、鉄製の壁に設置された小さな覗き窓と違い、ガラス張りのように妨げるものが無いものが前方に広がり、雲の形がクッキリとみえている。
「おい! 小さい子供が入ってきてるぞ!」
誰かの驚いた声が響いた。
「大丈夫だ! 俺の客だぜ!」
ウッツは事情を知らない船員をなだめた。
「船長!」、「船長、もうお戻りで?」という声が艦内に響く。
「あぁ、子供の事は気にするな俺が呼んだ」
ウッツがそういうと船員は納得の表情を浮かべるが、1人だけ船長のウッツの元に歩み寄る。
「勝手に部外者を入れるとは聞いていませんが?」
「ダグラック!」
ウッツは自分と正反対の容姿のダグラックを驚いた表情で見つめる。
粗野な容姿の船長と真逆の紳士的な着こなしをした長髪の麗しい男性だが、ウッツの顔見知りだ。なぜなら自分の部下で副船長だからだが、ウッツが驚いているのは普段と違い、怒りの表情だったからだ。
「副船長として申します。相談もなく勝手に事を進めるのはよしていただきたい」
「仕方ないだろ? 子供だぜ」
「子供だから操舵室に入れるという決まりごとはありません」
「落ち着けよ。せっかくの船旅で偶然にも乗り合わせたんだ。こんな余興があってもいいだろう? 遠くから来たんだぜ。広い空を見せてやりたいだろ?」
「まったく、あなたはいつも勝手だ」
普段から振り回されているとわかる大きなため息と諦めの表情を見せて、手摺りに掴まって外の景色を浮かれながら堪能しているゾゾロとプミプミを目線の先に入れた。
そろそろ飛行船の欠陥……じゃなく構造についても触れたい。




