幕間 母を訪ねて何千里? 1
ゾゾロは今日も飛行船の下窓から地上を見つめる。
キラキラした瞳は宝物が放つ輝きに匹敵していた。
「うわぁ……」
移り行く空の景色と地上の絵は絶え間なく変化している。
飛行船の移動はそんなにも速く、そして刺激的だから。
「《みて、ひぎょの色(=ピンク)の、なんだろう……》」
ゾゾロのトモダチのプミプミは一緒に景色をみていた。
「《ほんとうだ……花かな?》」
ゾゾロは地上の景色に見とれていた。
「《あれは塩田だね》」
子守のように一緒にいるニコが答えた。
「《えんでん?》」
「《しょっぱい塩を造る場所だよ。いつも料理に使っているだろ?》」
「《あのちゃらちゃらの!》」
「《そーだよ》」
「《でも、いろがちがうよ》」
「《この地方だと、うすいひぎょ色なんだよ、塩は》」
「「《そうなの!》」」
子供たちは同時に驚いた顔をした。
ゾゾロたちは飛行船に乗っている間は何もする事は無い。
決まった時間に飯を食って寝る以外は自由な時間。
だから、貨物室にいるナワールのそばで遊んだり、船内を散策したりしながら自然と時間を潰していた。
「よちよち……」
貨物室の片隅でゾゾロはナワールを抱きしめるように撫でてやる。
[ク―ン、キューン]とナワールが気持ちよさそうに声をだしていた。
「《あたちも》」
プミプミがナワールの背中をさするようにゆっくりと毛並みを撫でまわす。
暫く後、ゾゾロ、プミプミ、ニコはナワールとのじゃれ合いを止めると帰ろうとするが、ナワールはさみしいのか、鳴き声を漏らして引き留めようと行動していた。
かれこれ、3回目のループ中だ。
「《ほら、もう行こう、ゾゾロ、プミプミ。昼ごはんの時間だよ》」
ニコにそう言われ、ゾゾロとプミプミは笑顔になった。
今度こそ、ナワールと別れる。
「《じゃーね、なわーる、おったん》」
そして、近くにいた倉庫番の男性に彼なりの挨拶していた。
「あぁ、きょうも来てたのか、馬も見ておくから、また来な」
そのまま男性は去っていくゾゾロ達を見ていた。
通い詰めているうちに自然とうち解けていくほどゾゾロとプミプミは大人受けがいい。
それが幼く可愛い獣人の子供だとしても。
「今日も来ていたみたいですね、あの子たち」
荷物の検査をしていた船の職員パテロが中年の倉庫番の男性に声をかけていた。
「あぁ、獣人国まで行くらしい」
「でも、珍しいですよね、獣人の小さい子供が混じっているのって」
「なんでも、さらわれた子供たち何だとよ」
「さらわれた? 物騒ですね」
「あぁ、途中で……たしか、ブリューシュ王国で発見されたとか聞いたな。あの集団の出身地だそうだ」
「ブリューシュ王国か、確か俺が荷受け担当しましたよ。最寄りはパンテンロ王国のマニが経由地でしょ?」
「それだな」
「でも、どうやって発見されたのかな?」
「そこは教えてくれなかった。まぁ、彼らも依頼だから詳しくは話さないだろう」
「そうでしょうね……、ですけど、小さい子供を誘拐か……。どっかの誰かはやっている悪事ですけど実際に目にすると心が痛みますね」
「だな、子供をさらって儲けようなんていう根性がいけねぇ」
「同感ですねど、貧しい地方には子供を売りに出す親もいますからね」
「あぁ、しみったれた話だ。まぁ、でも帰れるっているからよかったじゃないか」
「えぇ、ですが船長がこの話を聞いたら、あの人泣きますよね。顔は怖いけど」
「だな、さらう側にいそうな面だけど人情に厚いからな。顔は怖いけど」
そんな世間話をしながら彼らはこの船の船長を思い出した。
――閑話休題。
昼を食べ終えたゾゾロ、プミプミは食堂にいた。
他の仲間は展望室や部屋に戻って各自作業や休憩を挟んでいる。
だから、ゾゾロとプミプミは少しだけある丸窓から外の様子を確認していた。
食堂の椅子を足りない身長代わりに乗りながら尻尾をパタパタさせて外に広がる景色を確認する。
近くには本を読みながらニコが監視していた。
そんな中、食堂に繋がる廊下から声が聴こえる。
「腹減ったぜー」
「船長、一服ですか?」
「まぁあ、ダグラックにまかせてある」
そう言いながら数名が食堂に入ってきた。
「あー、先に一服するか」
「操舵室で吸えばよくないですか?」
「ばかやろう、操舵室は火気厳禁だって決めただろ」
「船長、顔は怖い癖に変に律儀ですよね」
「顔は関係ねーだろ!」
先頭を行く船長と呼ばれた男は確かに顔に向こう傷があり、浅黒い肌、鋭い目つき、膨れ上がる荒くれもののような筋肉をもった、『いかにもいわくつきの面構え』をしている。
なによりも装備の筋もの感がすごい事に、それに連なる部下も似たり寄ったりな面構えだ。
そんな船長が椅子に乗っているゾゾロとプミプミに気が付いた。
「おい、そこのボウズにお嬢ちゃん、椅子に乗りっぱなしはアブねーぞ」
「気流が乱れたら揺れるからな、早く降りな」
「怪我しても知らねーぜ」
「ましてや、転んで傷ものにでもなりてえのか?」
脅すような口調だが、至極真っ当な注意をする船長と船員。
それに気が付いたゾゾロとプミプミが同時に振り返る。
ニコに言われてゾゾロとプミプミは椅子から降りた。
「ちょっと来いよ、ボウズ達」
船長の男は手招きして呼び寄せた。
呼ばれたゾゾロとプミプミはオドオドしながら進み寄る。
「おう、獣人とは珍しいな」
「輸送船だぜ、それも子供が乗るのは珍しいけど、何日か前に乗ったってジンの奴が話してたっけ?」
「おいおい、ビビッているじゃねーか」
「愛想よくしろ、笑っておけ」
そうして、いかにも怪しい笑みを子供たちに見せてた船長と船員の集団。
たまにはベタベタに行きたい。
前振りもしっかりとしたベタで行きたい。




