入国審査
「《おっちゃあ~~~~~~~~~んッ!!ほ――いッ!》」
イアは駆け寄ってきた獣人に馬車から飛び降り、そのままバインッと弾力感ある腹部に抱き着いた。
わかっていたかのように獣人の男性は抱きしめる。
「《おぉッ! イア! 本物か! 本当に帰って来たんだな!》」
「《にゃッ! そうだよぉ! 帰ってきた!》」
「《アントンもマルマも心配していだぞ!》」
「《父ちゃんも母ちゃんもかにゃッ!》」
「《俺もだ! 息子も心配していた、集落の仲間全員がお前の無事を祈っていたぞ》」
イアが抱き着きながら毛玉ネコ型獣人と獣人語で話をしていく。。
「《にゃはッ! 会えてうれしい!》」
毛玉の獣人にイアは顔を埋めていく。
「《よしよし、よく戻った、偉いぞ……》」
ゆっくりと深く抱きしめるネコ獣人の男性は暫くそのままでいた。
「《……おっちゃん、くるしいにゃ~》」というイアの声が聴こえるまで愛おしそうに抱きしめていた。
「《おぉ! 悪かった》」
そこまで言ってイアをゆっくりと地面に降ろす。
「《大丈夫、イアちゃん》」
馬車の上から心配そうにパポンが話しかけた。
ネコ獣人の男性はパポンの姿を見ると一瞬驚き、スグに腰を落とし、武器を置いた。
「《これはパポン様、再び会えるとは……。ロウ達も、さぞ喜ぶでしょう!》」
礼節の為か、手をあわせ、目上の者に対する慇懃深く対応していた。
そこに獣人語と身内だけの世界観についてこれなくなったジョーとミックがゆっくりと戻ってきた。
***―――閑話休題――。
「にゃー、このひとは知り合いにゃー! 《ドアン》にゃー!」
イアがいままで不明だった毛玉ネコ獣人の紹介をしてくれる。
「なるほど、あなたが《ドアン》と言う名で、近所に住むおじさんという認識でまちがいありませんか?」
齟齬が無いよう共通語と獣人語が分かる、ニコ、パポンを仲介して話を進めていった。
あらかたの説明を終えたジョー達は大陸式の握手と一緒にこれまでの経緯をジョー、ニコ、イア、パポンを交えて簡単に説明をしていく。
「なるほど、話はりかいした。あとはこちらでやる」とドアンは言う。
「ちょっと待ってくれ、そんな簡単な話ではない」
ジョーは強い拒否で言葉を遮った。
「しかし、イア達はこちらであずかる!」
強く告げるドアン。
「それではダメだ。これは国家間の協定に準じた行為。我々は冒険者であるが同時に使者でもある。いち門兵に預けてスグに引き返すなどという“子供のおつかい”程度の話ではなく、しっかりとそちらの指導者なり高位の役人に会って事の経緯を伝える義務がある。我々はその為にこの国まで護衛をしてきた」
ニコに仲介してもらいドアンは言葉をきいて暫く考え込んだ。
「……わかった。こちらからも護衛を出す。案内としてだ」
「案内役は必要だった、喜んで受け入れよう」
ドアンに始めの“険(=不愉快な感情)”は見られなくなっていた。
ジョーも話を聞いている内に(イアの件があったからだな)と納得する。
ドアンはスグに戻っていって岩山に建設された門をあける作業をしてくれる。
門が開き始めると驚いた事は開き戸型だと思っていたが引き戸であった事だ。
次に驚いたのは門の中の通路すべてが掘削して造られた場所だった。
自然に創られた場所を改良するのではなく、自ら目的をもって造った場所ならば相当の根気と技術と労力と時間が必要だという事の証明でもある。
「結構、長いんだな」
初めて入る場所になるが、出口である奥に見える先から漏れる光がずいぶんと小さく感じたからだ。
長い通路にはいくつもの光源が見えたが全体に薄暗かった。
ジョー達が入ると[ズゴゴゴゴッゴ――――!!]と石の擦れる音が響いて扉がしまった。そのタイミングでドアンが高台の監視部屋に続く階段から降りてくる。
「すまんが、いくつか質問をさせてもらう、子供たちに」
ドアンの後ろには幾人もの獣人が連れられていた。
ドアン達の行動はイア、パポン、ゾゾロにプミプミの身元調査。
どこに住んでいたか、誰の親か調べる必要がある。
それを上に報告し、手紙で知らせる必要があるからだ。
ちなみに身元がわかってるイアとパポンはスグに終わったが、ゾゾロとプミプミは幼子ゆえ色々と聞き出すのに時間がかかった。
(まぁ、サイモンという立場の奴はどこの国にもいるもんだ……)
ジョーは馬車の中でゆっくりと気長に待っていた。
***――時間経過―――
「《急いで、つかいを出せ!》」
大声でドアンが指示を出すとバタバタと数名が外に向って駆けだした。
聞き込みが終わるとスグにドアン達はまとめて、使いの者を送っていく。
先触れの為に急いでいるのだろう。
ある程度すむと、ドアンがジョーの元に歩み寄った。
それに気が付くジョーは馬車の端にもたれかかっていた身体を起こす。
「さきほどは……すまなかった」
ドアンは大陸式の言語で、挨拶の『握手』を求める。
ジョーにとった素っ気ない態度と敵意ある言い方だろう。それを彼は謝ってきた。
「《いや、かまわない。互いに事情があるだろう》」
軽く獣人語で返事をする。
しっかりと握手で返す。
フッとした気の張りが無くなり、穏やかな気配が流れ、自然と笑みを浮かべていた。
そして、ゆっくりと握手を話すとドアンの後ろから見知らぬ獣人が馬のような4足歩行の動物を連れて歩いて来る。
毛むくじゃらで、馬のようだがヒツジのようでもある形容しがたい角と尻尾を持っていたが移動用のアシである事は間違いない、なぜなら旅支度のように鞍と荷物が背に装着しているからだ。
「紹介する。彼は『ンゴ』。案内だ」
ドアンがそのように紹介したのはキツネように大きな耳と毛触りのいいオレンジ色の濃い毛並みを持ち、鋭い眼つきの獣人だった。
彼はジョーにペコリと頭を下げた。




