境
大河を渡り、船着き場を降りたジョー達は先に進む。
船を降りると、すぐに商隊の一団と取引関係者が集う集落のようなモノがあったが人が過ごす町ではなかった。
あくまでも今いる場所は緩衝地帯に分類される、住居のある場所も無く整備の行き届いてない空白地帯。
ゆえに娯楽も無く飯屋も無い。
太古の昔に建てられたであろう壊れた小さな砦は目にしたが、それ以外は何も無かった。
「何もないなぁ~、道を間違えて無いか?」
道標となるべきものも無く、踏み均された土砂道と切り開いたであろう森の道を通り過ぎて不安から言葉を発するジョー。
「だが、あの商人が言うには道なりに真っ直ぐ進めば砦に到着すると言っていたぞ」
隣にいるミックが情報をくれる。
「そうだよなぁ、分かれ道もないし……、ほんとうにスグなのか?」
「分かりやすいと言っていたから間違いはないだろう」
そんな会話をしていると曲道を過ぎてから岩山が連なっているのが見えた。
***
遠くから見れば平面的な岩山だが、近づくと大きな城の城壁のような威圧感がある。
ジョー達は均された道を標に切り立った場所をゆっくりと確認していく。
「たぶんあれだな……」
ジョーが見上げる場所には崖の上に建物が確認され、門のようなモノがあった。
それと同時に先頭にいるアンジー達から鐘が2回鳴ったのを聴いた。
近くで馬車を止めると、そのままジョーとミックは武器を持って降りる。
警戒の為だが、接触までお互いに一般的な儀礼のようなものだ。
敵意自体は無かった。
「オ―――――――――――――イ!!!」
呼びかける言葉はわからずとも、とにかく大声で相手に問いかける。
ジョーは見上げながら建物へ、一応のこの門の見張り用だと外観から判断する。
複数の陰に気配がいるように感じた。
5メートル程度の高さにある岩肌の建物からスグに姿が出て来た。
向こうもこちらを確認して身構えていたのだろう。
その内に太った毛玉のような獣人が出てくる。
愛嬌の無い顔、鋭い目、もっふもっふの毛並みの姿見であったがネコ型の獣人である事はギリギリ理解できる。
「なにようか……」
一応は大陸共通言語での問いかけではあるが緊張感に包まれる。
手には打撃用の武器だろうか金属製の棒のような物を持っていた。
「ブリューシュ王国からの遣いでやってきた。門を開けてもらいたい」
簡潔に述べるだけで済ませた。
多様な言い方をしても伝わりづらいという配慮も含まれる。
「許可はあるのか?」
不審に思いながらも頭上の獣人は尋ねてくる。
(普通の対応……やっぱそうだよな)
ジョーは相手の対応を考える。
他国に入る場合必ずといっていいほど監視者がいる、それは不審者、自国の利益を損なう者を入れないという前提の元に行う極めて普通の行為だ。
むしろ、他国から来た者に何の検査も受けず、考えずに『ようこそいらっしゃい』などと言う方が少数で、能天気な対応をする兵士が門番などをしていようものなら、その国は圧倒的に危険だと言える。
だから、この場合には身元を証明する者が必要、さらに、その国に入れるアイテムなどがあればなお良いといった所だ。
このような場合、ジョー達は冒険者だから冒険者組合に所属するのでギルドカードを提示すれば身元の証明にもなる。
殆どの国は冒険者組合の支部等があり、信用がある。
このように他国に出入りできるメリットが冒険者組合のいい所でもあるが“殆ど”とつくが“すべて”ではない。つまり冒険者組合の威光が届かぬ国もあるという訳だ。
そしてこの獣人国は冒険者組合の無い地域だ。
つまり、“何も伝手も持たない旅人がいきなり来た”という状況の上、ジョー達の言葉の信頼性が相手方に伝わって無い所から始めなくてはならない。
最悪ではあるがブリューシュ王国の手紙から旅の目的を知ってもらうという事も可能だが、目の前にいるのは一兵卒の警備兵程度、重要な書状であるので、それを気軽に見せて証明するのも信頼の悪手になりかねない。
(しかし、なんだが……どこか拒否反応を示しているな)
目の前にいる獣人は初めから壁をつくり、雰囲気で拒否をしているように見えた。
前提として不信からではなく、もっと深い何かがあると感じる。
「許可は無いが、身分を求めるなら好きに調べて欲しい。俺たちは中に入らなくてはならない」
まずは譲歩案、身分を確認できなければ晒して調べてもらえばいい。
その上で判断してもらうしかない。
だが――。
「許可はない? だからダメだ!」
頭上の獣人は答える。
(許可がないだけで拒絶か……。原住民の部落にいきなりやってきたと同じような拒否だな)
「なら、どうしたら門を開けて中に入れる?」
ジョーはとりあえず訊いてきた。
「許可を貰ってこい!」と返答。
お手本のような問答、両者の間に緊張感が生まれる。
堂々巡りをして無為に時間を過ごすべきか――と言う所で。
「《オーイッ! おっちゃん! イアだにゃッ! 帰ってきたニャッ! 見えるかニャ! オ―――――――――――――イッ!!!!!》」
馬車の操作席でイアが大声で元気よく手を振っていた。
獣人の男はそれに気が付くと馬車の方向をみて、一瞬動きを止め、そして建物の手摺りに身を乗り出しじっくりと観察する。
「……おオぉ――――――――――ッ!!」
咆哮をあげるとそのまま手摺りを乗り越え、獣人の男性は2、3回転して身体をねじり地面に着地した。
毛玉のようにフワリとはいくわけでも無く、衝撃が身体に伝わっていくのが見えるが、ジョーとミックを無視して馬車の方に駆けだしていった。
問題は記憶喪失の人がどうやって身分を証明するのに近いと思う。
現代だったら免許書とかマイナンバーカードとかが一般的かな?
しかし、スパイとかしたら偽装証明すれば楽だし、疑われる事もなくて逆にやりやすいだろうな、とか考えたり考えなかったりします。




