大河を渡るにも……
ジョーにミックが謝るのには理由がある。
それは町を出て昼過ぎ、サル型の魔物に襲撃された――のだが、撃退はした、しかし、不運にもその戦闘でミック達の右前方の車輪に魔物が転がりあえなく破損してしまった。――そんな経緯だ。
グレーが応急処置で直そうとしたが軸部分に亀裂が入っている事が判明、要修理という意見があったが修理する鍛冶屋も店も無い。
そんな訳で誰が悪いという訳でも無いが、結局の所“運”の要素が強い。
馬車が壊れる理由は走行中だけでなく様々な要件が重なる、それに対応して行くのも冒険者をする上で必要な事、幸いにも応急処置とスペアの車輪を付け直したが軸部分の不安の解消は出来なかった。
しかし、このような不運な事故は冒険者をやっていれば多々ある事の1つ。
過去にも冒険者の金言で――。
『不運には出会うという事だ。だが、そいつと付き合うかは自分次第。決断しろ』と残されれている。
だれも悪くない、割り切る事も重要なのでジョーも何も言わない。
ただ、車両連結に時間を要したのと、荷物の積みかえ、配置変換、陣形のやり直し、そして修理するかの決断だけだった。
応急処置により走行は可能だが、何時、壊れるかもしれない爆弾を抱えてしまったのは大きい、そして移動速度の低下。
時間はかかったがタイオワまでもう少しの所、大きな川を渡れば領地内には到着できる。
引いて戻るか、祈って強行するかの難しい所。
カネ、子供たち、時間、安全、その理想全てを満たす事など長い旅では不可能な事だ。
「ついてなかった……」
落胆したミックが遠くを見て言う。
「後輪じゃなかっただけマシだ」
ジョーは慰める。
しかし、そんな落ち込んでいる2名の後ろでは――。
「ほらほら、こっちだよ」
「ゾゾロちゃんは動いちゃダメ」
「にゃー!」
「あっち行って、ホシ肉もらってくる」
「みんな静かにしようね」
「オカシ 「オカシッ!」
「さっき食べたでしょ?」
「夕飯までもうすぐだから、我慢しようね、ゾゾロちゃん。プミプミちゃん」
危機感と不安感の無いままのもうすぐタイオワに着くという高揚感をもった子供たちとそれをなだめるサイリア、一緒に遊ぶカティアとフィフィの声が聴こえていた。
大人は不安でも子供にとってはどうでもいい事なのかもしれない。
「見ろよ、もう少しで河を渡るぞ」
夕日の映る大河が見えてきていた。
ジョーの声を聞いたのか、子供たちが前に出てくる。
「にゃ~! あの先がタイオワにゃ!」
「どれ~? 「どれ?」
長い旅路も終わりを迎えようとしている。
――時間経過――。
大河に突き当たる道の先に、岸と船着き場が見えた。
薄暗くなり始めている場所で大きく平たい船に作業をしている人影が見る。
「ちょっと聞いて来るから」
ジョーは馬車を止め、操作をミックに預ける。
そのまま急いで船着き場に駆け寄るジョー。
船員と言葉をかわし、そのままトボトボと戻ってきた。
「どうだった?」
ミックは尋ねる。
ジョーは首を振って交渉が失敗した事を示した。
「ココは終着所らしい、もっと上流に行かないと発着所は無いって、それに今日は終わりだそうだ…」
「そうか……」
「夜営の準備だな、もう少し上流に行くと開けた所があるらしい。俺はアンジー達とニコに伝えてくる」
そう言ってジョーは馬車を離れた。
***
夜、暗い中を馬車を加工用に集めて食事をしているジョー達。
場所は通商路から少し離れた平野部の広く空いた所。
暗い夜空のなか星がきらめく光の下で焚火を囲っていた。
「うまいニャ! うまいにゃ!」
麦と塩漬けした肉を細かく切って、水でかさましして香辛料と新鮮ではない野菜をごった煮にした品だがイアは美味しそうに食べていた。
機嫌よく食べていたが、ふと、隣で食べているゾゾロが気になった。
イアと同じようにゴハンの時は特に元気なゾゾロが今日はおとなしい。
ゆっくりと食べながら時々、遠くの対岸の灯りを確認していた。
「《どうしたの、ゾゾロ?》」
イアの問いかけにゾゾロは振り向いて「《おかあさんにあえる》」と元気よく答えた。
尻尾を振って上機嫌だ。
「《そうだね》」と食事を止めてイアは優しくゾゾロの頭を撫でた。
そうするとゾゾロの尻尾を速度が格段に速くなる。
食事の終わった一行は片付けと一緒に分かれて作業を行う事になった。
見張りはミック達が、カティア達とサイリア、ミレイ、ラビスは食器と調理器具を洗うついでに子供たちのからだを拭いて寝る準備、そしてジョーとニコ、アンジーは焚火の前で食後休憩と、自由時間を楽しんでいる。
ゆっくりと燃える焚火を囲むように石が詰まれ、その傍に金属製のポットが置かれ容器の中から湯気が立ち上る。
ニコはひっかき棒のようなものでポットを引き寄せると、用意していた金属のカップに葉っぱと香辛料が入りそうな木製の入れ物から何かを振ってお湯を入れた。
「町で買ったラジンの葉にマードの実のお茶だ。温まる」
客に出すようにジョーとアンジーに配ってもてなした。
ジョーとアンジーはお礼を言って受けとると静かにお茶を口につけた。
その間にニコはすぐ傍で伏せて寝ているナワールを撫でて慈しむ。
「やっとここまで来たなぁ~」
感慨深くジョーは夜空を見上げて言った。
「あら、まだ、タイオワの地は踏んでないよね」
アンジーの言葉は旅の途中だから油断するなという警告も含まれる。
「それだけ大変だったという事だな」
ニコもナワールを撫で終わり言葉を紡いだ。
「あぁ、何年も旅するくらい大変だった。寄り道も多かったし……余計な弟子は隠れてくるし」
「そう言わないで、かわいいものよ」
「わハハハハッ!」
「カティアやフィフィはお菓子をねだるし、どこでも寝てるし大変だったよ。それにゾゾロは―――」
「そういえば、こんなことがあったな―――」
愚痴を肴に夜はふけていった。




