幸運なる島6
「あそこで訓練しているナイボの連中だな―――」、「ほれ、遠くのあの海岸線で学者の連中が骨を拾っている―――」、「迷宮内部の事が知りたければ“地図屋”に行くといい――」、「あそこに鉱夫が寝泊まりする施設と治療院がある――」、「内部には拠点となっている町が出来とるよ――」
子供たちに観光の説明をしていく男性兵士は機嫌よく島の情報を教えてくれた。
反応が面白い事と珍しそうにしている様子で上機嫌になったようだ。
色々と饒舌に喋り続ける姿は寡黙は守備兵という印象は無かった。
それに迷宮の前であるが“最前線”というのには程遠い場所でもある――むしろ閑職に近い役回りだから多少さぼっても旅行者と喋る時間はあるのだ。
「ありがとう、おじさん」、「またニャー」、「たまたー」、「またまたま♪」
挨拶をして迷宮の城壁を去る。
可愛らしく手を振るゾゾロとプミプミ、それにイア達とカティアの元気な別れの作法に最後は他の守備兵も集まって見送ってくれた。
行きと同じ方法でジョー達は町に戻っていく。
――閑話休題。幸運な島の町の門付近――。
「それじゃあ、ゴハンの時間の前に地図屋にいくわよ!」
カティアは元気よく宣言をした。
まるで、みんなのリーダーのように。
「ゴハン!」、「メシくわねーのかにゃ?」、「その前にチズ屋だよ」、「めし?」
ゾゾロが過剰に反応した以外はそれぞれの反応もまちまちだ。
「いや、その前に宿屋に戻って厩舎に馬を戻すぞ」とジョーが現実的な意見を告げる。
そして――宣言通り宿屋に戻り、馬を預けてから再び大通りに戻ったジョー達はとある店の前に来ていた。
カティアが扉をあける。
「こんにちわー」と軽い挨拶。
「いらっしゃ――…い?」
店に客が来たと思った店員の男性だったが、カティアの幼い容姿をみて次第に声がしぼんでいく。
商売人としては迂闊だが、店番を任されている店員の男性はどこかチャラい髪型をしている。
しかし、この店は迷宮攻略の関係者しか訪れない店だ。
特に攻略初心者が重宝する迷宮内の地図を売っている重要な場所。
だから、店番を長くしている彼の経験が言っている。
この容姿と雰囲気。若い人間の女の子。その事から、とても迷宮攻略する人に見えなかったのだ。
さらにその後を同じような年齢の女子と獣人系の子供と幼子が興味深そうに店内を見回している。
「お嬢ちゃんたち、どっかから来たの?」と、商売人としてではなく、普通のお兄さんとして接する態度をとっている。
「守備兵のおじさん達が、ココにくると迷宮の構造を教えてくれるって言ったから」
カティアはそのように答えた。
答えに長髪の男性は困ったような顔を一瞬見せた。
嘘もつかずにそのまま答えている。
商売の可能性はゼロ、(客じゃない、どう追い返そうか)という風に顔に書いてあるように表情から見える。
「そうかい。でも、こまったな~、いま案内できる奴がいないんだ」と、儲かる可能性の無い客を追い返そうと答えた所でジョー達が店の中に入ってきた。
「先に行くな」とカティア達に注意をする。
ハッとする男性。女の子が「師匠!」といった所から保護者なのだろうとスグに思い立った。
男は(客か?)と思ったが連れ合いが子供たちなら迷宮での仕事関係者ではないと思い直した。
ジョーはそのまま店番の席に座っている男に近寄るとそのまま机に身体を預けて「悪いな客じゃないんだ、けど商品みせてくれるか?」と言いながら男の手に何かを渡した。
手の中に重みを感じる――――。
渡されたモノをチラリと見る男性、この島で使える大銅貨4枚。メシ屋に行けば麦酒と少し豪華な飯が食べられる金額だ。
もちろんこれは『ワイロ』――という事だ。
地図を買えば店の儲けだがワイロは個人の儲けになる。
「へへへッ、別にいいっすよ。この時間は暇なんで」と、“ソレ”を理解してこの後の事を黙認するようにニヤっと笑って長髪の男性は髪をまとめ直す。そしてもらった銅貨は隠すようにポケットにしまい込んだ。
「暇なのか?」
ジョーは世間話程度に尋ねる。
「えぇ、地図を求めるお客は大抵は朝か夕方に買い求めます。昼間は軍関係者に配送程度ですね」
「なるほど」
「えっと、迷宮の地図ですか? それとも全体像なら工房の模型の方がわかりやすいですよ」
「模型があるのか?」
「そっちの方が立体的ですよ、平面的なのよりもわかりやすいですから」
「そっちに案内してくれるか」
「えぇ、よろこんで」
男性は立ち上がると近くにいた従業員に軽く話し込んで何かをおねがいしているようだ。
ジョーは子供たちとサイリア、ニコに手招きをして長髪の男性と共に店の裏手に通してもらった。
販売所の裏手のすぐ近くに大型のレンガ造り建物があった。
入り口は裏口からと案内され中に入る。
「うわー、広い」
内部を確認したカティアの感想はその通り、見た目以上に広い内部は地下と一階が繋がっている為に予想よりも大きく見えていた。
建物内部の端には図面を起こす机が数台あり、棚には多くの紙が置かれていた。
そして中央では天井から吊るされた模型と、その周りにある移動式足場台が数台ある。
当然、作業をしている人達が黙々と働いていた。
「お客さん、こっちですよ」
地下部分に降りる階段に案内する男性。
木製の階段をジョー達は案内されるがまま降りていく。
「《ねーねー、あれ、なーに?》」
ニコに手を繋がれたゾゾロは中央にある前衛アートに似ている模型を指さして質問をした。
「なーに?」、「な~に、なにな~に!」連鎖するように一緒にいるプミプミが喋る、そしてゾゾロが呼応するように喋り重ねた。
その声は響き、作業員が一斉にこっちを向いた――。
地図屋というか模型屋かもしれない。
迷宮が階層型だったら平面図でいいけど立体構造のほうが多いだろうという判断。
それでも地図として書き込めるけどね。




