幸運なる島4
カティア、フィフィ、パポン、イアは真っ先に城壁の上から迷宮の姿を確認しようとした――。
だが、それは不可能だった。
何故なら、目の前に更に小さい城壁が並んでいたからだ。
「「「「見えない……」」」ニャー!」
見えるだけで4つ、城壁が連なっていた。
それほどまで厚い蔽われ方は迷宮の危険度を表すのだという見方が一般的だ。
残念がっている淑女集団は迷宮の入り口すら見えなった。
その後をゾゾロとプミプミが追い付いた。
「《イアねぇ、みる! みる!》」
「《みる! みるぅ~》」
そのように足元に縋りついて要求した。
イアは「しかたないにゃ~」と言いながらゾゾロをイアが、パポンがプミプミを持ち上げて外の景色を見せていた。
「にゃ~、みえんにゃ!」、「《アレなにぃ~》」、「にゃ?」、「たぶん兵士かな?」、「《あれは?》」
他愛無い会話をしているとジョーとサイリア、それにニコがゆっくりと城壁上に到着した。
「どうだ、見えたか?」
と、ジョーは尋ねる。
「見えませんでした」
「師匠、もっと奥に行きましょう」
「にゃ~! いくにゃ!」
残念そうな答えが返ってくるが「バカやろう、ギルドに登録してないと無理に決まっているだろ」と彼は返事をする。
「無理ですか……」
寂しそうな顔をするカティア。
そんな時――「・・・…――お~い」――かなり遠い位置から兵士がジョー達の元に駆けつけてくるのが見えた。
装備は標準的な兵士そのもの、しかし、すこし壮年に入った老兵士の男性だった。
彼はジョー達の近くに行くと駆け足を止め、集団を見回した。
「すまんが……ここは関係者以外は立ち入る事が出来ない」と告げた。
そして、訝しむような顔をして「もしや探索者か?」と尋ねた。
「いや、このメンバーで迷宮を攻略しようとは思わないな」と、ジョーは返事をする。
その男性兵士がもう一度ジョーの仲間をみるが、子供も混じり大半が腕利きとは見えなかった。
「わははッ、確かに!」
笑い声を上げて納得する。
もう一度子供たちの方をチラリと見て「それじゃあ観光かい? 珍しい」と男性兵士は言った。
「観光と言えば……いや、仕事の途中に寄っただけだ。珍しい迷宮らしいから見て見ようとせがまれてね、明日にはこの島を去る者だから」
「なるほど……まぁ、この城壁を越えなきゃいいか……」
規律はあるようだが規則は無いよな言葉を述べる兵士の男性。
迷宮の秘密を探りにきた他国の諜報員にはとても見えない風貌と行動の集団に見えたのだろう。
[カ――――ンッ! ……カ――――ン!]
低速で鳴り響く鐘の音が辺りに響いた。
そして、それが連続で続いていく。
「にゃ! なんにゃッ!」
突然の事でイアがビックリする。
「ハハッ、気にする事は無い。この時間だと“拠点 ”からの帰還だろう。門を明ける時に鐘を鳴らすんだ、その合図だ」と男性は答えた。
そして子供たちを手招きして迷宮の門のある方に誘導していく。
「いいかい、あそこの門が開き始めただろ? いまから人がドンドン通っていくよ」
男性の言う通り、門が開くとポツリポツリと人影が出来はじめ、それからドンドンと群がってくる。
「スゴイのね、あんなに迷宮の中に人が出入りしているなんて……」
城壁の下に見える光景にカティアは驚いた。
「それはそうだろう、この集団だとギャリアーの関係者だな。それなら1000人位が地上に出る筈だ」
男性兵士は見慣れた光景のように鎧と飾りの旗で国別を見分けていた。
「そんなに!」
カティアは驚く、自分の領内にいる冒険者の数より多いからだ。
「いやいや、迷宮の中にはまだまだ多くいる、交代要員と順番で休暇をとるんだよ。外に大きな宿舎があっただろ? あそこにも多くの兵士が寝泊まりしている」
男性兵士はそう説明する。
「にゃ! 見るにゃ! にゃんかヘンなのはこんでるニャ!」
イアは興奮気味に指をさした。
その先にウシのような動物に運ばれる大型の連結馬車、ドレイクの武錬会で使用したような運搬車に奇抜な青い鱗と黄色い鱗、触手のようなものが生え、水晶のような角をもっていて4足歩行の魔獣が台の上に縫いつけられ身体には数多くの戦闘痕があった。
「なにあれ? 竜種かしら? でも細いし、なんかヘンな感じ」
「珍しいねぇ~、初めて見た」
「ここから見ても大きい体だね……すごい」
彼女達はそれぞれが初めてみる迷宮の魔物に驚いていた。
「あ~ぁ、アレはたぶん新種だから“狂信学会”に届けるんじゃないかな?」
男性にとって珍しくもないのだろう、そう行動を予見する。
「おじさん、ゴーマンって何?」
「中央大陸にある中立国家のその中で生まれた組合だよ。かなり変わり者の集団だか学のある連中でね、色々狂っている噂が多いが有名だ。ほら、海沿いにある、あの大きな屋敷が彼らの拠点の1つだよ」
男性は迷宮とは反対方向にある屋敷の影を指して教えてくれた。
「ほうほう……。師匠、知ってましたか?」
ジョーの方に向ってカティアは尋ねて来た。
「名前は知っている。色々な噂が多いが優秀な人材の組織だそうだ。しかし、入会にあたり面倒な制約があるそうだ」
「めんどうな制約?」
「あぁ、それが変人の集まりだと言われる所以でね……なんだったか? サイリア知ってるか?」
ジョーに話題を振られたサイリアは「えっと…――」と前置きしつつ「たしか、国を捨て、宗教を捨て、身分を捨て、種族を捨て、性別を捨て、ただ学術に没頭する者――だったかな?」と言った。
「どういうことですか?」と再度尋ねるカティア。
「えっとね、カティア、この組織は中立国家に位置する事が関係しているの、まず国を捨てるって事は全ての国から平等だという事、そこには元敵国同士でも関係ないって事になっていて全てが無いようにしなきゃいけないの、次に身分っていうのは貴族でも平民でも農民でも、もちろん奴隷でもその組織に入れば全て同じ、階級は無くなるって事、種族はそのままの意味、人族でもその他でも関係ないって事、そして性別は男女関係なく同じになるって事だから、国と言うしがらみも、階級と言うしがらみも性別と言うしがらみも無くなって神の教えですら捨てる“学術”のみが全てになる組織なのよ」
「それじゃあ、わたしでも入れますか?」
「えぇ、その組織の試験を突破して認められ、制約を守るなら入れるそうよ。でも色々と厳しいけど……」
「なるほど……学者の道かぁ~」と、どこかキラキラした目をしているカティア。
目新しいモノが好きな彼女らしい反応だ。
「ただね……この組織は国に属してないのよ、全ての研究の成果を平等に公開しているのだから…かなり特殊な立場になるって言うのかな? 多くが変人奇人と呼ばれているのよ、それは決していい意味では無くて」
サイリアの物言いにカティアと他の者も首を傾げた。




