説教2
「この地域は地盤が脆い、なんども災害で通行止めになるのはそれが理由だ。この地区独特の事で周辺国に広く知られている。さらに天候は雨、地盤がさらに弱まる。この条件を満たせば地面に入った亀裂と強い衝撃で崖崩れを起こしやすい。さらに魔術で割ってやればその区画ごと落とすのは容易くなる。手法としては『囮寄』に近いだろう。罠を張ってその区画におびき寄せる高等戦術になるな」
自身の行った一連の行動を弟子に説明するジョー。
饒舌に喋っているが、常に周囲を気にしていた。
『囮寄』――誘導して攻撃する。囲い込みのように対象を全員で誘導する方法と違い、少数または単独で目標を釣り出し、他の者は選定地に誘導するやり方。2つ、または3つ分別行動をして誘いこむので普通より高度な連携が必要になる為、高等戦術の部類に属する。
「なるほど……あそこまで誘き寄せるのは計算された行動って事ですか?」
「その通り。相手の行動を縛っておいて、挑発によって攻撃を単純化したことも大きいな」
「おお、それじゃあ師匠はあの攻撃が来ることを予測していたという事ですか?」
「これも予想通りだ。怒った相手は力攻めで来る事は間違いなかった、その上で視野を狭めてソコに誘導したという事だ。前に挑発行動の実践で教えたな」
「えぇ、メリーダが泣きだした時ですね」
「そこは思いだなさなくていい……」
ジョーは苦い経験(=過去)で女性の扱いについての失敗について遠目をしておいた。
***――閑話休題。
「さて、俺が決闘というルールに乗ったと見せかけてあそこに誘いこんだという一連の行動は、地形を把握し天気を味方につけ、相手の地力を正確に計れた事が大きいという事は理解できたか?」
「理解出来ました。しかし、不意打ちはいけないと思います」
「お前は何度もソコに引っかかるな。不意打ちがいけないというのは、やはり貴族決闘的考えだと言うしかない。しかし……だ、俺も男だから言い方が卑屈だとなんと無しに心に引っかかる。では言い方を変えよう、『高高度戦術的突発背面攻撃』としよう」
「おぉ~なんと無しにカッコいい字面です」
カティアは眼を輝かせた。
「そうだろ」
(実際にはどうでもいいが)
逆に子供だましのような言い方をしてジョーの瞳は暗く染まる。
***――閑話休題――。
通り道にある落ちてる少し太い木の丸太を蹴り上げ何処かに飛ばすジョーはカティアとフィフィに説いた。
「さて、教えたと思うが依頼に対し常に余裕を持ってこなせと言う話だったが。自分の持っている魔力を含めた体力を10とすると、どのような分配で仕事をこなせと教えた?」
ジョーの問いにカティアは悩みながら「……4。仕事に対して4、帰還に対して4、緊急で2の割合だったと思います」
「よし、覚えていたな」
ジョーの言葉に満面の笑みを見せるカティア。
「当たり前です!」
「はい、そこまででいい。さて全体の4割だというが10割りでは何故ダメか? その理由を答えなさい。次はフィフィだ」
「はい……。全ての力を使ってしまうと、その時点で危険になるからです。冒険者は帰還を含めて仕事なので余裕をもって行動するのが普通です」
フィフィは持っている杖を軽く振りながら答える。
前に河原の合宿でジョーに教えて貰った事を思い出していた。
「うん、その通り。では俺があの男との対決に対し崖から落とすという作戦をとった理由を答えてみろ、カティア」
「……それは、楽をして殺す為?」
「いや、殺してはいないよ……たぶん。だが、考え方はいい。相手を行動不能にして目的を達したという事にしておきなさい。話を戻すが、つまり人間、いや多くの冒険者は“楽をして依頼をこなす”という理念の元に行動を起こしている。これは気の緩みに話ではない、余裕をもって周りに眼を向けるという事でもある。つまり邪魔者の排除に対し、いかに無駄なく目的を達成するという崇高な使命の為に相手を誘いこんだ行動選択だ!」とすこしワザとらしく力説したジョーだったが子供受けはいいようで「お~~!」と尊敬するような眼差しと拍手が起こる。
「それはイアとパポンを故郷に連れていくためだ!」と締めくくった。とってつけたように。
「あたしらの為だったニャッ! うれしいニャ!」
イアとパポンは喜ぶ。
「そうだったのか!」、「それならいいよね」とカティアもフィフィも喜んだ。
――このように大義を上げておけば、たとえどんな事をしても許されるという群衆思想に近い誘導だ。
「それじゃあ、あのサイリア師匠の最後のトドメもイアちゃん達のためだったんですかぁ?」
カティアは期待を持たせた瞳でサイリアを見つめる。
「……うん、その通り。私達冒険者は非情の一撃も必要」
サイリアは深く思慮しながらも当然の如く頷く。
しかし、その脳裏では“あの時”ジョーに囁かれた言葉を思い出していた。
『いいかサイリア、あいつの求婚を断るにはお前の協力が必要だ。なに簡単な仕事だよ。合図を出したらアイツを俺ごと崖から落とせ、他に何の心配はいらない、アイツが居なくなれば逃げられるし問題も片付く。これは楽な仕事だ』
悪魔の囁きのようにジョーの言葉をハッキリと思い出した。
確かにレットブローがこの場から居なくなれば全て片付くと思ったのはサイリアも同意見だからだ。
その薄暗い感情をしまい、サイリアは冒険者として大人の選択をしたのかもしれない。
いや、経験を積んだ大人の冒険者だからその道を選んだ。
そんなサイリアの事を見透かすかのようにジョーが悪い笑顔で見つめているようにサイリアは錯覚する。
『お前は――俺と同じだ』というような眼を向けている。
手を貸したのは間違いない、その結果、レットブローは谷底の川に落ちていったので全ての結果は上々になった――はずだ。
地域の地盤が緩いことは何度も書いています。
出発前の会合でもそのような事を……。それに国境付近でもそのような事を…。
決して辻褄合わせではありません。




