説教1
「えッ! えぇ―――ッ! 言ったじゃないですか。決闘するって。師匠とあの男で!」
カティアは驚きながらジョーに対して応えた。
「オレとアイツ“だけ”の決闘は受けたつもりも無いと言う意味だ。考えてもみろ、俺とアイツだけか? ここには俺の他にサイリア、ミック、ラリー、グレー、それにラビスとお前たち4人の合計10人も居る。それにニコとアンジーミレイも合わせれば13人だ。まぁゾゾロとプミプミは置いておくとして人数の有効性も加味して闘わないとは愚か者のする事だ。俺たちの中では10対1で受けたつもりだったんだ」
シレっと告げるジョー=カバライ。その瞳と口調に悪びれるという意思は感じない。
「えぇ―――! でも、私達何もしてませんよ?」
思い出してみても、グレーの後ろにいるようにしか指示は出されていないと彼女は考えた。
「何もしなくていいんだよ。その結果、他の人がいるという不自然さが無くなる。実際にアイツもお前たちの事を立ち合い人という事で“勝手”に納得してくれたからな。事前の取り決めでも俺とアイツだけでやると“言って無い”し“決めていない”。なんとなくでやる事になった決闘だ。つー事は別にサイリアが割り込んでも、ラビスが俺を助けても良かったという事になる」
「師匠、でも決闘は一対一の神聖なモノです!」
貴族として決闘とは古い慣習であり、貴族社会で嗜み程度の彼女でもその重さは感じている。屁理屈をこねるジョーに憤りを感じるからこそ言葉にあらわれる。
「お貴族様からしたら、その考えは間違って無いのかもしれない。しかし、カティア、この旅の目的を考えても見ろ」
「目的? えーっと、イアちゃん、パポンちゃん、ゾゾロちゃんとプミプミちゃんを獣人国まで送り届ける事です」
「そう、その通り。それが目的であり、達成しなければならない事だ。じゃあ、そう考えるとアイツが進路や進行を妨害した場合は遅れるという事になる。俺はこの仕事のリーダーであるからそうした危機や妨害を排除しなくてはならない」
「まぁ、そこまでは理解できます」
カティアは頷く。
――今度は冒険者としての立場から納得する。
「そうならば、あのアホを連れていく事自体が危険という事になる」
「そうなんですか?」
ジョーは理解しない弟子にあきれながらも言葉を続けた。
「こういう、群体行動の時に一番危険なのは単独行動と理由も無い突発行動だ。統率する者のいう事を効かない存在っていうのは敵以上に危険な存在になりやすい。そうなる前に排除するのは何も問題ない。俺たちにとっても財布にとっても優しいことなんだよ」
「お財布に優しいって? どういうことですか?」
「簡単にいえば、アイツの移動費とかどうするって事だよ。馬車も持ってないし走っていたし、食料も移動費も持ってないだろ? つまり着いて来るには俺たち持ちだという事が確定する」
「あぁ、なるほど、それじゃあ倒せば良かったんじゃないですか?」
「それが出来たら苦労はしない。正面からぶつかる“真っ当な方法”なら倒すのに苦労するタイプだから。時間も掛かるし、なにより余計な労力がかかりすぎる」
「それで崖から突き落としたんですか?」
「言い方が悪い、突き落としていないし、アイツが勝手に崖を崩して落ちていったんだ。まぁ、そうなるように仕向けたのは俺たちなんだが」
「仕掛けなんかありました?」
「おいおい、俺がこの場所でこの時期に戦いを受けたと思う? 勝利条件が揃わないと動くわけ無いだろ? 魔物狩りの鉄則で教えただろ?」
「え~、そうだったんですか」
「カティア、解ってないだろ」
ジョーに言われて空返事にギクッとするカティア。
鋭く細い目を彼女に向ける。
すると、そっと目線を移すカティア。
「それじゃあいいか、おさらいだ。魔物を1体と考えて予想してみよう。まずは敵のタイプだ、分別すると『力任せの突撃型』に分ける事が出来る。さて、そこから教えてた事を思い出してみろ。初めに何を注意すると教えた」
「えっと……自分の装備!」
「それは前提条件だろ。ちがう、もっと大きなもの」
カティアは考える。
「んッ……解りました。地形です」
「まぁ、場所とか地形で正解だな。相手とどんな場所でやり合うかが重要だと教えたはずだ。その前にその場所に連れていくという条件を満たす事が話となる。それじゃあ次は?」
ジョーは話を続けた。
「えっと…………」
「解らないか? それじゃあフィフィ、答えて見ろ」
急に話題をフィフィに振る。
フィフィはビクッと驚きながらも、「……天気です」と答えた。
「うん、正解だ。気候や天気を事前に覚えておくという事も教えたな。そしてやっと対峙する相手の情報だ。基本的に肉体派であり、攻撃の幅が少ない相手だった、そして有利な事に事前に手合わせてをしている為、相手の戦力を知っていたという事だ。地形、天気、相手の能力、これが合わさって初めて『作戦を立てる』と教えたはずだ」
「……確かに」
カティアは思い出したように答えた。
「……復習はしような、本当に」
ジョーは諭すように言葉を重ねる。
「ですが師匠! 地形と天気ってそんなに作戦上変わるものなのですか?」
「変わるよ、特にこの地域ではスゴイ重要な事だ」
カティアはジョーの言葉に不思議そうに顔を傾げた。
何度もいいます。
とりあえず孫子でも読んでおこうか?




