渾身
挑発を受けたレットブローは無言のまま震えていた。
恐怖ではない、自身の誇りに傷をつけられて激高している震えだ。
「コビィィィッ! “武牛吸炉獲 ”いくぞぉぉォォ!」
誇りを取り戻すためにレットブローは叫んだ。
【うっしゃぁ! 待ってたぜ】
レットブローは怒気と共に魔力を集め始める。
前の戦いと同様に赤い光と血管のように浮き出た紋様が鎧中に張り巡らされた。
全身からあふれ出る魔力の奔流は巨大な風を引き起こし、強大な威圧感を辺りに散開させる。
対峙するジョーは蛇腹刀を構え直すとヘビのような眼から徐々に皮膚が変化していき、鱗のようになると同時に蛇腹刀が蠢いて花が咲くように刀身が飛び出した。
荒々しく禍々しい“ソレ”はジョーが剣を振るうと周囲の地面に無数の剣閃を生み出し、結界のように両者の間に亀裂を入れる。
***ほぼ、同時刻――。
「すごい魔力が……集まってる」
カティアはグレーの陰に隠れながらジョーとレットブローの対峙を見守り続けていた。
隣で見守るフィフィがゴクリと唾を飲み込む。
「にゃぁぁぁぁぁ」
イアに至っては小刻みに震え、尻尾も耳も元気が無いようだ。
「どうしたのイアちゃん?」
カティアは気に掛ける。
「こえぇにゃぁぁぁ……」
初めて感じる野獣のような強烈な殺気に尻込みしている答えだ。
「確かに、あの“鎧アゴ割れ男(=レットブロー)”は、すごい魔力の塊よ。まるで嵐のように強大な力かも」
「で、でもさ、カティアちゃん、ジョー師匠の方は魔力を感じないっていうか、落ち着いているっていうか……なにか違うような」
フィフィは戦況から感じる感想を言った。
その事に同意するようにパポンは頷く。
「違うわ……、わたし、スネークさんに教わったの、『激流を制するは静水』って……」
真剣な劇画調表情で口調も意味深にカティアは告げる。
まるで、全て解っていますと言いたげな言い方だった。
「にゃ?ゲキリュウノチェイスイ?」
イアは言葉の意味が解ってない様子。
「わりやすくいうと戦闘を川の流れに例えた事ね。激しい流れが衝突してもよけい激しくなるだけ、流れにそって逆らわず受け流す。師匠が狙っているのはそんな所よ」
「にゃ! つまりにゃ?」
「師匠はあえて魔力を放出せずに心を落ち着けて魔力を受け流しているのよ、そして狙いは“返し技”。わたしの見た所、勝負は一瞬でつくわッ!」
カティアはちから強く断言する。
そこまで言うと――激しい暴風がカティア達の元に届いた。
***
「シイィィィィィ……」
切り裂くような呼吸で警戒しつつレットブローは目の前にいるジョーを見据えていた。
いつでも攻撃は出来る。
しかし、動いてはいない。否、動けなかった。
剣を構えたジョーが全く動いてない事に起因する。
自身の闘争心は最高潮だが、目の前にいる男は闘争心が無さすぎる。それどころか生気も、気配すら消してその場にいるかも朧げだ。
まるで人形のようだ。――そうレットブローは不気味に感じる。
その判断は獣の直観に近い。
先ほどの攻防でも捕らえ所のない動きで激しく斬り合う事も出来ずにいた。少しぶつかれば逃げる。前回と同じ、まとわりつきいつの間にか消えるの繰り返しでウンザリした事も思い出した。
しかし、現在は目標を崖のきわに追い込み。最大の好機に変わりはない。
――彼は思考する。
(いくか……それともいくか)
――まったく思考する素振りも無く結果を決める。
(いくか、激しくいくか)
――思考するという言葉も怪しくさらに思いを爆ぜる。
(全身を叩きつけるか、それとも渾身でいくか)
――彼に考える。という思考は無いに等しい。
それすら無駄に思えるほど感情は一直線。行動は勘任せ。
だから、彼はジョーに向かう。
勘と感情が決定した。
――俺の全身全霊をもって渾身の一撃をお見舞いすると。
――漢の証明をせねばッ。
(罠だとかそんなの関係ねぇ―――!)
「行くぜ! 親友』
レットブローは最大の力で跳躍し能力を発揮する。
身体に溜まった大量の魔力、それを変換消費。
魔力を筋力に、魔力を闘争心に、魔力を鎧に食わせ高重力場を形成する。
激しい魔力の放出と循環で赤黒い靄のようなものがレットブローにまとわりついて、持ち上げた武器に流し込む。
雷鳴の衝突のように急降下。
数百倍に跳ね上がった自重。はち切れんばかりに振り絞った筋肉で武器を叩きつける。
(これが―――)
目標を眼下に捕らえる。
(俺の――)
ジョーに向かい武器を振り下ろそうとした。
(“烈斗印爆屠尾”だぁぁぁ――――――――――――――!!!)
ジョーの頭上を確実に捉えた。




