再戦2
「おッ、おぉ~」
カティアが身を乗り出して目の前の攻防に熱い視線を送る。
防雨用の外のみをつけて頭に掛かるフードを手で開いて視界を確保していた。
「やりあってるにゃ~」
カティアの肩に手をかけ、さらに身を乗り出してイアは戦場を見つめる。
フィフィはその後ろ、2人の隙間から顔をだしていた。
「イアちゃん」とパポンはイアの腰を持って危ないからと元に戻そうとしている。
パポンとイアは伝統的な『パロンチョ』を着て外付けのフードを頭に被っている状態で可愛らしい様子だ。
「こら! お嬢ちゃん達。あんまり前に出ちゃいかん」
グレーが盾を構えながら注意を送った。
「「は~い」」と声が重なって返事が帰ってきた。
「そうだぜ、何が飛んでくるのかわからないのが戦場だ!」と、ラリーがかっこをつけて言った所で、[バキバキッ!!]と樹木をなぎ倒す、その辺に生えていたであろう1本の木の塊がそのまま飛来して近くに転がってきた。
「うおッ! ここまで来るのかよ!」
ラリーは驚いた表情を見せる。
「あのように油断すると危険だから前にでないようにしなさい、何が飛んでくるか分からないから」
グレーは呆れるような視線をラリーに送った。
「「は~い……」」ジョーの弟子たちの弱い返事が帰ってくる。
カティア達は身を低くしながら戦況を見守る。
「相手……木々を壊しすぎじゃない?」
「でもスゴイよね、あれだけでなぎ倒しちゃうんだから」
「あいつ、ヤベーにゃん! ポンちゃんも思うニャン?」
「うん……なんか危ないね……」
「にゃ? ふるえてるにゃ? ぐあいワリぃにゃ?」
「うん……気分じゃなくて、体が自然とふるえちゃって」
「にゃー? だいじょうにゃ……」
イアはパポンを抱きしめる。
「ぅちょうッ……イアちゃん」
「だかれるとおちつくにゃ~」
「おちついたから……濡れちゃうよ」
パポンは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「別にヘイキにゃ~、気にするニャ」
「《そうじゃなくて……》」
パポンはそのまま撫でられて抵抗する事を止めた。
「ねぇ、ちょっと何してるの?」
カティアが振り向いて尋ねてきた。
「にゃぁ~? ポンちゃんが戦いの場がこわいからニャグサメていたニャ!」
「なるほど……それじゃあ、わたしも」
カティアも優しくパポンに抱き着く。
「ほら、フィフィちゃんも一緒に」
カティアは戸惑う様子のフィフィに言うと彼女は戸惑いながらも重なるように抱き合った。
まるで吹雪の山の中で身体を温め合うように。パポンの尻尾や首元を撫でる撫でる。
「お前さん達、決闘中だぞ、何度もいうが戦場だという事を忘れるな」
グレーが呆れながら注意をしてきた。
「「は~い」にゃ!」と抱き合っている集団が返事をした。
「奥に行った、移動するぞ」
ミックがそう指示を出す。
慌ててカティア達は離れ、急ぎ行く準備をする。
その最中、カティアは木に寄り掛かってトムソーヤ・ガガンの仕立てた杖を持って「大丈夫……出来る、できる、できる」と何度も小さく呟いていた。
「サイリア師匠?」
いつものサイリアと違う切羽詰まった表情に訝し気に尋ねるカティア。
その声に振り返ったサイリアはハッと我に返った。
「な、なにかな?」
「ミックさんが移動するって言ってますけど」
「そう、それじゃあいこうね!」
焦っている様子のサイリア。カティアは疑問に思うが――『彼女の結婚をかけた決闘』だという事もあるから気持ちが揺らいでいる――と考えて大して気にも留めなかった。
***
戦場が激しさを増すと破壊されるモノが増えるのはモノの理。その摂理に従って木々がなぎ倒され環境破壊は一方的に進んでいる。
「ハハハッ!!」
戦闘部族が戦いを喜んでいるような歓喜の声を上げながら鉄塊の分厚い長柄の武器を振り回すレットブロー。
木々は崩れ空中を飛び、小石から舞い上がる泥水は辺りの足場を悪くしていった。
ジョーは小物を蛇腹刀で払いながら身体をくねらせ、伏したり、飛んだり、転がったりして攻撃を避けまわっていた。
倒木の間に隠れるジョー、すぐに隙間から伸びる斬撃がレットブローの顔面に当たる。
ケロリとして顔を戻すレットブロー。
その間に伸びた蛇腹刀を戻すジョー。
レットブローは倒れた倒木を真っ二つに折る渾身の一撃を見舞う。
激しく折れる倒木、地面の腐葉土と土塊が飛び散る。
しかし、目の前にジョーの姿は無い。
視界から消えるジョーを探すレットブロー。
高い木の幹に地面のように立っている彼を見た。
「楽しいか?」
短く問うジョーに――。
「あぁ、楽しい、この上なく。今は最高の状態だ」
兜の中で満面の笑みだとわかるほど高揚している声を答えた。
レットブローが楽しんでいる事は分かっていた。彼の言動、攻撃の激しさ、気迫、そのすべてが雄弁に語っていた。
――この男との決闘は楽しい――と。
「それは良かった。でも俺は戦いを楽しいと思って無いね」
「なぜだ? 強者との戦いは喜びだ。自分が強くなる、それを乗り越えてな。特に難敵であれば余計に面白い、それを倒した時に自分が強いと自覚するからだ」
「そりゃぁ、どっかの戦闘部族のありがたい言葉だな」
「いや、オレには解る。お前はこの戦いを楽しんでいると」
レットブローはそう言うと身を低くしてジョーのいる木に向かって猛烈な突進をしてきた。
幹を突き破り地面をえぐるほどの威力、木々は音を立てて倒れる。
ジョーはそんな騒音の現場から離れるべく木々の上を移動していった。




