バカと天才は紙一重と言うが……2
アンジーに連れられてサイリアは馬車の荷台から顔を見せた。
それに気が付いたジョーは「よう、もう平気か?」と声を掛ける。
頷くサイリア。
アンジー先に馬車から軽快に降りてサイリアを手招きする。
サイリアも覚悟を決めて操作台に足をかけて地面に降り立った。
外には雨が降っているが、先ほどよりも雨足は弱い。
レットブローはラビスとラリーの両名と怒鳴り合うように言い争う声が聞こえてくる。
「だから俺は本気だ!」
「そんな訳ねぇ! 出会いの相手が見てんのは性欲だけだ!」
【なめんじゃねぇ! オレのダチはそんなナンパな奴じゃねぇよ!】
「ウソよ! 何言ってんのッ! 男が見るのは『この女とやりてぇ』という気持ちがあってその後『結婚』になるのが普通でしょ!! 何も知らないのに結婚とか運命とか無いの!」
「あるッ! 運命はあるッ!」
彼らの話は結婚の動機から結婚に至る気持ちにまで議論を繰り広げていた。
そんな中でアンジーはラビス肩に手を置く。
「姉さん! どうったの?」
驚き振り向くラビス。
「あんた達、不毛な議論は止めときな、こういうのは本人同士で話し合った方がいいの」
「でも、こいつなんていうか“ヤバい”奴だよ」
「それでもだよ、ほら、サイリア、話してきな」
アンジーの合図でオズオズとサイリアは前で歩き出した。
「サイリア! まだ駄目だよ出できちゃ!」
ラビスは心配の声を上げる。
「大丈夫だよ、ほら、行っておいで」とアンジーはラビスが余計な事をしないか抱きしめて止める。
「ちょっとネェさん!」
ラビスは振りほどこうとするが、アンジーはがっちりホールドして身動きを取れなくしていた。そんな様子をみてラリーも一歩距離を置く。
ちなみにラビスとラリーがレッドブローと言い争っていたのは1つは個人的感情だが、もう1つは仲間の為に時間稼ぎである。
サイリアは彼の前に出てきた。
「おぉ、愛しい人、会いたかった」とまるで照れる様子もなくサイリアに告げるレットブロー。
サイリアは後ずさりたい気持ちを抑えて彼の顔、顎から目に強い視線を送る。
そして――頭を下げて。
「ごめんなさん、私はあなたの事を知りませんし、運命も感じません、だから……この話は断らせて下さい」
キッパリと、そうキッパリとサイリアは断った。
彼女の判断は何も間違っていない、いきなり求婚し、何も感じずにいた場合。迷惑と恐怖が大半を占める。断る事になんら障害も持たずに決められる類の話だ。
そしたら男の方はどう答えるのが一般的だろう、素直に諦める、感情豊かに泣き叫んで訳を聞く位だろうか?
だが、相手はレットブロー、彼の事を理解できる者など要る訳がない。
「うむ、そうか!」
快活に彼は頷く。
了承ととれるほどの返事。
しかし――「問題ない。結婚するならばこれからの話。心配はするな」と――あたかも決まったかのように話す。
「おいおい待てーいッ! 今、断られただろうが!」
ラリーは即座にツッコむ。
「あんた、オカシイでしょッ! なんで結婚する話なのよ!」
ラビスも即座に話に入った。
そんな声にレットブローは疑問も何も持たない様子で「何を言っている。母の話では結婚とは『惚れるより慣れ』らしい、だから何も知らなくても問題ない。暮らしていく内に惚れてもらえばいい話だ」と言い放った。
良い笑顔で、邪気も無い。むしろそれが恐ろしいと思えるほどの――。
「ちょっと待ちな! サイリアは断ったはずだよ。それで終わりじゃないの?」
アンジーは確認するようにレッドブローに尋ねた。
「それでは諦めきれん。運命とはそういうモノだ」
感慨深くひとり納得するレットブロー。
笑顔のまま、将来を見据えているように見える。
「ねぇ……やっぱりヤバい奴でしょ?」
レットブローを除く周囲の沈黙のあとラビスはボソッと喋った。
「えぇ、話を聞かないヤツだね」
「そうなのよ、ねぇさん。嫌われているとか考えて無いっていうか、思い込みがすごいっていうか」
「っていうか、精神力が鋼だな。あそこまで断っておいて結婚出来るって思ってるのがすごい」
ラビス、アンジー、ラリーはボソボソと話し始めた。
「いえ、あの、ごめんなさい、お断りします。さようなら」
サリイアは通じていないレットブローに再度断りを入れる。
「確かに今は気になるだろうが、結婚してしまえばそんなモノは気にならないはずだ」
「いえ、そのまえに一緒に居たくない……って、何回言わせるんですか!」
サイリアも大声で拒絶。
しかし、レットブローは豪快に笑い「気の強い、気に入った」の一言で突っぱねる。
噛み合わない会話、思想の違い、精神力の差。
この難攻不落のお断りは話し合いが座礁してしまい終わりが見えない。
「まぁまぁ、お2人さん、ちょっといいか?」
ひょいっとジョーが話の間に入ってきた。
サリイアの前に身体を置いてジョーはレットブローと対峙する。
「なんだ?」とレットブローは問いかける。
「その前にお前に訊いておきたい事がある」と平静を装ってジョーが喋りかけた。
その後ろで手話でサイリアに合図を送る『後退せよ』と。
「聞きたい事?」
「その、なんだ、俺たちはこの後依頼を急がなきゃならない。結婚という話は一端置いておいてもらって行っていいか?」
「うむ……」
レットブローは考える。
これからの事を、彼女の事を。
「――よし、俺もついていこう」と返事をした。
ジョーは予想した答えの内の1つを言われ――(やっぱりこいつ……)と殺意を覚えた。
これからついていくにしても、依頼の兼ね合いとか、移動費、食費、時間など切々と喋ってもレットブローは理解してれないとその部分は理解しているのでジョーは説得は諦めている。
時間も惜しいし、なによりこの場で決着をつけたかった。
「それじゃあ、その前にオレと決闘をしよう、最後の」と優しい笑顔で告げた。
天才は思わぬ方向から成功する人である。
バカとは思わぬ方向でどっか行く人である。
~フランソン・ベニュー~




