博引旁証3
「時に―――統治者の愛は万人を殺害する。これはよくある古来からの教訓だ」
ジョーは真面目な顔で言葉を発した。
重い言葉である為にカティアも言葉が詰まる。
だが、彼女は尋ねてみたい。
「どういう意味ですか?」
「民を愛しすぎると、その民を殺すことになるという事だ」
「でも、民を愛する事は良い事ですよね」
「治政というのは優しいだけでは成り立たない。例えば……『未知の奇病』がある村で流行したら、統治者として昔はどう対処していたと思う?」
「それは伝染病ということでしょうか?」
「その通り。有名どころでいえば『黒結晶病』、『ラオネ病』、『ハッキ病』などがあげられるが、死亡率も高い伝染病だよ」
「う――ん、隔離でしょうか?」
カティアは悩みながら答えた。
「いや、隔離なんて生易しいモノじゃない、昔は騎士団でその村を封鎖して、広がらないように村人ごと始末して燃やし尽くした」
「師匠! それほどの話を聞いた事がありません!」
「いいや、この話には史実で間違いない。過去に危険な伝染病が流行った村があった、王様が村人を助けるために人を派遣し、村を救おうとした。結果としてソコから奇病が王国全体に広がり、その国に住む何百万という国民が病に倒れ、国ごと消えてしまったという話もある。この話の本質は時に眼先のやさしさは民を殺すという教訓になったという事だ。ついでに伝染病の怖さも伝えている」
「でも、助けなかったら見殺しって事ですよね?」
「その通りだが、全体的に見れば小さな犠牲で多くを助けるともいえる。統治者は時に残酷な決断を迫られるものだよ。小さな脅威が国を揺るがす事態になる事もある。だから良い事ばかりでなく悪い事も出来なくては国や民は救えないという事だ」
「にゃーん、むずいニャ……」
イアは頭を悩ませた。自分の考えの範疇外に答えが行ってしまったから。
「イアちゃん、一部じゃなくて全体で考えるって事だよ」とパポンはアドバイスをする。
「にゃ! それでもにゃ、あたしの母ちゃんや父ちゃん、それに妹や弟がビョウキなら助けたいニャ!」
「それは難しい問題よね」
カティアも同情する。
ジョーは話を聞いて何かを思いつつ――。
「それは“情”としての行動だから正しいが、統治者の場合はそうはいかないんだよぁ~…、いいか、『人間は“情”で動き、王は“理”で動く』と言われている。個人の感情を理で制御しようっていうんだから、ムリも出てくるだろうよ。だから時には狂気じみた統治者が出るもんだ。例えば……『ヴィラド公』って知ってるか?」
「串刺し公ね!」
カティアは跳ね上がるような声で答えた。
「おっ、知ってたか」
「知ってますとも、貴族の淑女として当然です!」
鼻高々に答える彼女。
(こいつ……貴族関係の事、結構知らなかったか?)
過去の発言を思い返すジョー。だが、彼はその事実をカティアに伝えない。
「『うぃらどこう』って何にゃ? うまいヤツかにゃ?」
イアは名前のしらない人物を食べ物と勘違いする。
「違うわ、いい、『ヴィラド公』は昔の有名な貴族の名前よ。串刺し公は敬称よ」
カティアは自分の知識を披露する。
「にゃ? くしざし……肉とか焼いたメシニャ?」
「ちがう、ちがう、刺したのは人よ。敵兵を捕らえて残虐な事をやった事で有名なの!」
「にゃ! ひでーニャ!」
「それでね、敵兵を焼いて喰った事でも有名よ」
「にゃ―――……」
イアは引いていた。
話を聞いていたパポンもフィフィも同様に。
「恐公、残虐公って呼ばれているのよ」
カティアは自分の知識を披露出来て満足気だ。
「言っておくが、ヴィラド公は敵兵を喰ってはいないからな。串刺しにされた場所で普通の食事をとっていた為にそれを目撃した後世の人が勘違いをして、それがねじ曲がって伝わったんだ」
ジョーは補足を加える。
「にゃ? でもにゃ~? にゃんでそんなとこでメシ食ってたにゃ?」
「イア、それは演技だよ。後世に残る文献で狂気にかられた領主をわざと演じていた――と判明したんだ。実際に彼の統治した領地は農民の反乱など、その後3代にわたり起きてはいない。これは当時、実際にすごい事で彼とその子孫の統治能力の高さを物語っている。真の狂人にそのような事は出来ないだろう」
「むにゃ? オカシナふりにゃ?」
「理解できないなら仕方ないが、彼は結果を出しているのも事実だ。その時の時世でそれが最善だと思ったんだろう、彼の心情はともかく国主としての判断はそれほど難しい」
「なるほど! だからあそこにいる盗賊の生き残りは厳しい事をやって情報を吐かせている訳ですね。 国を守る判断として」
カティアは全てを理解したという顔を見せた。
「カティア……残念だが、やつらにそれほどの価値は無い」
ジョーはキッパリと言う。
「ほぇ?」
間抜け面の彼女。
「そもそも、重要な人物だったら外で作業させずに牢屋の中で監視する。彼らの情報なんてどうでもいいのさ『大した事を知っているとも思えないから』、適当に虐めているんだろうよ」
「なぜそれを言えるんですか?」
「そうだなぁ、多くの悪事を染める組織は、基本は横つながりだ。個々の悪事がバレても途中で切れるようにされている。実際にイアもここまで来るのに何回も運ぶ人間がかわったって証言していただろ? それは攫う人間、運ぶ人間が別々でいるって事で追跡を難しくしているし、それぞれの組織も繋がりは薄く、顔見知り程度なんだ」
「にゃ? そうにゃ! 何回か変わったニャ? ポンちゃんも覚えてるニャ」
「そうですね、何回も周りにいる人が変わっていました」
イアの保護の時点でそのように彼女は言っていた。
また、同行していたポンちゃんも覚えているようだ。
「そうやって国ごとに細かく繋いでいって発見されても使い捨てしていくのが悪の繋がりって事になる……」
「師匠、待ってください。それじゃあベルンの町で捕まったあの外国商人集団も同じように罰せられるって事ですか? 商人ぽかったのにアレも悪の手先って事ですか?」
カティアはジョーがベルンの城門前でボコボコにした商人集団を思い出した。
彼らはどちらかと言えば一般人に近い。
「ん~~~あぁ、アレは普段は他の仕事をして、併用して密輸していた商人集団だろう。悪い事もする外国の商隊だな、よくいるよ」
「でも、色々とやっていたなら罰を受けますよね」
「一概には言えない。時と場合によるかな、この場合……」
ジョーは手綱を持ちながら、どちらともいえないように告げた。
「罪に問われないんですか?」
「いや、他国が絡む場合……。状況にもよるが盗賊の集団なら処刑できるが、その商人が他国の王族と繋がっていた場合、厄介な問題になる。下手に処分しようとすれば国難になるだろうから、取り調べをして大したヤツでは無かったら処分。やっかいな繋がりがあった場合はその国に連絡を入れ、表面上は処刑したことにして、秘密裏に国外に逃がして処分を決めると思う。もちろん、その後は国外追放と同じ処分になると思うけど」
「師匠、それって卑怯ではないですか?」
「いや、下手に戦争なんかになったらそっちの方が国としては大事だ。聴きも言われもしないが多くの国でやっている事だよ」
「でも罪は罪です。おかしい」
「言っただろ、統治者ってのは国民に嘘をつく事もあるって話だ。納得できないなら子供だな」
「う~~~」
唸るようにしてカティアは納得できないと顔に書いてあった。
「いいか、どんな難事でも過去を見るより、まだある未来をみて行動する方がいい。悪事を裁けなくても、正義を貫いて多くの人を巻き込むような事は国家として間違いだと思わなきゃならない、統治者は悪と善、両方できなくてはいけないというのは、そういう意味だよ。現在は理解できなくても大人になって理解すればいい」
諭すようにジョーは言うが――「やっぱり納得できません!」とカティアは駄々をこねた。
フィフィもイアもパポンもカティアと同じ気持ちだろうが黒と白の境界、灰色の気持ちのまま馬車は道を進んでいき、処刑建設場所を遠くに眺める所まで来ていた。
次回から新しい章に突入します。
そう、ついに国外に出るって事です。




