ポンちゃんについて
『ポンちゃん』こと『ゾラ・ポポロン・タイ・パポン』という不思議な名前の少女はイアの元に戻ってきた。
治療院で最高の治癒をしてもらい体の傷はほとんど目立たないように消えている。
治療を終えた彼女にイアは抱き着き、ゾゾロとプミプミはペロペロと顔をなめていた。
愛情表現の一種か? ――とジョーは考えるが、お国柄だから判断できない。それより彼には心に引っかかる事がある。それは、昨日にニコに言われた「ゾラ~何々(なになに)~タイで、何とかの王という言い方ではないか?」と疑問を投げられてしまい、ジョーは(王族の娘?)と内心動揺する。そうなれば色々と危険度が増すし、重い問題だ、むしろ精神的負担に関わる重大な案件である。
そこで彼は1つの規則を決めた。
目の前にいる少女パポン、見た目も愛らしくピョコっと飛び出した独特な耳、黒っぽい毛艶の髪、少したれ目の印象のあるこの少女を『礼儀正しい教育をされた模範的な少女』として扱うようにしたのである。
決して王族の血筋を引いているとか、そんな余計な事を考えないように――。
「よろしくパポン、君を護衛する指揮をとる。ジョーだ。 気軽に『ジョーお兄さん』と呼んでくれて構わない」
過去、類を見ない好青年な姿で接するジョー。見る人が見たら引くだろう、実際にサイリアやその他の仲間も無言で彼を見ている。
「はい、よろしくお願いします」と流暢な大陸共通語で挨拶する気品の高さを匂わせながら握手を交わした。
ニッコリ笑って返すジョーにパポンは友好的に笑い返した。
***
盗賊を退治して8日後。ターンからの書状が届き正式に獣人国までの護衛を任される事になったジョーは(やっと出発か……)と長い時間を拘束された王領バクバから離れる事が出来ると安堵した。
ジョーにとって朗報はそれだけでは無く、パポンの護衛は私用依頼に近い上に追加料金と子供たちの食費の別途請求が出来る事になった。もちろん帰国後の報告義務はあるのだが心の重荷は少し外された恰好だ。
そうして、この長い時間の逗留を認めてくれたインブロック商会のバクバ代表ビルビスと、その息子ユーイ、そして護衛のサグラとイア達を世話したヘレンを始めとした屋敷でお世話になった人との別れとなる。
「長い事お世話になりました」
「いえいえ、ジョーさん達のおかげで町が平和になりましたよ」
ビルビスとジョーは握手を交わす。
「また戻ってきてください、いつでもお待ちしております」
「えぇ、その時には伺わさせて頂きます」
ビルビスとの挨拶の後、ユーイやそれぞれと挨拶を交わして馬車に向かった。
顔繋ぎとしての挨拶は大事だ。
冒険者≒商売人なのだから。
「おーい、置いていくぞ!」
ジョーはまだ話し込んでいるイアやカティア、フィフィにパポンに声をかける。
驚いた様子で振り向いた彼女達は急いで別れを惜しむと駆け足で馬車に向かう。
ジョーは操縦席に座るとサイリアがすでに座っていて操作用の手綱を渡してきた。
受け取ると座り直し、後方の確認。
「乗ったか?」
馬車がガタガタと揺れてジョーは乗り込む弟子を見た。
「全員いる?」とサイリアは尋ねた。
「「いまーす!」」と元気な返事。
カティア、フィフィ、イア、パポンは荷物の隙間に腰を落ち着ける。
ちなみに、ゾゾロとプミプミはニコの馬車に移った。理由は馬車容量過多の為だ。
人数確認後、手綱を操作して愛馬パインブに合図を送った。
ゆっくりと馬車は動き出す。
「出発だ―ぁ!」とカティアは元気よく発声する。
「ニャ―――!!」
「いくよ!」
「ポンッ!」
同乗者が思い思いに声をだしてテンションは高いが、操作するジョーとサイリアは静かなものだ。
まるで家族旅行に騒ぐ子供と、これから長い時間運転する親達に似ている。
そんな事はお構いなしにカティア、イア、フィフィ、パポンは荷台後方から街並みを見て楽しそうにお喋りをしていった。
王領バクバ南の城壁門にたどり着き、何事も無く順番に城門を通過した。
ゆっくりと東の方に馬車の方向を向け進んでいく。
これから行く所は王国東の国境地帯の関所。
通商路で整備された道路と、途中にある集落などで情報を集めれば自然と行きつく場所だ。
城壁沿いの道を進んでいくジョーはその近くに集団で作業している兵士の一団を確認した。
(げッ! もうやってやがる)
ジョーは出会ってしまった不運を嘆くが、馬車をここから反転は出来ない、このまま進んだ方が近い――そのために少し静かに進んだ。
その集団は木材を運んで建造物を作っている。閂のようなコの字方を作り、門のようなモノを地面に立てていた。
それも道端に連続して同じように作る。
「あれは何をやっているのかしら?」
隣にいるサイリアも疑問に感じている。
「にゃ? あれにゃんにゃ?」
ひょっこりと前にきてジョーとサリイアの間から急に質問するイア。
「あ――――――。あれは知らなくていいモノだよ」と気のない返事をジョーは返す。
「にゃ! 見て見るニャ! つながれているヤツが動いているにゃ!」
イアは指をさしてその者を見つめた。
「にゃ? にゃんか見た事あるにゃ?」
不思議そうに見つめるイア。
「そりゃそうだ。賊の生き残りだよ」
ジョーは正解を言った。
「にゃ! あいつらにゃ!」
「そうだ」
「にゃ? にゃにやってんにゃ?」
「あれは……見せしめ用の『首括り』を造ってるのさ」
ジョーは物静かに感情を消して説明する。
「師匠、首括りって何ですか?」
話を聞いて後ろから前にやってきたカティアが間に入った。
「首括りは、簡単にいうと罪人を見せしめに使う為によくやる断罪用の行為だ。罪を犯した者の遺体の首にロープを括って吊るし、そのまま放置しておく事を言うんだ」
「なるほど……相当にシンコクですね」
それなりに神妙に答えるカティア。
ジョーは振りかえって、ギロリと疑いの目を向けると「どこが深刻なんだ?」と聞き返した。
「えっと……」
目が泳ぐカティア。
ジョーはため息を吐くと手綱を弱く2回引いて馬車の速度を緩めた。




