後日談3
「先の件で調べを受けているライラを初め、盗賊団との関わりのない者への寛大な処置を切に願います」
ジョーは頭を下げたまま礼を持って言葉を並べた。
「……えぇ、当然です。国法に則り厳正に精査した上で処罰を決めます。関わりが無いと判断されたのであれば無罪になるでしょう」
ターンはしばし考えた後、穏やかな声でジョーに応えた。
「それを聞いて安心しました。ライラ達が拘束されたと聞きましたので」
顔を上げ、ジョーは笑みを見せる。
無実、無関係の者が巻き込まれるのは彼としても後味は悪い。
「それは間違いです。確かに身柄を預かりましたが牢屋に入れずに施設に別々に軟禁しております。彼女達にとっても非難されないような処置と、他者との交流を断つ事で真実の証言が得やすいと考えたからです」
穏やかな口調が真摯に告げていた。彼女達には何もしていないと。
「それで……対応を?」
「メンバーの冒険者証明書は一時的に停止されていますが、事が終われば戻しますよ」
「実際にパトリスの処遇はどのように?」
「冒険者組合の組合員資格完全剥奪と国家放逐が妥当な線かと、他にも度合いによって賠償金の支払いを決めております」
「なるほど……」
ジョーは考え込んだ。
パトリスの処遇に関して、冒険者組合の利用は協定範囲内で禁止され、依頼も受けられなくなる厳しい処置だ。
ギルドのサポート、様々な施設の利用も出来なくなり、冒険者組合の領域内では仕事も出来なくなる。同じような仕事に就くならば私用の依頼だけだが、一般的な依頼は来ないだろう。無分別のまま自分で判断する事になる。
残された道は冒険者組合の干渉外に逃れて仕事をするか闇の仕事をするか、それともまったく別の道に進むしかない。
冒険者としての信頼を無くした者はこのように仕事選びにも困窮する、組合のサポートは思いのほか大きい恩恵をもたらしている。
パトリスの行いは悪い事例だが、彼の場合、パーティを率いていた為、さらに悪い結果がついて来る。その悪名は一緒に組んでいた者たちにも暫く尾ひれ付きの噂が流れてもおかしくは無かった。
(そう考えると……オリとかカチーナに頼んで鉄庸の団が古い時代から続くって話だし顔役を務めて守ってもらう方が得策か……。冒険者追放された者のパーティのままじゃ外聞が悪くなりすぎる)
完全では無いが微力ながら力に慣れたらと、――この問題を引き起こした者の1人として思案する。
間接的にだが、結果としてはジョーが捕まえて露見した今回の件は、ジョー側にしたら必要な措置で、パトリスにしたら余計な事、ライラ達は巻き込まれたという単純にして因縁深い。
「今回の処罰は甘いか厳しいかは罰を受ける者が感じる事、刑罰は国が決まる事なのでジョーさん自身が気に病む問題ではありません。国は常に平等に賞罰を決めねば成り立ちません。それは常に弱者の為でもあるのです」
と――ターンはジョーの心中を察してか添えるように告げた。
「まさに、その通りです。今回被害を受けたのは善意の者たち、その報いを……悪は必ず罰を受けねばなければなりません。公平な判断は常に国の維持に必要なことですね」
笑みを浮かべ“心にもない”言葉を紡ぐジョー。
「――しかし、今回の件は少々厄介。町の中にも協力者がいては……。その件の解決の目途は立ちましたか? 商家の中にもいると聞き及んでいます」
「う…む、難しい話ですね。商人組合との連携は済ませてありますが、確証が欲しい所です。現在は捕らえた賊を絞って証拠を吐かせています」
眉間に少し筋を作りターンは答え、横にいるウォーズナーの顔を覗いた。
「なかなか吐かないので、こっちも色々と策を練っています……が、尋問も強めても正しい情報を吐くか怪しい所です。むしろ、知ってはいなかった可能性もあります。悪の道は秘道と申しますが……」
ウォーズナーも同じく眉間に筋を作って意見を述べた。
「あぁ、なるほど。悪人は“横の繋がり”が強く出来ていますからね。いくらでも情報は切れるということですか」
ジョーがそう言うとウォーズナーは頷いた。
悪の道の組閣問題というべきか、今回のように盗賊団が国を荒らした場合、この場所に来るまでに色々な情報が流れていると見るべきだ。
その情報源、それは一般的な組織形態ではなく、各集団の単独の行動であり、交換する情報は匿名、そして認識も曖昧であるのが多い。
何故なら、情報の伝手を辿っていく事を阻害し、どこかで切る事が出来るのが悪の道の正道。1つが捕まれば他が離れる、そうして生き残る。
これをずっと繰り返してきた。
芋ずる式を回避する為に取られる昔からの悪の常套手段になる。
だから、その情報が何処からという話は霧散するという事。
「元より……。こちらも目ぼしい情報は期待しておりませんので」
表情からは読み取れないが苦々しく思っているのは間違いない。
ウォーズナーの言葉から、ジョーは何かを思い出した。
「そう言えば……私達が拠点とする、ベルンの町の城門で他国からの商人が捕まり、その時に怪しい粉末を押収しています。もしかすると、この件に関連したモノかもしれません」
「本当ですか!?」
驚いた様子でウォーズナーは聞き返した。
「えぇ、領主のベルンバッハ卿が王都に罪人を輸送するとは聞いていましたが、その後どのようになったかは解りかねます。その件は直接連絡を取り情報交換を行った方が最善でしょう」
「確かに、さっそく文を送ってみます」
「その方が賢明でしょう。さらに小言を言わせてもらえば。情報に流されるのではなく、事実を積み重ね、並べていった方が真実にたどり着きやすいですよ」
ジョーは助言を送るつもりでウォーズナーに告げた。
「……心に留めておきます」と納得した表情でウォーズナーは1つ頷く。
(……嫌味には取られていない様で安心した)
ジョーは安堵しつつ、ターンとウォーズナーの会話を堪能していく。
――閑話休題。
「それでは、貴重なお時間を取っていただき感謝します」
ジョーは立ち上がり帰り支度を整え立ち上がった。
「いえいえ、お気になさらず。レリーア、ジョーさんをお送りしてください」
ターンの後方に控えていた女性護衛騎士レリーアは一礼すると命令を受諾する。
「それでは後日、再び伺わせて頂きます」という言葉を残しジョーはレリーアに誘導されて部屋から出て行った。




