後日談2
イアは親友のゾラ・ポポロン・タイ・パポンことポンちゃんが治療を受けている治療院にお見舞いに言っていた。道中の案内と護衛もかねてアンジー、ミレイ、ラビスの3名が付いて行ってくれた。
イアはとにかく機嫌が良かった。
親友が救出されて明日にも退院できると報告を受けたからだ。
それが嬉しさとなって尻尾にも声にも出てしまっている。
「《にゃ! ゾゾロどうしたにゃ?》」
庭の中央でニコに教えられ棒を突いているゾゾロに声をかけた。
「《あのね……ヤリをならってる》」
「《闘えることはいいことだにゃ! えらいにゃ!》」
イアは機嫌よく褒めるとゾゾロは毛並みのいい尻尾を振り振りとして明るい表情を見せた。
頭を雑に撫でると「《がんばんにゃ!》」と声をかけてその場を去った。
次に向かったのはサリイアと一緒にいるカティアとフィフィの所に向かった。
「にゃあ! 帰ったニャ!」と元気よく挨拶する。
魔術の手を発動して集中していたカティアとフィフィは持っていた石を落としてしまった。
「イア、お帰りなさい」とサイリアが見守る母親のように返事をした。
「ただいまにゃ!」
「お友達は元気だった?」
「元気ニャ! 明日にでも帰って来るニャ!」
「退院できるのね? よかった」
「にゃ! そうにゃぁ! うれしいニャ!」
「ねぇねぇ、どうだったの? 体調は良くなった?」
カティアはそう尋ねた。
ポンちゃんは奪還したが体力の衰えが激しくそのまま入院し回復を待っていた。面会は親しい身内のみ時間制限を伴って許可された事からイアだけが会う事になった。
この3日間決まった時間に欠かさずイアは治療院を訪れ、ポンちゃんと久方ぶりのトモダチ時間を作っていたのだ。
「にゃ! よく食べてたにゃ! みんなにオヒロメにゃ! よかったにゃ!」
イアのテンションは高い。
「一緒に帰るんだから当然だよ」とフィフィは優しく言葉をかける。
「そうだったにゃ! みんなで帰るニャ!」
手を振り尻尾を振り狂喜乱舞の一歩手前に留まる彼女は明日の事が抑えられない感じだ。
そんなイアの様子にサイリアもカティアもフィフィも嬉しそうにしている。
「……! それでプミプミはどこだにゃ?」
イアは突然あたりを見回しいないメンバーを探していた。
「さきまで屋敷の中で寝てたよ」
カティアは訓練前の情報を話しておく。
「それじゃあ後で探すニャ! そのまえにシショーにホウコクにゃ」
そうしてイアはジョーの元に歩んでいく。
木箱の上で寝転がっているジョーを前に歩みを止めた。
先ほどまでよりも表情は硬い。尻尾はピンと真っ直ぐたって警戒を強めていく。
「にゃー! もどりましたにゃ! ポンちゃん元気だったにゃ! イアはイイコですごしましたにゃッ!」
ハキハキとこれまでの事を報告するイア。
軍隊の上官と部下の関係のようだ。まるで獣の集団のボスと配下のような上下関係が現れていた。
「うむ! よくやった。ポンちゃんは体調が戻ったら出られると聞いたが、どうだ?」
寝転がったままのジョーはその体勢のまま動かずに口だけ動かす。
「あした、出られそうですにゃ!」
「よしわかった。さがっていいぞ」
「にゃ!」
イアは元気よく返事をして、体を反転させるとその場を去った。
実に素早くカティア達の方に戻っていく。
【あぁ~あ、すっかり怖がっているようだな】
スネークの声が呆れを増して聞こえて来た。
「いいんだよ。いう事を聞いてくれて、こっちが楽になる」
【それは統率者としての孤独という奴か?】
「関係ねぇよ、バカ!」
ジョーはそのまま頭を落ち着け瞳を閉じた。
***
――討伐から4日間が経過した。
その日の午後、領主の館に呼ばれたジョーは代理領主であるターンと盗賊団壊滅の指揮をとったウォーズナーと共に一室で説明を受けていた。
盗賊団の処置、捕えられていた者の処置などの説明だ。
円卓に3方等間隔に座り、ターンの傍には秘書のような護衛騎士レリーアが控えている。
迎賓を迎える部屋なのだろう、調度品も品が濃すぎないように配置され。何より家具から同列に扱うという事を示しているので、領主ターンのもてなしの格が上がったと見ていい。
「――その様な所で、王都から依頼書があと2日で届くはず」
ターンは軽やかな口調で目もとのクマもなくなりさわやかに報告してくれた。
彼にとって面倒ごとが1つ減り、それから好転し始めていた証拠だろう。
ポンちゃんの処遇はジョー達の預かりとなった。
「わかりました、その時またお伺いしましょう」
ジョーは一礼して依頼を受けるポーズをとった。
「他に何か知りたい事はありますか?」
ターンはそう尋ねた。
「そうですね……冒険者だった、パトリスはどうなりました? あの後の処遇をお伺いしても?」
パトリスとは“鋼華の剣”のパーティの剣士だった男性の事だ、結果としてジョーの策略に嵌り、盗賊団との繋がりを暴かれ拘束された。
ジョーの質問にターンは部下のウォーズナーの方をチラリと見た。
彼がその件の担当なのだろう。
ウォーズナーは咳ばらいをすると――。
「その件に関しては尋問は続けております。しかし、現在は中断しており進展はありません」
「中断ですか?」
取り調べの中断など珍しい事からジョーは訝し気な表情を見せた。
「えぇ……どうやら薬の中毒症状が出始めたようで、証言が支離滅裂なまま倒れたとか……」
答える方も困り顔だ。
禁薬の服用にそのような効果がある事が初めて実証されたので、そのための中断なのだろう。
「なるほど……禁薬症状ですね。それも洞窟で見つかった新種であると?」
「それは……確定的ではありません。なにしろ成分が分からず、どのような症状がでるか……。しかし、それに近いものだと思っています」
「確かに専門家に判断を委ねた方がいい案件ですね」
「えぇ、そちらの方も王都から特別部隊の配備を願い出ています」
ジョーは回答に納得いったが、ふと“禁薬”と聴いて思い浮かんだ事があった。
「禁薬について捕まっていた人が薬漬けにされていると伺ったのですが、あの件はどうなりました?」
その事を思い出したウォーズナーは渋い表情をする。
「その件は難しい判断を迫られている状態で……現在、早急に対策をしている所です」
歯切れの悪い回答に全てを察するジョー。
「なるほど……、わかりました。薬師の男性が保護され、その方が製造に関わっていたようですが、その後どうなりましたか?」
むりやり話題を逸らすために似たような話題を振った。
「そちらの件も進めていますが、男性の精神状態が不安定で調査も少しずつという所です」
「精神状態ですか? 何か薬の影響で?」
「いえ、どちらかと言えば自責の念でしょう。強制とはいえ禁薬の製造に加担してしまった為でしょう。時間はかかります」
「あぁ……、そうでしょうね」
ジョーは納得した表情を見せた。
「しかし、その件に関しては私どもととしても不問にしております。なにしろ命がかかった選択ですから、それを罪に問うのはいささか酷というもの」
ターンはその件の処遇を述べた。
王国では一般的に領主であるターンのひざ元で法の裁きが行われるのが通例であり、これから更に関わった者が裁かれていく。
もちろん、国に関する重大な懸念がある場合、王家の命令で王都での執行を了承する例外もあるが、そのような措置は稀だ。
「確かにそうですね。ターン様、お願いがございます」
ジョーは改まって慇懃に礼をした。
いきなりのジョーの動作にターンの椅子は背もたれが動くほど身を引いて驚き。
「なんでしょうか?」と――様子を伺うように尋ねる。




