後日談1
盗賊と討伐して3日間経過した――。
陽気な陽の光が広い土地の屋敷の中庭に降り注ぐ。
中庭ではニコとミックが模擬戦を繰り広げ、ラリーとグレーは型稽古をしながら棒を振るっていた。すぐ近くではサイリア指導の元、カティアとフィフィが魔術の基礎訓練、“石積み”を行っている。
その脇の建物、その傍にある中型の木製の空箱の上でジョーは寝そべって空を見上げていた。
「平和だねぇ~」と言いながら。ゆっくりとくつろいでいる。
彼らが王領バクバの町に留まっているのかは、助け出したポンちゃんの回復待ちと、何より領主によってこれまでの報告を王都にいる王様に届け出ている為だ。
そこで報告のついでに獣人族の子供を戻すように協定に従って依頼するようになるだろうと解っているが、それまで回答待ち。
回復したポンちゃんを勝手につれて去るような暴挙は出来ない。
あくまでも依頼の追加という形で連れていきたいのは、領主もジョーも同じ思いだろう。
二度手間などはもっての外だ。そのために返事が来るまで暇になった。
なので、空いた時間に訓練をしている事が一番の時間つぶしになる。
【おい、油断してていいのか?】
木箱の傍に立て掛けている蛇腹刀はやる気のないまま寝ているジョーに問う。
「油断してんじゃないよ。英気を養って、いつ動くか分からない仕事に備えてんの」
【とても見えん!】
「さっきまで訓練はしてただろ?」
【あっちにいって模擬戦闘に混ぜてもらえばいいだろう】
スネークの言葉に顔を動かしてニコ達が訓練している方を見た。
そこで樽の物陰からジッとラリーとグレーの動きを見ているゾゾロを発見する。
彼は枝をもってラリーの動きを真似始めた。
「たー! らー! あー! たー!」
ゾゾロはそれっぽい事を口にしながら枝を振り始めた。
「おッ、ゾゾロ! なんだ槍を習いたいのか?」
ラリーは機嫌よく彼に声をかけた。
尻尾を振り、キラキラした瞳をラリーに向ける。
「槍はいいぜぇ~、なんと言っても奥が深い上に幅広い運用が可能だ。男なら槍をもって戦場に行くという浪漫があるよな、それに男はもともと股に槍を持っているからしっくりくるのは当然だな」とシモネタ混じりに槍の道を説くラリー。
手に持っていた長手の棒を股に挟んでズコズコと前後に動かした。
「これ、止めておけ!」とグレーが呆れながら注意する。
「どうしたんだ?」
稽古を終えたニコが後ろから声をかけた。
「ゾゾロが槍を習いたいってさ」とゾゾロの行動からラリーが代弁した。
「そうか……」
ニコは膝をついてゾゾロと目線を合わせる。
優しく頭に手を置き撫でた。
「《槍を習いたいのか》」
彼に分かるようにニコは話した。
3回頷いて「《ならいたい!》」とゾゾロは返事をする。
「《それで、つよくなって……みんな、まもる》」
ゾゾロの行動原理にニコは驚き眼を開いたが、すぐに目を細めやさしく頭を撫でた。
「《そうか……強くなりたいよな》」というニコの言葉にゾゾロは嬉しそうに頷いた。
「ゾゾロなんて言ってる? 槍の練習がしたいって?」とラリーは尋ねる。
「あぁ、そうらしい」
ニコは機嫌よく答えた。
「それじゃあ、ニコが教えてやれよ。獣人語話せるし」
ラリーは何気に言う。
「それは……」とニコはくぐもった声をだして困った表情を見せた。
撫でられているゾゾロは心配そうにニコを見ている。
「ニコは“弟子取らず”だったな」とミックが一呼吸おいて間に入るように言う。
「あぁ……。私のは我流だし癖もある。正統派とは、ほど遠い……」
声のトーンを落としニコは答えた。
「それでもいいじゃんか! 弟子じゃなくて教えるだけだし、我流でもなんでも槍っていうのは自分自身を出すもんだからさ、癖がどうこうの問題じゃないとおもうんだよねぇ~」
ラリーはあっけらかんと答える。
「そういう話じゃない」とグレーは呆れたように言った。
ニコはラリーの言葉に思う所があったのか考えるが――その後で心配そうに見つめるゾゾロの顔を見た。
ニコは微笑みながら「教えよう」と言った。
そして孫を世話するように頭を撫でると「《ゾゾロ、戦い方を教えよう》」と彼に告げる。
その言葉にさっきとうって変わって笑顔のまま元気よく尻尾をふるゾゾロ「ワァン!」と吼えたように返事をした。
「《ゾゾロ…よく聞くんだ。教える前に槍の扱い方について教えておくことがある》」
「《あつかいかた?》」
「《槍は3つに分けて使う。『突く・叩く・払う》だ。これが全てになる。では言ってみよう。つく・たたく・はらう》」
「《つく…たたく…はらう》」
「《よく言えた》」
ニコはゾゾロの頭を強めに撫でた。
ゾゾロは気持ちよさそうに笑みを浮かべる。
ニコの手触りが良かったのか天にも上ったような表情になった。
ミック、ラリー、グレーの三槍将の面々はすごくいい笑顔でその様子をみている――当然、これまでのやり取りを木箱の上に寝っ転がったジョーも。
ジョーはあの日からゾゾロとプミプミがなんとなくぎこちない表情でヨソヨソしくなると感じる、それは、イアの尻を叩いて恐怖心を植え付けた事が原因だとジョー自身も自覚はしているが――。
(あの、人懐こさはどこにいったんだろう? 前はよく足元にくっついて尻尾を振ってくれたんだよな……)
哀愁と懐かしさが同居し、何よりも愛くるしさが無くなって久しい。
ジョーを見ると後ずさり近くにいる人や物陰に隠れたりして距離を取られていた。
頭を撫でようとすると固まったように動かなくなり銅像と化したまま、耳も尻尾も垂れ下がり硬直する。などなど―――。
現在はニコがゾゾロに新しい棒を与え、中段突きの型を習っている様子を見ながらシミジミ思っていた。
「にゃんにゃん♪ にゃんにゃん♪ 楽しいニャン♪!」
そんな所にイアが歌いながら商家の門を潜り姿を現す。
後ろにアンジーとラビスを従えて「たたいまニャ―――!」と元気よく帰還の返事をした。




