逃走
「うおぉぉぉぉぉ―――!!」と叫び声をあげてレットブローは初めの開かれた場所に高速で飛来する。
地面に接触―バウンド―華麗に回転―再び地面に接触―無様に転ぶ――転がる転がる。
という一連の行動を終えた後、レットブローはヨロヨロと立ち上がった。
「やられたなー、俺の武器は……どこだ?」
キョロキョロと辺りを見回し、最後に覚えている微かな記憶は蔦のような根と波のような土に閉じ込められた記憶だ。
【あそこだぜ!」とコビーが意識を向けるのは損壊した物体の方だ。
「あそこだったな」とレットブローが歩んでいくと――。
「でてきたぞッ! アイツだぁぁッ!」と誰かの声が響いた。
その先に指揮をするのはウォーズナー本人が剣を持って待ち構えていた。
激しい威圧の声が響く。
「弓隊、構え! 魔導部隊も続け!」
ウォーズナーの命令が下る。
「敵は単独、集中しろ!」と副官の声の共に発射の合図が鳴り。
魔力を込めた矢がレットブローに向かって降ってくる。
しかし、レットブローに効いている様子は無い。
「炸裂弾準備!」とウォーズナーの号令で何名かが球体状のモノを飛ばした。
レットブローの近くに落ちてくるそれは――彼がなんだと思う間に爆発を起こし激しい音と閃光が飛び散る。
対大型魔獣対策兵器『魔導式時限破裂型“竜火球”は――名前の通り激しい爆炎が起こり衝撃波を同時に生み出す破壊力で敵を撃退させ、さらに音と閃光で怯ませる事を目的とするブリューシュ王国軍に配備されている兵器の1つであるが、作成がバカ高く、配備数に限りがあるのが欠点になる。
勿論、単独者それも人間に使う事など初めてであり、普段は大型の魔物に使用し、場所と用法関しても味方との距離を十分に確保し周囲の危険が少ない場所に限られる。
しかし、レットブローは大型魔獣と変わりない危険度だと判断されたのだろう。
ウォーズナーは遠くから追い詰める戦略に変更をした。
「どりゃぁぁ―――ッ!!」
転がるレットブロー、魔力切れの為に防御にも重さ調整も出来ない彼は、なんとか姿勢を直し、そのまま駆けだした。
目的は物体の陰に隠れる為だ。
攻撃が絶え間なく襲い掛かるが、ウォーズナーの部隊から陰に隠れる事ができた。
「なんて奴らだ! 俺たちが何をしたと言うんだ!」と怒りの声をあげる。
【そういやぁ、アイツらの仲間をぶん殴っていたか? あんまり覚えてないけど】
――考えるレットブロー。
「あぁ、あれか! そうか……それじゃあ仕方ない、よし! なってしまったモノはどうしようもない! やるぞ!」
勝手に完結するトンチンカンな思考回路。後悔の2文字はこのふたりには程遠いようだ。
とりあえず、ラビスとミレイの造った魔術の残骸を壊していく、中に取り込まれている彼の武器を取り出すのを目的にしていた。
そんな中で、物体を壊す爆発が再度起きる。
残骸は飛び散り、中からレットブローの愛器が飛び出してきた。
「おぉ、ついているぞッ!」
この状況で、この言葉を吐けるのはレットブロー位なモノだろう。
ツキが在るようには到底見えない。
「ガハハハハハハッ、逃げるぞ親友よ」
【よっしゃッ! 行くぜッ!」
彼はソレを手に取って激しい攻撃に晒されながら颯爽と森の中に逃げ出した。
***
遠く離れた――木々の影でジョーは様子を伺っている。
先ほどの姿とうって変わって普段のジョーに戻っていた。
蛇腹刀を背中に背負い直し、物陰に隠れ静かにする。
「よしよし、アイツは逃げ出して……一応、討伐隊の終わりとしては恰好がついたな……」
レットブローが逃げ出した事に対する勝利の歓声が聞こえて来た。
【それにしても良かったのか? ジョーよ】
「なんだよ、改まった聞き方しやがって」
【なに、あのままアイツを締め上げ殺す事も出来たはずだ。それを逃がして終わりにするなんてアホらしい】
「いいんだよ……。目的は達した。討伐隊としてのメンツも保った、存在外奇妙を始末しようとしても後が面倒だし、何よりも時間の無駄さ」
【ふん! 言い訳だな】
「なんとでも……これ以上依頼が遅れるのも勘弁だしな、面倒事はもっと勘弁だ。幸い奴は考えるって事をしない。悪事も考えないし人の事も考えないなら放置するのが一番なんだよ」
【甘い、甘いな! ヤルときはヤルんだよ】
「ずいぶん好戦的な意見だな」
【別に!】
「ハイハイ、それじゃあ、もう一つの理由を言おうか?」
【何かあるのか?】
「なに、スネークの“お友達”を悲しませちゃ悪いと思ってな」
【別にアイツはッ! トモダチじゃぁッねーしッ!】
今までにない声でスネークは否定するがジョーは笑い声をあげた。
「そんなムキになるなよ。ごめんなぁ~図星だったか……」
【図星じゃねーよ、アホか!】
「はいはい、それじゃあ戻るか……」
ジョーはそう言って物陰からゆっくりと歩きだして広場の方に向かって行く。
スネークが小言を言っていたが聞き流し、そしてレットブローが逃げた方向を向いて――「もう、絶対に会いたくないな……」と呟いて、また前を向いた。




