結末
レッドブローの言葉を聞いたジョーは少し考えて、こう告げた。
「じゃあ、逃げろよ」と事も無げにレッドブローに言い放つ。
「―――――――――――あッ?」
ジョーの言葉に沈黙の後で間抜けな声を出した。
戦士である彼は“覚悟”も決めており、闘争の結果の不幸は受け入れるつもりだ。
だが、逃走に関しては受け入れるつもりはない。
【何言ってんだ! お前ぇッ!】とレットブローが喋る前にコウベェことコビーが口を出した。
【――正式な決闘だぞ! 逃げるなんて出来るか!】
「正直に言えば一対一でやろうとは言ったが決闘で決着をつけるとは言ってない、よって正式なタイマンだという事では無い」と答えた。
「オイッ! 何言ってる!」と怒り気味のレットブロー。
「初めからやり合うつもりも無かったが、お前をつれて時間を稼いだ方が俺にとって都合が良かったから連れ出しただけだ。目的も達成できたし正直これ以上の戦闘に意味は無い」
「だが、やり合った。それでは決着を付けねばならない!」
「あぁ、けど、決着はついてるだろ? お前は動けない、俺のいいようにされているから、俺の勝ちだ」
「何を、この程度で……」
レットブローは藻掻くが抜け出せる様子は無い。
「回復もしてないだろ? それは魔力をスネークが“喰ってる”からだ。逃げ出そうにも何もできない動けない。生殺の権利は俺にある。 わかるか?」
【動けねぇだろ? もう終わりだ。 このまま絞め殺すのも簡単なんだよ】とスネークが告げる。
蛇が獲物を締め上げるのに似ていた。
【なんだとぉ、負けてねーだろがぁ!】
【うっせぇーウシ野郎! お前の負けだ!】
【あぁッ! これからなんだよ――】
【バーカ、マヌケ野郎。すっかり罠に嵌りやがって――】
口げんかする存在が(自称)高貴なる剣と鎧の。
ここでも底辺の会話は続く。
「五月蠅いから黙ってろよ」とジョーが注意した。
それでも彼らは止まらないのでジョーは呆れながら無視する。
「よく聞け、レットブロー。お前はこの戦いの前提を間違えている」
「―――間違いだと?」
声から疑念が滲み出た。
レットブローが考えている(無い頭で)と感じるジョーは続けざまに言葉を発する。
「――そもそも、これは討伐任務なんだ。この国の依頼なんだよ」
「依頼?」
「そう、王様からの命令、解るか? この国を治める者が近隣を荒らす残虐非道な盗賊を討伐するという依頼だ」
ジョーは若干の誇張を加えながら大義名分をハッキリとさせる口調で言って、先ほどの話をずらし、そして口八丁で論点をすり替えようとする。
聞き入っているレットブローは大人しく、その様子にニヤリと内心思うが一切表情は崩さない。
「盗賊? 何を言っている?」
「まだ、理解してないようだけど……お前が守った仲間が賊の集団なんだよ」
彼は口を閉じて黙った。そして――。
「――……な、なにぃぃ――――――――――――ッッ!!!!!」とこれま一段と大きい驚きをする。
(はいはい、やっぱりわかって無かったのね。 そんな感じがしたんだよ)と予想した彼の驚きにジョーは冷静に受け流す。
「バカなッ! 盗賊とは極悪非道でやさしさの欠片も無い奴らじゃないかッ!」
「そうだね、その通りだよ」
「でもなッ! やつらは腹が空いた俺に飯を食わせ、寝床までくれたんだぞ!」
「そうだね、でもな、飯と寝床を用意してくれただけで盗賊じゃないってどういう思考回路だ? それに洞窟っていう時点で怪しいと思えよ、むしろ他に捕まっていた人とかいただろ? それはどう思った?」
「いや、それは俺も気になったけど、悪い事をしたバツだとか言って……、お仕置きの為に仕方なくとか言ってたような感じだった……後は寝てしまった」
「そうか……(話をそのまま鵜呑みにするとか状況確認とか適当だな……その程度の言い訳で寝るとか、バカだろ! いやバカだったわ)」
色々言いたいことが多いが、むしろ戦闘で滲み出る、無計画さは理解していたので――もう、驚く事はしないジョーは哀れみにも似た表情でレットブローを見つめていた。
「いいか、彼らは賊で間違いない、決定的証拠も押さえている」
ジョーはレットブローに告げた。
「いやッ! 俺は信じない!」
(なんでだよッ! そこは信じろよ!)とツッコミたいがグッとこらえた。
「そう言うなら仕方ないが……、お前の信じる奴らは全滅したぞ」とアンジーとラビス経由で仕入れた情報を話す。
「なにッ! なぜだッ!」
驚いているレットブローに『お前が無計画に彼らから離れたからだよ』と言いたいが、ここもグッとこらえた。
「全滅は間違いない。つまり、これ以上お前と争う意味がない、介入する意義が消滅したはずだ」
「いや……ある! 俺はお前との決着を――」
「この状態でもまだ言うのかッ!」
さすがに我慢しきれなくなったジョーは大声を出した。
アホとの会話に怒りが爆発しそうになるが、何とか気持ちを落ち着けていった。
「――それで、これはお前たちの為でもある」
「俺たちの?」
不思議そうな声で何の疑問も感じていないレットブローは相棒のコビーと共にお気楽だ。
「正式な依頼主である。この国の国軍にお前たちは手を上げた。これは国同士の問題になりうる行為だ」
「国軍? ってなんだ? 俺はそんな奴に手を出したか?」
「いや、国軍とはこの国を治める騎士団のような存在で、初めに出会った時に洞窟前で吹っ飛ばしていただろ?」
「えッ! アイツらがそうだったのか!」
「(今更気づくなよ……)――そうだよ、あれは王国直属の騎士団連中だ」
【それじゃあ、奴らが国家権力って事かよ!】
突然、コビーは声を上げる。
「おい、どうした、親友よ」
【やべぇ話だ。俺たちは“マッポ”に手を出しちまったようだぜ。あいつらはしつこい奴らだ】
「なんだって!」
一連の2名の会話を聞いていたジョーだが『マッポって何?』という疑問は投げかけない、緊急事態だという事は感じている。
「――そうだ。お前たちはヤバい立場になったって事だ。だから俺は『逃げろと』と警告したじゃないか」と、それらしい言葉で会話の中に入る。
「そうだったのか……先ほどまで死命を尽くして戦った相手すら助けるとは……」
レットブローは思いにふける。
【やられたぜ……】とコビーは何やら納得の言葉を吐いた。
(こんな説明で納得するようだな……。じゃあ、今までの戦いは説得すれば無駄に戦わなくて……いや、考えるのもバカらしい、こいつは予想の上を行く奴だから、この対応で正解だと納得しよう)
なんとなくいい感じになっているレットブローに言いたい事は山ほどあるが追及する場でも無いし、これ以上の時間もムダにしたくないと思うジョーは葛藤を抱えながらも自ら納得するしかないと――自分自身を騙す事にした。
「解ってくれたようだな……それじゃ、このまま遠くに逃げて二度と出会わないようにしてくれ――」と言いかけた所で――。
「待て、その前に武器を回収したい。アレは親父から受け継いだ大切なモノだから」
――イラっとするジョーだが、顔には出さない。
「わかった……でも、回収するだけだぞ。他にどんな事があっても武器を持ったらさっさとこの場から逃げる、誰も何も言われても逃げるだけだ、いいかッ! 本当に逃げろよ、これ以上国軍に関わるとお前にとっても俺にとってもロクなことにならないからなッ!」
ジョーは強制した物言いで告げる。
レットブローは頷いた。
「俺の誇りにかけても約束は守ろう」と誓う。
「それじゃあ……」ジョーは蛇腹刀を操作して巻き付いたままのレッドブローを持ち上げる。石投器のように何周か高速周回を差せると「スグにとってこい!」とぶん投げた。
途中で、「オイ、コラマテ」、【フザケンナ!】という抗議の声も無視して物体は広場の方向って飛んでいく。
結末は――“いろんな意味”でぶん投げたのだった。




