長距離移動訓練6
ほら、フィフィちゃん、頑張んなさい」
カティアは崖の上から手を差し出した。
「う、うん、ありがとう……」
フィフィはその手を掴んで、崖の端に引き上げら得られた。
「出来たね!」、「うん」と嬉しそうに抱き合う2人。
「お~い。喜んでいるところ悪いけど、フィフィの“ハーネス”早く外してやれ」
ジョーは命綱を持ちながらカティア達に注意をした。
「は~い、そうでした師匠。今やりますから」
カティアは手早く、フィフィのハーネス外しを手伝う。
崖の上には荷物の山が置かれ、下にはサイリアが待機している。メリーダは現在、崖を登っている最中であり。崖の上の大岩に器具を取り付け登り用のロープと別の場所に命綱を取り付けていた。渡河訓練と同じ様に基本行動を抑えてのクライミング移動訓練の一環だった。
修行の初期から崖登りの訓練は続けている。基礎の出来た状態だったので崖の昇り降りの行動時間は全員がそれほど掛かっていない。
訓練の成果が出ていた。
メリーダも難なく崖上に到着した。
ジョーは手を差し出す。
「メリーダ、よくやったな」
爽やかな笑顔を見せた。
「あ、ありがとうございます……」
逆にメリーダは晴れやかな表情では無い。
一応、手は受け取るが、何となしに気不味い雰囲気のままで、「外すのを手伝おう」とジョーが提案したが――。
「結構です、自分で出来ますッ!」と、強めに拒否されてしまう。
そう、――あれからジョーとメリーダは上手く仲直り出来ていない。
ギクシャクした関係は続いていた。
冷たい目をされ、ジョーは引き腰になってしまった。謝ったのだが、上手く気持ちが伝わらない状態で、例えるなら『仲の悪い嫁姑の関係』というのが適切なのかもしれない。
寂しそうな表情のジョーは、――そのまま何も出来なかった。
***
崖を登り終え、そのまま荷物を背負い直しジョー達は平地を進んでいた。
木々は少なく、周囲を見渡せる草原のような場所だ。
「――それでは、先ほど出会った角熊から逃げる時は上りに逃げる、下りに逃げる。どちらが有効でしょうか?」
ジョーは歩きながら後方に居るカティアとフィフィに冒険者クイズを出していた。
周囲の警戒がしやすい事で喋る余裕が出来るのでそのような余興を続けている。
「えっと、上!」
「じゃあ、わたしは下!」
カティアとフィフィは答えていく。
「正解は下だ、坂道だとクマ(ベティ)系の魔獣は速度が出ない。のったりと降って来るんだ。登りにはめっぽう早いから上には逃げない事。ちなみに木登りも得意な方だから木の上に逃げるなよ」
「師匠、なんで坂道だと遅いんですか?」
「カティア、それは角熊というか、クマ(ベティ)系の魔獣に見られる現象だ。平地でのバランスはいいが、坂道だと前足が短くてバランスが悪くなる、前肢も太いし……急ぐと転ぶんだよ。よく崖で転ぶ姿が目撃されるんだ。この国域だと角熊の他に脂球熊、灰色熊の種族が見られるらしいな」
「そうですか……、でもクマ(ベティ)って大きいから高い木に登れば大丈夫そうですよね?」
「結構、木々も登ってくるらしいぞ、逆に登りには強いからな…爪とかが鋭いし、普通の人よりも魔獣だから筋肉が発達している。脂肪分が多いから打撃系の攻撃にも強い」
「それだったら、木に登って、途中で違う木に跳び移ればいいだけです。そうなれば追いかけれこられません」
「そっか、カティアちゃん、頭いい」
「でしょ!」
嬉しそうにしているカティア。
「まぁ、発想は悪くないけど、中途半端な幹だったら、たぶん折るぞ、あいつら……」
「そうですか……それじゃあ、落ちた時の事を考えて――死んだふり作戦を実行します」
「カティア、鼻がいいから新鮮な肉を嗅ぎわける。つーか、死んだふりでどうにかなったという話しは創作だからな」
「そうなんですか、師匠!」
「そうだよ、お前、芝居の中で覚えた事を信じたな……」
「でも、この前の冒険劇で、主人公は死んだふりして助かったって言ってました。史実のもとづいた話しだって書いていましたよ」
「それは、予想するに、たまたまその時に腹減って無かったんじゃないか? 」
「師匠、それは新事実です!」
「いや……、もっと魔獣や魔物の行動を学んでくれ」
そのように会話をしながら――さらに進んでいくと、草原の中を黒い毛皮をした4足歩行草食獣『エンブラグ』が何十頭という集団で食事中の様子に出くわした。ウシのように穏やかな顔をして、長閑に草を食んでいる。
その姿をカティアとフィフィは指さしながら、楽しそうに笑っていた。
丘を越え、さらに草原の花々(はなばな)に彩られた場所を進んでいく。
その場所の先の森林の奥にある――小さな泉の周りに到着した。
「よし、目的地に到着した。休憩するぞ!」
ジョーは腰に手をあてmそのように報告する。
「長かったぁ~」
「疲れましたぁ~」
カティアとフィフィはそう言って荷物を置いた。
サイリアも安心したように荷物を降ろし、メリーダに話しかけていた。
「安心するな、それにまだ、終わりじゃないぞ、折り返し地点だ!」
ジョーは宣言するように伝える。
「師匠ぉぉ、その話し、今は言わないで!」、「うぅ、聴きたくなかった……」
カティアとフィフィはジョーの言葉で悲しくなる。
「でも、キレイな景色だからいっか……」
「そうだね、天気もいいし、よかったね」
「途中にクマにも出会ったし」
「なんか、絵本の話しみたいだね」
「そうだね」
「そうよ、だから早く休みましょう! 栄養補給に弁当を作ってきたから」
サイリアは話題を切り替え、食べ物の話しに誘導していく。
「はい、サイリア師匠!」、「やったー、お弁当だ!」
カティアとフィフィは嬉しそうに返事をした。
豹変するような変わり身である。
荷物を置いて道具箱の中から弁当箱を取り出していく。今朝準備をして作られた物だった。
サイリアは「冷めちゃったから美味しくないかもしれないけど……」といって謙遜しながらではあるが、カティアとフィフィは笑顔で受け取り、中をみて歓声をあげた。
「先に食っていてくれ。俺は、その辺を確認してくる」
と、ジョーはそのまま相棒の蛇腹刀と共に散策に出かけていった。




