長距離移動訓練7
「ごちそうさまでした! 美味しかったです」
カティアは両手を合わせ食事の終わりを告げた。
サイリアが用意した食事はそれなりに手間の掛かっているもので満足そうに笑顔を見せる。
3段式の弁当箱を重ね、取っ手の器具に取り付けていく。
「カティアちゃん、早くいこうよ!」
フィフィはそうやって声をかけた。彼女にとってこの程度の食事などスグに食べ終わるのだ。
「まって、片付けしないと……」
そうやって自身が食べた弁当箱を皮鞄にしまっていく。
用意が出来ると、カティアは靴を脱いで泉の方にとんでいってしまった。
***
その頃にジョーとスネークは帰ってきた。
辺りを見回すと、カティア達が泉の中に入って遊んでいるのを発見する。メリーダが近くで見守るように座って待っていた。
ジョーはフッと細く笑い。そのままサイリアがいる場所に歩いていった。
サイリアは鉄製のポットの下に『火精石』を基盤とする発熱器具を置いていた。簡易で発熱しお湯も沸かせるので冒険者や軍隊など移動して行動する者にとって有力なアイテムである。
「よぉ、辺りには魔物の気配はなかったよ」
ジョーはそう声をかける。
「そう、ほら、ジョーも座って」
「あぁ……」
ジョーは蛇腹刀を倒木の端に立て掛け、そのまま椅子代わりに座った。
どっしりと座ると、安息の息を漏らした。
「ほら、これ」
サイリアはカティア達に渡した弁当箱をジョーに渡した。
「あぁ、ありがとぉ~」
気の抜けた声で返事をする。
「お茶も用意するから」
「頼む…」
ジョーは弁当箱を開けていく。
中にはこの日の為に造られた水馬の肉を使ったサンドイッチが1段目、2段目には数種の野菜炒めものに、肉料理の小さい品が2つ、3段目はドライフルーツと、甘酸っぱい果実の菓子が入れられていた。
出来るだけ栄養分の配慮された料理が入っていると思われる。
色味も気にして子供にも食べやすい感じのお弁当だった。
ジョーは食べ始め。サイリアはお湯が湧いたので砕いた茶葉を直接コップの縁セットした茶袋に入れて、お湯を注ぎお茶を用意した。
「はい、ご苦労さま」
サイリアはそっとお茶をジョーの弁当箱の近くに置いた。
ご苦労さまとは――周囲の警戒について1人で見回っていたので、その感謝だろう。
「あぁ……、あんがとぉ……」
ジョーは下に置かれたコップに手を伸ばし、息を吹きかけ温度を調整する。湯気だったコップから香気が漏れ、ジョーはお茶をすすった。
「ふぃ~ぃ」と安息の声を出すと、コップを置き直し、再び弁当を食べ始める。
「どう、おいしい?」
サイリアが尋ねると、ジョーは首を縦に振ったまま口を動かす。
「そう、よかった」と、サイリアは嬉しそうにはにかんだ。
【サイリア、私にも何かくれ!】
スネークはいきなり、おねだりをした。
突然、話題を振られ――
「ゴメン、スネーク、何もないわよ。持ってく荷物がいっぱいで……」
サイリアも歯切れ悪く、理由を述べた。
移動中はできるだけ無駄な荷物は持たないので人数分の弁当しか用意していない。
「大丈夫、こいつ、ひと月、ふた月程度、食べなくても平気だぞ。それに刀だから飯なんていらないんだよ」
ジョーはそうやって、蛇腹刀の柄を叩いた。
【ばっかも―――ん、もう少し私を敬え! 奉れ! 罰があたるぞ!】
剣がカタカタと震えながら説教をした。
ジョーは、ハイハイという風にあきれ顔でお茶を飲んで、サンドイッチをヒョイと食べた。
「わかった、帰ったら水馬の肉を焼いてあげるから」
サイリアはなだめるような提案をする。
【本当か! サイリア】
「おい、ムダだって高価な肉を与えるな、安価なゴブリン肉でも与えりゃいいよ」
ジョーはちゃかすように言った。
【バカ者、私はグルメだぞ、ちゃんとしたのを持ってこい】
「おまえ、なんでも食うだろ」
【そのまえに、その弁当をよこせ!】
「やだよ、俺のだ」
【なんだと!!】
ジョーとスネークは交互に諍い。
サイリアは止めるが、ふたりは止めなかった。
***――閑話休題
食事を終えたジョーは片付けを済ませると、大きめの地図を持って倒木に座って脚を組みながら、その地図を眺めていた。
詳しく書かれていない地図だ。縮尺も怪しく、町の地名が所々で書かれていた。
手書きでずいぶんと書き込まれているようで、大木だの、大岩だの、湿地帯だの地形と目印になりそうなものが書き込まれ、端に方位と数字が書き込んであった。
ジョーは方位磁石と定規を片手に確認をしている背後で、カティアが覗きこむ。
「師匠、それはこの周辺の地図ですか?」
「そうだよ、水遊びは終わったのか?」
ジョーは振り返らず、平然と答えた。
「はい! ここは湧水で出来た泉ですね、砂地からボコボコと水が出ていました」
「あぁ、この辺は山からの湧き水が出る所だから……」
「綺麗でした。小魚もいましたよ」
「それはよかったな」
「はい、ところで、その丸い点は私達がいる場所ですね?」
カティアは手を伸ばし、その部分を指した。
「そうだ、ちなみにこの所が、俺達が寝床にしている場所だ」
ジョーは赤く丸をしている部分を指した。
「――そして、ここを出発して、こうやってグルッと回ってきたんだ」
ジョーはそのようにこれまでの行程を説明した。
「あれ、なんだか、遠回りしていませんか? こっちのほうが近いのに……」
説明された道は、下から右回りで大きく旋回し、上に辿り着いた。
「色々と考えているんだよ」
「なるほど……、師匠、この地図の方位の印の脇に書いてある数字は何ですか?」
カティアはその部分に指して説明を求める。
「あぁ……、簡単に言えば方位といえども、地域事に若干のズレがある。北を指していると思っているが、多少ズレいる事があって、そのズレを現した数値だ。ギルドに行けばその地域のズレの数値を教えてくれるから覚えておけよ」
「エッ、方位の北は北を指しているんじゃないんですか!!」
「大体はあっている。『雷精に狂わされて無きゃな』、でも完全ではない。地図上では少しのズレだけど、遠くに行く毎に、ズレが大きくなっていくから、カティアはその事を覚えておけよ」
《雷精=磁力場の話しだと考えてください》
「衝撃の事実です!」
「そんなに衝撃ではないんだけどな……、地図の見かたも今度教えるから、カティアも出来るようになっとけよ」
「はい! わかってます、師匠!」
「よし、その前に準備をしろ、もうすぐ出発するぞ」
「アイアイさぁ―!」とカティアは頭に手を当てた。
「……なんだ、その掛け声?」
ジョーは首を捻ったまま、彼女は行ってしまった。




