長距離移動訓練4
「でも、待って下さい、魔術で軽くできるはずです。重たい物なら、鉄製の製品とかも使っていますよね……違うモノに変えれば、それなら『浮遊する板』も進化していてもいいはず」
カティアはしたり顔をしてジョーを見ていた。
重い道具を軽くすればいいじゃない――と、言わんとする顔をした。
「カティア……、おバカ、何十、何百年前から携帯する道具の軽量化の話しは出ているよ」
ジョーは取りあえず、チョップを頭にたたき落とした。
「痛いです、師匠!」
声を上げるカティア。
「だいぶ軽いだろ? 痛くないはずだ!」
「そうですけど……、でも、進化しているようには見えないんですけど……」
カティアがそう言うと、ジョーは溜息を吐いた。
「カティア、変わっていっているんだよ。技術とは日進月歩の如く変化している。馬車にしても、水筒にしても、持ち運ぶ食料にしても、靴にしても、甲冑にしても、もちろん『浮遊する板』にしてもだ。もし仮に何の変化も無く何年、何十年、何百年進歩しない場合は文明そのものが終わっているということだ」
「そうなんですか?」
カティアはそういって、フィフィも驚いていた。
「そうだよ。つまり、その場合には進化の先が無くなり後は衰退の一途をたどるという事だ」
「でも、そんなに変わっているとは思えないんですが……」
「違うな、例として馬車の場合、昔は棒に車輪だけがついていて、非常に乗り辛い乗り物だった。しかし、車輪部にバネを仕込む事により台にかかる衝撃が和らぎ乗りやすくなっている。現在は足回りそのものが見直されてきているんだ、他の例として水筒の場合。昔は革布の水筒や木製であったのだが、現在は鉄製だ。鉄は延びやすく加工しやすい、それに最も大事な耐久力の問題をクリアした結果だな。当然、『浮遊する板』も変化している。素材その物を軽くしたモデルも出て来ている、魔術術式の効率化、軽量化、操作性も研究が進められている。それに武器防具もそうだろ? 前にも話したよな?」
ジョーはそのように説明した。
「そういえば、そんな話しもしました。 ガガンさんの店ですよね?」
「ああ、そうだ。武器屋にしても先を考えている」
「でも、ちょっとずつですよね?」
「ちょっとの変化だ、でも、それがデカイ。靴にしても内側に履く附属品の幅も出てきし、例えばこの水筒、昔はもう少し重いヤツが主流だったが内部を薄く仕上げて軽くなった。それが冒険者の間で流行り、現在の主流になっている」
「うぅ、そうだったんですか……」
「そうだよ、何かにしろ、理由があって進化している。でも失敗した例も多い、先ほどあった『浮遊する板』の軽量化の話しは誰かが挑戦している。ただし、失敗として壊れやすく、従来よりも多くの魔力が必要で、操作性が悪かったんだ。だから、そんな商品は売れなかった。冒険者の多くが求める実用性に合わなかったんだろうな……、それ1つだと単純だけど、多くを考えると制約があって難しいんだ。でも、そうやって失敗を重ねる事で少しずつ前に進んでいるんだよ」
ジョーは失敗例を話した。
それ一点の改良は可能だが、他の犠牲もあり従来の製品よりも劣ってしまう事も進化の1つである。
その為に少しずつ変わっていくしか無かった。
カティアとフィフィは話しを聞いてムムムッ、と考え込んだ。
(まぁね、色々と問題あるのはどこも一緒だよ。1つ絞れば、他が負担を受けるのは、どの世界も一緒だ)
ジョーはカティアがまだ分からない話しだろうと思ってそれ以上難しい説明を避けた。
【カティアにフィフィよ、思考とは誰しもが持っている事だ、この品を、ああすれば楽なのに、こうした方がいいという事は多くの人が思っている。しかし、世界とは『言うのは易し、やるのは難し』といってな、一筋縄ではいかない事の方が多いんだ】
スネークは急に2人に話しかける。
「スネーク、2人にはまだ理解出来ない話しだろ?」
【そうかもしれない、だが発展とは、身の丈に合わない程、失敗するという話しだ。昔に聴いた言葉だ】
「どういうことですか?」
カティアは尋ねる。
【うむ、それは……、目の前にある問題を克服する事で進んでいった方が、崩壊を防ぐとも言っていた】
「崩壊って、……なんの?」
カティアは想像がつかない話しに混乱した。
【世界の崩壊だ】
「おい、いきなりスケールのでかい話しをするな!」
ジョーはツッコんだ。あまりにでかすぎる話しであるので理解出来ない事であった。
【そうか……、解らなくても仕方が無い事だ。とにかく、進化とはゆっくり時間をかけてやる方が文明的にもいいという話しだ】
「なるほど……わたしは理解しましたよ、スネークさん」
カティアは熱い目線をスネークにぶつける。
(お前はけして、理解はしてないだろうな)――とジョーは思うが、適当に流しておいた。
***――閑話休題。
「よし、休憩ももうすぐ終わらせるぞ、出発の準備をしろよ」
ジョーはそういってお手製の地図を広げ、コンパスを使いながら辺りに注意を促した。
「はい、師匠、その前に、わたしは“輝石竜の卵”を探してきます」
カティアはそのように手を上げる。
『輝石竜の卵を探してきます』とは――隠語であり、お花を摘みに行ってきます。と同様の意味を持つ言葉である。つまりは《トイレに行ってくるよ》という事だ。別の言い方だと『野鳥を探してくる』、『あっちに猪がいましたので探してきます』という使われかたを冒険者の間でしていた。
そもそも輝石竜という滅多に会う事の出来ない魔物、その魔物の卵がそこら辺に落ちているはずはない。
移動の時には周りに気を使う事も重要という事で普段と違った言葉を話していた。
「はいはい、行っといで」――ジョー返事をした。
「わ、わたしも、一緒に行きます」
フィフィも手を挙げた。
「はいはい、いっしょに行っといで」――ジョー地図を見ながら返事をした。
「私達も行ってくるから、覗かないでね」
サイリアもそのように言う。
「はいはい、どうぞ、どうぞ、ごゆっくり……」――ジョーは自然に返事を返した。
「ぜっッッたい、覗かないでね!」
「わかっているから、早く行けよ!」
ジョーはサイリアに強めに返事をした。
「耳も塞いで、目も閉じてよ、匂いも嗅ぐな」
サイリアは再三注意をして、睨みつける。
「おい、それだと周囲の警戒出来ないだろ?」
「……それならいいわよ。でもマナーを守りなさい」
ジョーを警戒しながら女性陣が去っていく。
「まったく、なんだよ……」
ジョーは不満を漏らした。
【バカだなぁ~、この前のセクハン発言が尾を引いているんだろ? ケケケッ】
スネークの意地悪な笑い声が林の中に響いていく。
考察。
ジョー達が持っている品物は木製品や鉄製品が多いです。ガラス製品はほとんどありません。
移動時に魔物の攻撃を受けると衝撃で割れてしまうからです。なので水筒などは木か鉄デス。
冒険者の道具も年々進化していると思います。
現代に当てはめると、広辞苑とかアリエールとか、服もそうですね。どこも研究機関があって10年ぶりの大改良とか、何年も研究してましたとかがあります。
武器の進化もアリです。やはり研究している機関がどこかにあると思います。ガガンの店(トム爺)の話でもそのように色々と考える人がいて上手くいけば誰かが真似するという話です。
長距離移動でおトイレはどうするか……、そう、野ションです。というかそれ以外ありません。
ちなみに、現代の猟師でも、「キジ探してきます」とかいってトイレに行くらしいです。あくまで女性猟師で男性は「ションベン」とストレートに言うらしい。
カティアは女性ですから、隠語を使いました。




