長距離移動訓練3
「ジョー師匠、このお腹を見て下さいッ!」
唐突にマントをまくり上げ、白い薄着もまくり、お腹を出したカティア。
現在、乾かし中の為、しっとりと肌に薄着が付着して身体のラインが顕わになっていた。
「おっ、何だ急に、お腹なんて出していると冷えるぞ」
火の番をしながらジョーはひどく冷静に物事を言った。
「師匠、お腹が割れたんですよ! ほらッ、ほらッ!」
カティアは目を輝かせながら褒めて欲しいように腹の腹筋を見せる。
しかし――その時。
「お、お嬢様ぁぁぁ、ダメですぅぅッッ!!」
メリーダが勢いよく飛び出して、急いで大きめの布でカティアの腹を隠した。
「キャッア! どうしたのよ、メリーダ?」
カティアは脇目も振らずにしがみつくメリーダの行動に驚き声を上げる。
メリーダも必死だ。淑女で町の令嬢でもあるカティアが腹部を捲くりあげ下着を見せるポーズをとれば、お付きの者は止めるだろう。
「お嬢さま、それはハシタナイ行動ですのでどうかお控えください!」
「なんで?」
「冷静にお考えください。い、異性におなかを見せるなど……、淑女としてどうですか?」
「……何がいけないの?」
カティアは考えつかないようだ。まるで疑問にも思って無い。
「お嬢さま、日頃から『セクハン』に対して厳しいですのに……、いいですか? ジョー師匠は師匠とはいえ男性です。カティアお嬢様は女性ですので、その、ぶ、分別ある行動をとりましょう!」
メリーダは説明していく。
その説明には鬼気迫るものがあった。
「そうなの?」
「そうですッ! いいですか、貴族の淑女たるもの迂闊に異性に肌を晒してはいけないのです! そういうものなのです!」
「でも、普段、水着で泳いでいるけど……、なにが違うの?」
カティアに質問をされるとメリーダは固まった。
訓練の合間、休憩時間、その時に水浴びを兼ねて滝付近で水着になって泳ぎ、その光景をジョーも確認している。
カティアにとって、おなかを見せる事は、いまさらな感じが強かった。
「そ、それでもです! み、水着は水着、下着は下着です!」
「あんまり違わない感じだけど……、ようするに大事な部分が隠れていればいいんでしょ?」
カティアは極端な持論を述べた。
メリーダは伝わらない気持ちをどうしていいか分からず。ガッシリとカティアの腹部に抱きつきて「ちがいます、それは違います」と否定した。若干、泣き顔であるのだが。
「まぁまぁ、メリーダもその辺で……、カティアも乙女がおなかを見せるのは良くないぞ。腹筋はあったな、訓練している証だ、よくやった。メリーダの言う事も一理あるからカティアは隠そうな」
ジョーは間に入るように言う、カティアを褒めて、その場の一件落着をはかる。
「でしょう、やっぱり鍛えている感じがするの!」
褒められカティアは嬉しそうだった。
「いいから、ほら、休まないと長距離訓練の意味が無いぞ! 水飲んで、食料を食べて、体力の回復も訓練の一環だからな」
ジョーの説明にカティアは思い立ち、メリーダは急いでカティアの服を直し、サイリアは休憩の準備に入った。
***――閑話休題。
休憩中に簡易食料を腹に入れ終えると、ジョーは周囲の見張りをしつつ静かに休みを取っている。傍らにある蛇腹刀はいつでも抜けるような状態であるが、カティアとフィフィはお喋りをして、メリーダとサイリアは何かを話しこんでいた。
「師匠、やっぱり魔術で渡る方が楽だと思いました」
カティアは唐突に質問をジョーにぶつける。
フィフィとの話しで疑問に思ったのであろう。
「んッ? 何だ急に? 普通の方法だと教えるのが筋ってもんだろ」
ジョーはカティアの方を向いた。
「でも、服濡れるから、やっぱり魔術で渡った方がよかったかなって?」
「そりゃぁ、こっちも分かっているよ。でも実際に魔術に頼り過ぎるのもいけない事だろ?」
「そうですけど、師匠は『魔力がなかったらどうするッ?』 とか聞くんでしょ?」
「……まぁ、それもあるけど、実際に渡河訓練で身体が濡れるとか道具が濡れると大変という問題はこっちも当然にわかっている。でも、長距離移動訓練という事を考えれば、体力と魔力の温存は絶対だと思った訳だよ。それは訓練始まる前に説明しただろ?」
ジョーはいやに似ている声でカティアのモノマネを聞いて言葉につまる。
しかし、訓練の意図として、そして普段の訓練の統括として、難所の移動を覚える事は将来、役に立つという事を伝える。
フィフィは無言でジョーに同調して頷く、だが、カティアは顔を歪めていた。
「そうですけど……、やっぱり服が濡れるのは、やだなぁ~。もしかして、それが狙いですか、師匠?」
カティアはジョーに怪しい目線を向けた。
実は濡れた身体が目当てだと言いたげである。
ジョーはすぐに持っている枝でカティアの頭を叩いた。――決して血の出ない程度のやさしい叩きである。
「ひゃウッ」と可愛い声を出してカティアは頭を押さえる。
そしていつものように「暴力反対!」と言い返した。
「おバカ、実戦では渡河移動というか川の中に入って魔物の追跡を撒くという意味もあるんだ。嗅覚のいい魔物はしつこいからな、もし、撤退を決断した場合には逃げる算段の為の選択の1つに渡河をするというのがあるんだよ」
「おぉ、そうなのですか!」
カティアは驚きの声を上げる。
「おい、俺は何度も教えているぞ……」
「あれ? そうでしたっけ?」
カティアはとぼけた声を出した。
「まぁ、いい、もう1度言うと、鼻のいい魔獣や魔物は匂いで追跡するタイプがある。そのような敵から逃げる為には川を渡る方法が手っ取り早い。他にも道具として鼻を潰す、“激臭香”という魔道具もある事はあるが、これは持っているだけで、結構キツイ匂いらしいので……説明は省く、簡易的なモノだと、胡椒とか山椒とかの薬味の入った袋を投げても効果的だな、まぁ、でも、魔術での使用も頭に入れると、激流だった場合とか、時間が無い時に使うといい」
「ふんふん、わかりました、応用の効く冒険者になれということですね?」
「そういう事、補足として逃げる時には荷物なんかは捨てておけよ。そういう時の決断が大事だ」
「わかりました」
カティアはそういって頷いた。
「ジョー師匠、私からも質問いいですか?」
フィフィは手を上げる。
「なにかあるのか?」
「は、ハイッ、『浮遊する板』持ってくればよかったと思って……」
(あっ、それは前に俺も思った事ある……けど……)
ジョーは過去の移動で、その事を思案した事があった。
「フィフィ、それはダメだ。アレは基本重たい、使用して一緒に移動する場合には魔力を多量に消費する。つまり体力と魔力の面で非効率だということだ」
と、フィフィに伝える。
実際に近距離であればいいのだが、長距離移動であれば色々と弊害が出る事は間違いなかった。
「そうなんですか……」
フィフィは悲しそうな顔をした。
「そういう事だ。依頼によっては馬車も通れない場所もある、徒歩で移動という事も十分ありえる。重たい荷物を運ばないといけない時は……昔から人力なんだよ。依頼内容によっては運搬係を決めて現地に運ぶのも手の1つだけど……、10人以上の集団がやる事だな。実際にその人数がいないと警戒、運搬、護衛に分担できないだろう。俺達では『浮遊する板』の持ち込みは無理だと判断したんだ。そこは実際の依頼と人数で相談する話しだ……」
ジョーの説明にフィフィは頷いた。
その後も、ジョーは移動のノウハウを説明していく。
そして最後に「長距離移動で余計な荷物を詰め込んだらダメだぞ」と言うと、カティアは何かを思いついた顔をした。




