長距離移動訓練2
カティアはハーネス(命綱をつける為の道具)を身体に取り付け、カルビナと縄で身体を固定させて川を渡っていく。
棒代わりにレイピアの鞘で川底を確認しながらであるが――そのような行為は剣を痛めると知った上での蛮行だった。
ジョーが渡した木の棒は太くてカティアには使いづらい物だったからだ。
カティアはゆっくりとではあるが、足元の確認と命綱を頼りに渡りきる。
「よし、よくやったな」
と、ジョーは出迎えた。
「師匠、こんな渓流、楽勝です」
カティアは強がりに近い言葉を吐いていた。身体は濡れて、寒そうにしている。
「そうかよ、わかった、わかったから、フィフィが渡るから早くハーネスを外して警戒行動をとれ」
そう言われ、カティアは急いでハーネスを外していく。
次にフィフィが渡ってきた。
怖がりながらも――ティルに頂いた杖を使い、足元を確認していく、腰までつかる程の流れだが、渡りきる。
「よしよし、フィフィちゃんもこっちに到着ね」
「カティアちゃん、水が冷たくてビショビショだよぉ~」
「大丈夫、後で乾くわよ。それよりも次はメリーダが渡るから早く装備を外しなさい」
「うん、そうだった」
「ほら、手伝うから」
カティアはフィフィの装備はずしを手伝っている。
「カティア、フィフィ、次は荷物の受け渡しだ。覚えておいた方がいいかもしれないが、川を挟んでいる場合、戦力の均一化を図るために全員が一気には渡らない。途中で荷物の運搬の時間が入るんだ。もちろん時と場合によるけど周りに魔物がいない場合の話だ」
ジョーはそう言って注意をする。
「師匠、そうなんですか? それは誰が決めた事でしょう?」
「それは、“先人の知恵”だよ。 渓流沿いは魔物に合いやすいから危険度の分散させるんだ」
ジョーの言葉にカティアとフィフィは深く納得する。
フィフィがハーネスを外し終えると、ジョーは身体全体でサイリアに合図を送った。
内容は――『荷物を送れ』――である。
サイリアの方も気がついて合図がある。
このように地形によって声が聴きづらい時にはハンドサインを始めランゲージサインを決めている冒険者が殆どだった。
冒険者の知恵と言うほどではないが、自然と身につく知恵である。
その後――川の上を荷物がぶら下がって移動していく。滑車によって、ゆっくりとだが濡れずに荷物運搬5人分が終わった。
メリーダが川を渡り、サイリアが滑車の器具を外して縄をつたい、最後に渡ってくる。
「これで全員揃ったな。濡れてけど、このまま少し移動してこの場所を離れるぞ」
ジョーの合図で荷物を背負って川沿いを過ぎていった。
林のように木が散雑に生えている場所を進んでいく。未開の土地であり、それを現すかのように地面が植物に覆われていた。あるとすれば獣道のような線が引かれているような場所である。
それが、木漏れ日からの光でキレイに道を照らしていた。
虫の音と鳥の侘びしい声が響く場所である、その一画にジョーは岩と倒木、そして地面が荒らされ剥げ上がっている場所を見つけた。
「あそこで休もう。『名もなき跡』がある」
ジョーは後方にそう言って合図を送った。
『名もなき跡』とは――かなり前に冒険者や旅人が使ったと思われる休憩場所の事。
返事が返ってくると、歩み寄り。――休憩時間となる。
***――閑話休題。
パチパチと焚火が燃え上がる音が響いてく。
少し離れた場所に荷物を置いて――カティア、サイリア、フィフィ、メリーダはタオルを取り出し身体を拭いていた。
ジョーは火の番をしている。
「ジョーは拭かないの?」
サイリアは倒木の椅子に座っているジョーに尋ねた。
「あぁ、自然乾燥を待つよ。鎧も靴も拭いたから大丈夫」
「もう! めんどくさがり」
「怒るなって、それよりも濡れたけど大丈夫か?」
「私は平気だけど、カティアとフィフィはかなり濡れたわ」
サイリアが説明する。
すると――「師匠、わたしは平気よ!」とカティアは言い始め。防具を外し、服を縛っていたベルトを外し、上半身の服を脱ごうとした。
「お嬢さま、何をなさるのです!」
メリーダが狼狽する間もなくカティアは上着を脱いでしまった。
白い下着――のような薄い服を着ていた。
「お嬢さま、はしたない真似はよして下さい」
メリーダは詰め寄り、自分が使っていた布でカティアの身体を隠した。
「違うわよ、服が濡れたから乾かすの!」
「ですが、このような場所で……」
「いいじゃない、誰もいないでしょ?」
「あの……、私共も居ますので……」
メリーダはそういってジョーをチラチラと見ていた。
正確には“私共”ではなく、主に異性であるジョーの事を指している。
薄着になる女性の近くに男性がいるのはどうかという話だった。
「別に裸じゃなければ問題ないでしょ?」
カティアは不思議そうな顔をしていた。何が問題だか分かっていない。
「そうですが、淑女たる者、異性の近くで裸になるなど……」
「メリーダ、裸じゃないわ、下着でも無い、薄着なのよ、問題ないでしょ」
カティアに強く言われメリーダは引き下がるしか無かった。
カティアと、その行動を真似したフィフィは服を脱いで適当な枝木を見つけ、服を巻いて焚き木の近くに突き刺して服を乾かそうとした。その間は紺色の丈の長いマントを身に纏い身体を保温していく。
(※ティルとガガンのお店で買った物)
そのまま水筒を取り出し、携帯食料を片手に本格的に身体を休め始める。
「美味しいね、やっぱり甘いモノだわ!」
カティアは上機嫌にフィフィとお喋りをしていた。
「うん、でも、太らないかなぁ~……」
フィフィは“それなり”に体重を気にするお年頃でもある。
「大丈夫、動けば平気よ、それに見て、最近、腹筋が割れてきたの!」
カティアはマントの前を開け、白い薄着の布をめくり、お腹をあらわにした。
「本当だ、薄らとだけど……、割れてるッ!」
「ほら、フィフィちゃん、触ってみてよ」
「いいの?」
「いいから、いいから!」
カティアは自慢の腹筋を触って欲しくて目を輝かせた。
フィフィはそっとお腹に触れる。
「アッ、固い!」
「でしょ? 訓練してきてから身体がすっごい鍛えられている感じがするもの」
「うんうん、わかる!」
「そうだ、師匠にも見てもらわないと!」
カティアはそのまま立ち上がった。
長距離移動は障害物競争に似ています。
平地を歩くよりも、色々大変です。




