虚撃
「対処法は、あせらない、動じない、怒らない、怯まない、つまり、不動心を持つ事だ」
ジョーは言った。
特に、言葉を短縮する事も無く、頭文字をとって短くする事もしない。「あ」、「ど」、「お」、「ひ」、なので都合のいい言葉遊びは無いので、そのまま伝える。
「カティアちゃん、どう言う事だと思う? ふどうしんって?」
「よく分からない、結局、どういうことなんだろう?」
「お嬢さま、フィフィさん、師匠なら細かく説明してくれるはずです」
などと――ヒソヒソ話が聞こえてくる。
(やっばい、勝手に期待度が上がってるよ……)
ジョーは素直に“焦って”いた。
言葉にすれば簡単な事だが――この訓練はハッキリした対処方など何も無かった。
焦る者に「焦るな!」と声を掛けて焦りが止まれば、世の中全て上手くいくというモノだ。
『不動心』――つまりは心を動かすなという事である。
しかし、実際問題、多感な時期を迎えた弟子達に、そんな事を言って明日からスグに出来るとはジョーもサイリアも思っていない。
なので――。
「ゴホンッ……、いいかな、不動心とは心を動かさない事。つまり、どんな事でも動揺しない事が重要となる。つまり、正常な心が必要という事だ。気持ちを落ち着け、精神を集中させる事こそ重要だという事だ」
――と、極めて正解に近い事を言う。曖昧ではあるが。
「師匠、いいですか!」
――カティアが手をあげる。
「なにかな、カティア」
「はい、動揺を動揺しないようにして精神を落ち着ける事は分かりました。でも師匠がいつも言っている、『本当に危険な時は考える時間も無い』と言葉から、落ち着いている時間に攻撃がきたらどうしたらいいですか?」
(やっぱりか……、そうだよなぁ~)
ハッキリ言えば、矛盾、撞着を孕んだ禅問答のようなモノである。
あぁ、回答はこれだよ――と、気軽に出せるなら悩まない。
ギリギリの時に余計な事を考えている余裕も無いのは事実だった。
「まぁ、そういう時は……、つまり考えずに行動出来る事だ。『考えるな、感じろ!』と昔から言われている」
――第2の曖昧な回答を言う。
「師匠、感じる事が出来なかった時はどうするんですか?」
「ア―――、そうだな。まぁ、あれだ。訓練するしかない」
「いったい、どんな訓練を?」
「…………」
ジョーは黙る。
ハッキリ言えば、ギリギリの時に勝手に動く事の出来る圧倒的才能と、危機を察知できる強靭にして超絶な感覚が必要である。
そんなモノ、2、3日訓練して、ちょろっと、実につくモノでもなかった。
「師匠、もしかして無いんですか?」
カティアは失望が混じった表情でジョーを見ていた。
他の弟子達も不安そうにしている。
「ある事はある、しかしだ……、カティア達にはまだ早いと思っていて……な、この訓練は人の尊厳とかを奪う大変危険なモノだ」
「師匠、それは……、どの程度ですか?」
カティアはそう聞く。
フィフィもメリーダも不安そうにしていた。
「最悪、色んな事が壊れていく……」
ジョーの言い方にカティア、フィフィ、メリーダは寒気を覚えるほど慄く。
「それほどですか……」
「うん、でも、こういうのは訓練期間中にやっておいた方がいいのか迷ってしまって、サイリアとも話し合ったんだが、危険を伴うので概要だけ説明して次回に回そうと思っていた」
「いえ、師匠、是非ともその訓練を実施して下さい! わたしは乗り越えてみせます!」
威風堂々(いふうどうどう)とカティアは手を突き出し、ポーズを決めて言う。
まったく、こいつは本当に英雄気質だなぁ~――と、ジョーは思う。
「サイリア、どうする、やっておいた方がいいのか?」
ジョーは確認を取るつもりで彼女の方を見た。
「う~ん、どうだろう? フィフィもメリーダもどうするの?」
サイリアはまだ意思表示をしていない他の弟子達に確認を取るように訊いた。
「わたしもやります。緊急時の行動は習っておいた方がいいです」
「お嬢さま、お独りでは心配なので私も参加します」
フィフィもカティアも頷いた。
ジョーもサイリアも目線を交わし、お互いに頷く。
「よし、そう言う事なら教えてもいいかもしれない、しかし……これより教える事に一切の口出し、誹謗を禁じてもらいたい」
「「「はい!」」」と3人から返事か返る。
「では、基本的な話からする。幻惑攻撃というが、簡単に言うと《虚撃》と呼ばれる武術技法だ。これは隙をつく攻撃といえる。相手の隙、意識の無い所や、隙を作る動作を取り入れると言った方が分かりやすいかもしれない」
「師匠、いきなり攻撃するとかですか?」――カティアは会話の相槌を打つ。
「それもある、あとは剣を揺らしたり、肩口を動かしたり、足で撹乱したり、目線で牽制したりするのも虚撃の一部だ。相手を惑わす事も含まれる。奇襲を行う事だけでは無いという事を前提に考えてもらいたい」
「もっと詳しく言うと、どんな事なんですか?」
「う~ん、そうだな、簡単な事で実戦すると……――」
ジョーはそう言って、突然目をつぶる。
そして、急に何も言わなくなった。
「師匠……?」
カティアが語りかけると――ジョーは急に目を見開いた。
「ウォオォォォォォッッッ!!!!」
突然の咆哮。それも大音量で。
険しい表情で弟子を睨みつける。
「「ギャァァァァァ……!!」」――カティアとフィフィは叫び声を上げ、メリーダは静かに驚いていた。
「――と、まぁ、こんな所だ……」
ジョーは叫び終わった後、すぐに表情を戻した。
「師匠、急に大声を出さないで下さい」
カティアの非難にフィフィは横で静かに頷く。
「悪いけど、これも虚撃を現した方法だ。大きな声で相手を威嚇する時に使う。でも、一瞬だけど驚いただろ?」
「まぁ、そうですけど……」
「これも、狩りのやり方で説明したな。爆音を響かせる魔道具、目をくらませる魔道具もそう言う事だ。声で相手を威嚇するのは有効な方法と言える。つまり、虚撃とは視覚的に、聴覚的にやるのが一般的だ。さきほど見せたの魔剣の幻影は視覚的な虚撃、大声は聴覚的な虚撃。後は嗅覚的な虚撃の方法として『幻煙香』という毒薬で意識を遠のかせる方法もある。つまり人間の五感を狂わせ、驚かせるのが、虚撃と言える。ここまでは分かったか?」
「はい、大丈夫です」
「いろいろあるんですね……」
「では、《虚撃》の中でも最も単純で、もっとも簡単で、もっとも難しいかもしれない『口撃』を教えよう。虚撃の初歩『挑発口撃』についてな……」
ジョーはそこまで言って口角をつりあげた。
対人戦闘訓練の一環の話ですが、挑発行為の意味ですが「虚報」、「扇動」とかと一緒です。
嘘を言う事も含まれます。
汚い話……、ダァーティー部分の修行方法です。
しかし、こんな話が続いていいもんかと作者も思っています……何気にがっつりと書いている。
しかし、内容も半分程度削っています。
しかも、出来るだけ考えているのです。




