幻惑攻撃
「トォッ! ダリャァァァァァッッ!」
カティアの気迫のこもった声と同時に剣閃が連続して舞った。
現在――訓練場所は河原。
普段と変わらず剣術稽古の真っ最中である。
ジョーに向かって自由に攻撃をして、剣を振り回している。
カティアは真剣な表情だが、ジョーは普段と変わらずに木剣で受けていた。
「ほら、どうしたカティア、その程度か……」
「ムツ、まだまだですよ、師匠」
木の弾ける音が交差していく。
さらに激しさを増す剣術の稽古。
打ち合いを交わすうちに、ジョーはヒョイッと岩陰に隠れた。
「師匠、逃げるのはズルイッ」と、カティアは追い掛ける。
しかし――スグにジョーは岩陰から姿を現した。
急に――それも6人に分かれて――。一斉にカティアに押し寄せた。
カティアが――「なッ!」という言葉の合間に――間合いを詰めて、剣が振られ終わり、カティアの首元に木剣が残った。
静かに幻影のようなジョー達が消えていく。
「どうした、予告した通りに“幻惑攻撃”を見せたぞ、それでも動けないだろ?」
ジョーはそう言って木剣を戻す。
「師匠ぉぉ、卑怯ですよッ!」
カティアはふくれっ面でジョーを非難する。
「おい、どこが卑怯だ。事前に言っただろ? 今日の議題は幻惑攻撃に対処する方法だって」
「でも、6人に分かれるのは、卑怯です」
「実戦だったら何でもありだぞ……、その前にどうやったら卑怯じゃないのか? 1人1人「偽物です」、「本物です」って幻影が紹介するのか?」
「ウッ……、それは、それでイヤですけど……」
「そうだろ、卑怯で結構な事だろうが……、ほら、戻るぞ」
ジョーはそのままサイリア達が見守っていた場所まで戻っていく。
***
「それで、遠目からみて何か分かったのか?」
ジョーは生徒であるカティア、フィフィ、メリーダを前に講義をしていた。
先ほどの幻影は以前王都でアブラートが持っていた『幻惑幻夜の短剣』をジョーが使用しただけの事で、ようは――魔剣の力だった。
フィフィもメリーダも始めてみる魔剣の能力に驚きつつも、本物と偽物の詳しい区別がついて無かった。
「ほら、カティアも何か感じなかったか?」
ジョーは尋ねる。
「う~ん、どれも同じように見えたし……、間違いさがしの無い間違いさがしのようでした」
「もっと注意深くみれば、違いが分かるはずだ考えてみろよ、分かってしまえば簡単な事だ」
「そうですね……、幻影の方は……“美化”したようになっていた」
[ゴンッ]――と拳骨の落ちる音がする。
「うぅ~ん、痛いです、師匠」
「余計な事を言わない、変わらんだろうが……、正解は“影”がないだ。分身のような幻影は実体が無い分、影も映らない」
ジョーは仕方なく答える。
「え~、師匠、そんなの一瞬でわかりませんよ。師匠が6人で向かって来て驚いちゃったんですから」
カティアは悔しそうにそう言った。
――ジョーは薄らと笑みを浮かべる。
まるで、その言葉を言わせたかったように。
「そうだろ? この魔剣の能力はソコでは無くて、実際に相手を驚かせる事にある。一瞬でも隙をつくって動揺させる為の武器だ。本当に恐ろしいのは、考える間も無く動揺して身体が動かないほど驚く事なんだ。 つまり、幻惑攻撃とはそういう部類の攻撃を指す」
「ですが師匠。それって、その魔剣が無いと使えませんよね?」
「これは、まぁ、例えとして実演したまでだよ、高性能な幻影を見せてくれる古代文明の遺産かもしれない」
ジョーは腰から短剣を取り出し見せた。
「それって古代の文明遺産なんですか?」
「まぁな、正確な事は分からないけど、現代魔術で幻影を見せるって結構大変だろ?」
傍に座っているサイリアに顔を向けるジョー。どうぞ説明をという顔をした。
――サイリアは説明を求められているなと気がついて。それとなしに口を開く。
「ジョーが使った魔剣はかなり高性能なモノなのよ。使用者の動きに合わせて動く幻影、動作や体格、表情まで真似て、動く速度も合わせてくれる。コレって以外に難しくて現代魔術での再現はかなり高度で大量の魔力と術式が必要でしょうね。実際に使われているのは水魔術や炎魔術で術者の姿形を写す鏡のような術しかないから……動きを取り入れるのは難しいの。大抵、術者の姿が立ったままの状態で映し出される程度で動きを加えるのはさらに難しい感じかな……」
「そう言う訳だ。この魔剣はそこを自動的に調整してくれる魔剣なんだ」
ジョーの持っている短剣は、歪な形状という訳では無く、シンプルにして曲線の刃に宝石のようなモノが2つはめ込んである。
「師匠、そんな魔剣を持っていたんですね」
「フフフッ、カティア、これは、さる国王から褒美として頂いたものじゃ!」
ジョーはそれとなく、自慢する。
見せつけるように、さも褒美を受けて貰ったようにしていた。
《※元の持ち主(=アブラート)からの横流れ品を勝手に美化して話しを作っています》
「おぉ、そうなんですか、では、それを弟子に譲ってくれるのですね?」
嘆息しながら、おねだりも忘れない、ちゃっかり者のカティアは手を差し出した。
「おい、だれがあげるか! コレ、金貨何枚で売れると思っているんだ」
「え~、くださいよ。魔剣持ちになってみたいです」
「ダメッ!」
「なんで、ケチ師匠!」
「おねだりでモノが貰えるほど、世の中甘くないんだよ!」
「師匠にはスネークさんがいるじゃないですか!」
「アホか! こういう魔剣なんかは、自分で見つけるか、買い付けるの! 貰い物に頼るな!」
「師匠、弟子が可愛くないんですか!」
「どこに魔剣をあげるほどの可愛さがあるんだ。おねだりしていい年頃でも無いだろ!」
「そうですが、確かに……、わたしは大人になりました。その証も得ています。そこでどうですか? 魔剣は大人の女性、いえ、淑女になった証としてくれるというのは?」
神妙になりカティアはそう言う。しかし、言い方を変えただけで『おねだり』には変わらない。
「どこの世界に“大人になった”お祝いで魔剣をあげるっていう奴がいるんだ。聞いた事無いわ!」
「じゃあ、師匠、わたしの“はじめて”をあげますからッ!」
突然の提案、ジョーに“初めて”をあげる代わりに魔剣を欲しいと言いだす。
メリーダが一番驚きの声をあげて――。
サイリアは意識を持って行かれ――。
ジョーは――止まった。
そして――時が動きだす。
「ばっかやろ―!! そういういうのは大事な時に大事な相手にとっておけ!」
烈火のごとく怒り出すジョー。おませな発言に怒りながら注意した。
その後も――師匠であるジョーと弟子であるカティアは言い争う。
醜い師弟愛であるが、これも師匠と弟子の関係だった。
「ほら、いつまでも騒がない、静かにしなさい!」
サイリアが割って入り、諍いは止まる。
***――閑話休題。
「ムゥゥゥゥゥ……、いざ、ブンシンの術!」
カティアはそう言ってポーズを決めて、魔剣を発動した。
結局、サイリアの意見で魔剣を“貸し”出したのだ。
「わぁ~、カティアちゃんが6人になったよ」
「そう、どうかな、フィフィちゃん?」
「うん、動いてる、動いてる。面白い!」
「結構、楽かも、思った通り動くんだ」
カティアは踊るように動きだすと――遅れる事無く分身も踊る。
「こら、いつまでも遊んでいるな。まだ、講義は続いているぞ!」
ジョーは突然、遊び出した弟子たちに注意した。
幻影も消える。
「「ハ~イ♪」」――弟子達は返事をした。
バタバタと移動し、再び講義を受ける配置に戻っていく。
時間を置いて、準備が整うと――。
「まったく、それじゃあ、続きを言うぞ、幻惑攻撃の対処方についてだ」
ジョーはそう切り出す。




