招待される
冒険者組合の敷地内に到着し、現地で解散をして、各自、普段と同じに帰路につく事が今までの流れだった。
しかし、普段と違う、特にカティアは調子が悪く、そのままメリーダが近くにある屋敷から使用人を連れだって、近くなのに馬車で家に帰っていった。
「フィフィ、そんな心配するな……」
ジョーはとりあえず不安そうにしていた彼女に声をかけた。
彼女も頷いて、そのままトボトボと帰っていく。
(まぁな……いつか、こういう事もあるだろうな……)
ジョーはそう思っているが、どうしようもない事だと考えて――そのままサイリアを連れて冒険者組合の建物内部に入っていく、ジョー達は冒険者組合に寄せられた最新の情報を得るために寄っていく。
そして――その日は、そこで終わった。
***
2日経ち――訓練日19日目。
集まった場所にはカティアが元気よくジョー達を迎えた。
「ジョー師匠、サイリア師匠、おはようございます。世界って気持ちいいですね」
そういって、今までにない爽やかなかけ声を第一声に出して近寄ってきた。
生理痛も終わり、全ての痛みから解放された彼女を縛り付けるモノが無くなった。
(すっごい変わりようだな……)
ジョーは笑顔のまま出迎えたカティアを見て思う。
楽しそうにサイリアとフィフィと話している様子を確認して2日前の『世界なんて滅んでしまえばいい』と言った、同一人物だとは思えなかった。
そうして――いつものようにジョー達の馬車に乗り、訓練場所にむかって町を出ていく。
天気もいいので、爽やかな風が草原に吹いていた。
「そういえば師匠達は4日後の訓練の後はお暇ですか?」
不意に――カティアは馬車を操縦するジョーと、その隣にいて補助しているサイリアに声をかけた。
「どうしたの、急に?」
サイリアは振り向いて答える。
「いえ、お父様が2人を夕食会にご招待したいと……、そう言って伝えるように言われました」
つまり、食事でもどうですか? という歓迎会の誘いだった。
(ほう、カティアの父さん、つまり、この町の領主か……、そういえば始めて会うな)
ジョーは操縦する手綱をひっぱり、馬の速度を落とした。
「そうか、でも急だな……」
「はい、なにやら“話しがある”ような事を言っていました」
「そうか、夕食会か……」
ジョーはそのまま考える。
ジョーとサイリアは領主と面会は無かった。
フィフィの父親と母親とは面識もあり話しをした事があるのだが、領主となればおいそれと合う事も出来ない立場の人間である。
その方からの招待となれば――友達感覚で家に遊びに行くような事は出来ない。
「ジョー、どうするの?」
サイリアは困ったように彼を見た。
「そうだな……、カティア、それってドレスコード的な何かはあるのか……」
「いえ、普段着で構わないと言ってしました」
「なるほど……、それは“いい服装をして来なさい”と言っているのと同じ事だな……」
「エッ、そうなの!」
サイリアが驚く。
「どう言う事ですか、師匠!」
カティアも驚いた。
「おい、お前ら……、私服でいいなら、わざわざ普段着でいいなんて言わないだろ? それって暗に脅しともとれる同調圧力があるわけだ。って、カティアは知らないってどう言う事だよ!」
カティアは貴族の娘である。
当然のように知っていると思っていた。
そのため、ジョーは思わずツッコミが発動する。
「でも、わたしだったら普段着でいいならそのままの格好をします。だって、そう言っているんだもん!」
カティアは当然のように普段着で行くといった。自信たっぷりに。
「でもな、そういう時、……例えば社交会的な何かに出た時はどうしてたんだ?」
「普段は、メリーダが用意してくれた服を着ています!」
その言葉を聞いてジョーは何も言えなくなる。
(なるほど、この国の貴族っていうのは、こういう風に用意された服を着るのか、そう言う事に悩まされない生活な訳だ……)
一般生活をしているジョーとはかけ離れた生活である。
おめかししなければと思う事、それは庶民の発想であると思われた。
「それで、師匠達はどうするんですか?」
再びカティアはジョーとサイリアの顔を覗きこむ。
「……わかった、行くけど……」
仕方なしに返事をした。
「本当ですか! お父様も喜びます!」
「でも、急に了承して大丈夫か? ほら、返事だって4日後だし、それから準備って言うのも……」
ジョーは気づかう、急に話題を振られて、急に決定しては準備期間が足りないのでは?――と感じる。
「あっ、大丈夫です。私が返事をしておきました」
突然に、訊く前に了承をしていたと答えるカティア。
確定しているような言い方にジョーもサイリアも驚いた。
(エッ、なんで、この子、すっごい)――ジョーはそう思う。
サイリアも言葉を失っていた。
「おい、なんで、俺達が断らない前提で話を進めていたんだ」
「え~、だって師匠達は来てくれると信じていましたし、それに可愛い弟子の頼みだと聞いてくれる内容でしたから、それに師匠が買ってくれた服のお披露目をしたいと思ってました」
甘えるような声で答えるカティア。もう来てくれると始めから入れていた言い方だった。
「そうか……、もう、いいや。豪華な夕飯が出るんだろう?」
ジョーは諦めて、カティアの話しに乗る。
ここで「行かない」と駄々をこねても仕方のない事だと思えた。
「はい、それは保証します。サイリア師匠が作る料理とひけを取らない物をお出しすると……、家の料理人の腕は最高ですから」
カティアは自身満々で答えた。
それと同時にサイリアの事もおだてていた。
(こいつは、世渡り上手な所があるよな……)――ジョーは静かに思う。
「もう、カティア、そういっておだてても……」
サイリアは嬉しそうにしていた。
「本当ですよ、師匠の料理は美味しいです。そう言う事を、お父様にお話しています」
「そうかな……、えへへへッ」
サイリアは嬉しそうな声を出した、顔を綻ばせている。
「なぁ、カティア。お前の父親にあった事ないんだけど、どんな人なんだ?」
ジョーは不意に質問をする。
「お父様は、わたしにとてもやさしくて、いッ…つも相談事とか、話しを聞いてくれます。色々してくれるし、最高のお父様です」
カティアは嬉しそうに説明をしてくれた。
言い方に父と娘の親子の絆を感じる。
「いい父親のようだな、仲がいいのか?」
「はい、“お風呂も一緒”だし。寝る前に本を読んでくれます。そして忙しくない時には“一緒に寝て”くれるんです」
「そうか……」
(お風呂も? 一緒に寝る?)
ジョーはカティアの言葉に引っ掛かりを覚えつつも、『まぁ、家庭の事情っていうのもあるからな……』――と、自己納得をして、話しを聞き流した。
年頃の娘の父親とは思えない行動だが、母親のいないカティアにはそういう存在なのだと思う。
「そいつは、楽しみだな……」
ジョーはそう言って、前方の進路を確認して馬車の速度を上げた。
やっとこの章の、終りに向かって動き出す準備ができました。
しかし、年の瀬までかかるとは……。




