始めてをむかえる
「お~い、サイリア、薬草とってきたから、いつもの箱に入れておいたぞ!」
ジョーは布の向こう側にいるサイリアのいる寝る場所に声を掛けた。
「……ありがとう」
かすれるように元気の無い返事が返ってくる。
「具合が悪いなら無理するなよ……。俺達は近くで馬術の訓練に入るから……その前に何かやって欲しい事あるか?」
ジョーは心配そうに声を掛ける。
「うん……それじゃあ……小さい樽に水を汲んできて。ついでに洗い用の布もあると嬉しい」
「わかった、任せろ」
ジョーはそういって素早く行動をする。
――生活水用に溜めている水樽からすぐに用意をして、洗濯してある布をサッと取り出し持っていく。
「用意したぞ、ここに置いておくから……」
「……うん、ありがとう」
「でも、何に使うんだ?」
「……メリーダが熱出ちゃって、汗もでているから身体を拭こうと思って……」
(なんだって、メリーダ“さん”が、そんな事に!)
――ジョーはスグに言葉に反応する。
「なぁ、サイリア……、それは独りでは大変だろ? お前もツライと思うから……、それで、あのな……手伝いが必要だと思うんだ……、ほら、決してやましい意味じゃなくてさ、俺達も、こういう時に助け合うっていう事が大事だと思うんだ。なぁ……だから入っていいか?」
ジョーは“穢れ無き眼”でまっすぐにサイリアの寝室を区切ってある布の先を見ていた。
それは、純粋によって生み出される。キリリとした男前の表情であった。
やましい気持などどこにもない。――ように見える。
まさに劇画調のジョー=カバライがいた。
目的は無抵抗なメリーダの身体を拭く事である。
「……ジョー、私ね、すっごく気分が悪いの……“こんな状態”だから気が立ってるし、それに冗談なんて言って欲しくないの」
遠まわしであるが、否定する声が布越しに聞こえた。
布越しに殺気が放たれているのをジョーは感じる。
「ちょっと待ってくれよ。冗談で言うかよ……。俺達は仲間だろ、誰かが困っていれば助け合うのが真のチームワークじゃないか?」
「そうね、でも“何もしない事”も真のチームワークだと思わない?」
「……いや、思うけど……、でも大変だろ?」
ジョーは希望に賭け、粘った。
「大丈夫だから、さっさと行けッ! 撃つよ!」
ついにキレてしまったような声が聞こえた。
この時期の女性は特にキレやすく情緒不安定な事が多い。
そう――突然、魔弾での攻撃が発生する危険すらあるのだ。
「ヒャアイッ、では、わたくしは弟子達に馬術を教えてきます」
そのままジョーは逃げるように去っていく。
希望は一瞬で打ち砕かれた。
※※※
訓練日――15、16日は事情が絡み近くでの訓練になってしまった。
「まぁ、そんな事もあるさ」と、ジョーは弟子達に告げ。何とか2日間をやり過ごす。
サイリア達が動けない時もある。そうして助け合っていく事で冒険者は生活していく事を教えていった。
ジョーは苦労をしながら弟子達に出来るだけの知識を叩きこんでいく。
師匠の鏡に成るべく、弟子の訓練を見守り、そして厳しく自分を鍛えていった。
そうして――なんとか4日間の連続訓練を終え、帰還する日の17日目事件は起こった――。
カティアが『初潮』を迎えてしまったのだ。
その日の朝方、カティアの悲鳴が洞窟内に広がる。
ジョーは寝ていたが、起きていたサイリアとメリーダがその様子を目撃。
寝ぼけたフィフィも起き上がる。
そうして――女性として始めての生理現象を迎えたのだった。
後で――色々とあって、ゴチャゴチャがあって――そのままベルンの町に帰る事になった。
荷台の隙間でカティアは寝ていた。
毛布を掛けられ、いつもの元気な様子は無かった。
近くにはフィフィが看病のように手を握り、メリーダが心配そうに顔を覗かせていた。
「フィフィちゃん……、もう、世界なんて滅んでしまえばいい……」
そんな不吉な様子で青ざめた表情をしていた。
思いのほか、始めての生理に動揺してしまったカティア。粗相をしてしまったとおもったら――アノ状態であった為に心に傷を負ったのだ。
(おい、随分と不吉な事をいうな……)
ジョーは馬車を操作しながら沢近くの道を進んでいた。
傍らにはサイリアが座っている。
「大丈夫かしら、カティア……」
サイリアは心配そうに後方の荷台を確認した。
「おい、死にはしないから大丈夫だろ? お前だって大丈夫だと分かっているだろ?」
ジョーはそう言ってサイリアの心配を鼻で笑う態度をとる。
「ジョー、分かってないわね。女の子は初めての時には不安で気持ちが落ち着かないのよ」
サイリアは少しムッとした表情を向けた。
「そういうモンなのか?」
「そうよ、バカッ!」
「……そう言われても、俺は男だからなぁ~」
「もう、少しでいいから心配しなさい」
「でもさ……、死ぬ事は無いだろ? 不安な訳で?」
「そうだけど、とにかく不安で、不安で心配なのよ。始めての時って特に……」
(そうなの?)――知識はあるが、正確な事は知らないジョーは『世界なんて滅んでしまえばいい』という、精神状態が理解出来なかった。
仕方なしに――「カティア、大丈夫か?」と、声を掛ける。
「ジョー師匠……もし、わたしが死んだら墓の前に1日3回、“ベルドラン亭”のグレイトベリーケーキをお供えして下さい……」
そんな返事か返ってくる。
(おい、なんでそこまでする、――っていうか、1日3回も墓にいける訳ないだろ! 俺に働くなってことか、その財源の確保はどうする! そんな返事をスグ返す奴が不安な訳ないだろ!)
ジョーはツッコミたくなる。
横に居るサイリアは――“励ましなさいよ!”と、言う風に目で訴えていた。
「おお、そうか、わかったよ、それに紅茶もセットでつけてやるからな。砂糖は何個だ?」
「……3つでお願いします」
「そうか、わかった、用意しよう」
「師匠、それと、“マップルミルフィーパフェ”もセットでついていると嬉しいです」
「そうか……それも用意しやるよ」
「……あと、“完熟マップルパイ”も一緒に……」
「おい、実は元気だろうッ!」
ついにジョーはカティアの請求に耐えられなくなりツッコむ方向に変更した。
しかし――暫しの沈黙の後に――。
「ウッ……、ググッッ、お腹が……、お腹がぁぁ……」
カティアは急に痛がり出した。
「お嬢さま、大丈夫ですか?」、「カティアちゃぁぁぁぁん」
メリーダとフィフィは心配そうな顔を向ける。
(ずいぶんと都合のいい“生理現象”だな)
ジョーはそう思いながら、これ以上の抵抗を止め。
カティアの身勝手な請求に返事をして。同じ様に繰り返し――結局、墓に入った場合には先ほどのセットと朝2回、昼2回の花束の飾りと周囲の掃除、そして夜はサイリアの食事と、ケーキセットをつける約束をした。
そんなこんなの変な約束をして――ベルンの町に帰還した。
男とは女性の生理には無関心であるかもしれない。
まぁ、デリケートな問題であると同時に男性には難しい問題でもある事です。
前にも書きましたが――その部分をどうするか? 異世界だから『生理』なんて無いよで片づけた方がいいのかもしれません。




