麻薬と薬草2
「つまり――ダイマは医術的に使われると鎮静薬になるんだ。痛みを感じさせなくして、気分を落ち着かせる働きがある」
ジョーはダイマの違う側面を言い出した。
中毒症状にはない薬としての効果を説明していく。
「ですが、師匠、さきほど使うと壊れた人間になるって言う話しです。なんで鎮静薬になるんですか?」
「カティア、長く連続して使った場合に中毒症状が出る。1回、2回程度では中毒はすぐに抜ける。さらに、使用する場合が違う。ダイマを原料として使った沈静薬は一時的に効果を発揮するように造られている。特に使われるのは重傷を負った時だ。傷口近くに小袋式の注射を差して感覚を麻痺させ、痛みを和らげる」
「師匠、そこまではわかりました。ですが、その前に回復魔術を使用しておけば良くないですか?」
カティアは手をあげ意見を言う。
「それは間違っていないが……前提の話をしよう。パーティで回復役の人まで重傷を負って逃げてきた。他の者も命が危ない、自身も重傷を負い、血が流れ、ひどい痛みが伴う。仲間を回復させたいが全員が出来る状況ではない。この場合にどうするかという問題だ。実際問題、回復魔術を唱え、傷を治せれば問題無い。しかし、重傷を負った状態で魔術の発動は極めて難しい、痛み、もしくは出血で意識朦朧の状態かも知れないからだ。集中を要する魔術では通常時と違った状態だと発現は難しい事だと習ったはずだ」
「うぅ、確かにそうかもしれません……」
ジョーの意見にカティアは苦い声をあげる。
「そうですね、焦っている時とか、上手く魔術は発動しませんから」
フィフィも納得するように、想像し答えを言った。
「そう言う時にこそ、ダイマの鎮静薬の出番だ。使用後に痛みを無くし、その間に治療をする。そして回復したら他の者の手当てもできるし、逃げる算段もつく。これが冒険者の間で使われている緊急時の対処法だ」
「そうだったんですか……」
カティアは申し訳無さそうに小さくなった。先ほどまでジョーを犯罪者と疑っていたからだ。
「他の使われ方としては、重傷過ぎる場合には痙攣を起こし、意識の無い状態になる奴もいる、そんな相手では治療も難しいのでダイマの鎮痛薬を使って落ち着かせる方法もある」
「そういうのもあるんですね……ふむふむ、勉強になります」
急にキリッとし始めたカティア。
「あぁ、後は農業の分野だと、“ダイマ”をつかって土の改良をする話しもある。実際に連続して同じ作物を作ると不作になったりする事を“連作障害”という。その部分を補うのがダイマの種を植えて成長させ、ある程度の所で焼いて炭と堆肥を混ぜていく焼畑方法をやっている地域もある。ダイマは生命力が強く、どこでもスグに育ち、繁殖していく植物だ。他には茎の部分が強靭で長く育つ為に縄の原料になったりしている」
「ほうほう、それは知りませんでした」――カティアは声をだして感心する。
「ほぇ~……」――フィフィも知らない情報なので同じ様に驚いていた。
「しかし……。そんな有効性も実際に“麻薬”を生み出す植物の認識が強く、世間では敬遠させている。各国も条例や協定によって販売を禁止、もしくは制限をかけている地域もあるわけだ。これは有効性の部分を的確に使える者が少なく、実際は麻薬の原料と見て育てる者が大半を占めるからだ。優れた者が使えば“薬”として、頭のガタが外れている奴が使えば“麻薬”になってしまうからだ。そして人間は欲望に弱く、結局“麻薬”として使われている事が大半だから制限をかけているのだろう……な」
ジョーは下を向いて、寂しそうに現状を話した。
「師匠、わたしは大丈夫です! そのように使う事はしませんからッ!」
カティアは元気よく宣言をする。
「わたしもそうします。安心して下さい!」
フィフィも続くように宣言した。
ジョーは言葉の意味を確認して弟子達の思いを受け取る。――そして笑顔になった。
「よく言った、偉いぞ……。本当はまだ早いと思っていた。こんな話しはしたくないと思っていたが、“賢い”弟子達でよかった」
ジョーに褒められ、2人はモジモジと嬉しそうに照れていた。
ここの部分は多少のお世辞成分も含まれているが――。
「ブリューシュ王国は、町に持ち込む事を禁止している代わりに冒険者の規定の頭数分の鎮静薬の持ち込みは認めている。条件はあるが、つまり予備を含めて2個までは大丈夫なんだ。それ以上だと没収もしくは、販売目的になり、先程カティアが言っていた監獄に行く事になる――」
ジョーはその後の鎮静薬としての麻薬持ち込みの注意点を話していった。
「なるほど……そういうわけですか――」
カティアはそこまで言って――ハッとなる。
「師匠、わたし、さっき、なんで殴られたんですか?」
唐突に先ほどの理不尽な拳骨を思い出した。
「うんッ? それは俺を犯罪者として疑ったからだ」
「だが、しかしッ! 思うのです! その後で褒められました! わたしは良い事を言ったはず! それでは合わせてゼロではないですか? 師匠はもう一度わたしを褒めるべきです。そうすればプラスになります」
カティアはそう喰ってかかる。
自身に落ち度は無いという認識になった。
そして、ジョーに近寄って頭を差し出す。
「さぁ、師匠! 懸命に、そしてやさしく、芸術品を扱うように褒めて下さい!」
カティアはそんな無茶な要求をし始める。
「わかったよ、ほら……」
ジョーは、いままでに無いほどやさしく、丁寧にナデナデをしてあげた。
「偉い、偉いぞ、カティア……」――と、囁くことも忘れない。
大満足のままカティアは暫く悦に入っていた。
「まぁ、はじめから完全に疑っていた訳ではありませんけどね……」
カティアは何気なくそう言うと――[ゴンッ!]――と、ジョーは拳骨を頭に落とした。
「あふゅぅ~ぅ、 し、師匠、痛いです!」
「いま、嘘を言ったな……、そう言う子には罰を与えるのが師匠の役目だ」
***
ジョー達は話し合いを終えて、採った薬草を選別し木箱鞄にいれて戻ろうとしていた。
「そういえば、師匠、なんで洞窟に続く路を塞いでいたんですか? あれで秘密の空間だという感じがしました」
「あれか? それは、単純にな……ここの冷えた風が入ってきて寒いからだ。だから荷物で塞いでいたんだよ。特に冬は厳しい風が入ってくるからだ……」
「……そうですか……」
ひどく現実的な事でカティアは思考が止まる。
特段の事情がある訳では無かった。
「他に無いなら行くぞ」
ジョーはそう言って洞窟の方に戻るように歩き出した。
「そういえば、ジョー師匠、さきほど話した『ダイマ戦争』でどっちが勝ったんですか?」
「えっとな……『エルゲレス王国』が勝ったと思う」
「『チンセイ国』が負けたんですね。やっぱりダイマを使用する国はダメですね!」
「カティア、違うぞ。エルゲレス王国がダイマを持ちこんでチンセイ王国で広めた。わざわざ“ダイマ窟”なる施設もつくって国中に広めた。そしてそれを危惧したチンセイ国が国中にあふれて中毒者をどうにかしようと規制を掛け、焼却処分をしたんだ。それで怒ったエルゲレス王国と戦争になったという話しだ」
「師匠……、それって、どっちが正義なんですか?」
カティアは話しを聞いてこんがらがってしまった。
「どっちも正義なんて無いだろ? 戦争には正義というものが存在しない。勝った方が正義を作っていくんだよ―――」
そのまま――世間話という重い話しをしながらサイリア達のいる洞窟内に戻っていった。
考察。
実際に終末医療に用いられる、モルヒネと言われる薬があります。
ここで注意点ですが、麻薬と薬の製造方法は違います。
大麻と覚醒剤も違うのと一緒です。
危険ドラックとか、脱法ハーブも問題になりました。それによる事故もニュースになりましたね。
冒険者では独りの自制心から成り立っていますが、現実世界の皆様は手を出す事もしないように。
ジョーが説明した効果も大麻と似ています。
実際に麻の布や、縄は園芸コーナーなどで売られていますよね? 地盤改良にも効果がある数千年前から自生している植物が大麻です。
しかし、悪用する者が後を絶たず、制限されてしまった悲しい植物。悪名を着せられています。
ですが――作者は医療大麻を目的とする、あの女優や、あの大学教授的な人たちとは違います。結局奴らは麻薬としてつかっています(怒!)
この話では薬として麻薬成分を使う選択をした冒険者たちの日常の話でした。
医療行為として薬を自前で作る話に近いかもしれません、誘惑とか、悪用とか、出来るんですけどしないという事です。しかし、必要なので使用するよって意味です。
作者内の想定で意識が朦朧としているのに魔術は発動するのか?⇒無理でしょ!?
という思いが強いです。1秒完全回復とか夢ですけど、現実問題、弊害も出てくると感じています。




